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8話 3度目の婚約
しおりを挟むお父様に呼ばれて執務室へ行くと… 執務室にはめずらしく継母のローザ様がいて、来客用のソファセットでお父様と一緒にお茶を飲んでいた。
私もソファに腰をおろすと、ローザ様にお茶をそそいで手渡される。
「ありがとうございます。 ローザ様」
「どういたしまして」
ローザ様から受け取ったお茶をひとくち飲むと… ぬるいうえに茶葉を長く置いたせいで、濃く出すぎて苦くなっていた。 私はお茶を飲むのをやめて、カップをローテーブルに置く。
顔をしかめた私にローザ様はニコリと笑う。 継母に嫌われた私は、嫌がらせをされたのだ。
「それでお父様… 私にお話とは何ですか?」
「ああ、マリオン。 ようやくお前の嫁ぎ先が決まった」
「…え?!」
そんな… 今さらですか?!
「相手はお前よりも少し年上だが… このまま、この家にいるよりは良いだろう?」
「いいえ、私はこのままでも幸せですけど?」
ローザ様とは仲良くなれないけど、弟のティエリーはかわいくて大好きだから。 私は何も問題ないわ。
「そんなことを言うな、マリオン。 せっかくローザが母方の実家と話をまとめてくれたのだから」
「ローザ様が? …母方の実家?」
つまりこれは… 私を追い出すための縁談だわ。
ローザ様を見ると、ニコニコと嬉しそうにほほ笑んでいる。
「そうよ、マリオン。 私の母方の実家がベントレー伯爵家だと知っているでしょう?」
「ええ…」
ローザ様自身は男爵家の3女だけど、自分の実家の話はほとんどしないのに、なぜか母方の実家ベントレー伯爵家のことは、自慢げに話すのよね…
「ベントレー伯爵がお前を娶りたいと言っているのだ。 伯爵と結婚できるなんて、光栄だと思わないか?」
「べ… ベントレー伯爵様… ですか?」
夜会で何度か見かけたことがあるけど… たしか私よりも10歳は年上だわ。
「先方は早くお前に来て欲しいらしい。 こちらも結婚を受け入れる返事をした」
「そんな…っ! 私に何も言わずに話を進めたのですか?!」
「ベントレー伯爵の気が変わらないうちに、早く決めたほうが良いとローザと相談して、婚約契約もかわしてある」
「…婚約契約まで?! 何もかも決めてしまったの?」
この話を前もって私が聞いていれば、2人はきっと私が激しく抵抗すると考えたのね? なんて人たちなの!
「ねえ、マリオン。 弟のティエリーが成長してあなたを負担に感じる前に、少しぐらい年上の相手でも望まれて嫁いだ方が… あなたのためにずっと良いでしょう?」
本当は私のためではなく… 将来、私が弟のお荷物になるとローザ様は心配しているらしい。
「それは……」
まだ弟は小さいから想像できないけれど。 ティエリーが結婚する年齢になれば、未婚の姉が子爵家にいたら困るのは確かだわ。
ローザ様の言い分に私は何も反論できなかった。
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