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5話 自立への道
貧乏男爵家出身でも、学園で学んだ淑女の教養があるマリエルは、子どもたちの家庭教師として、欲しがる貴族や、裕福な商人(平民)はたくさんいると、女性神官たちに教えてもらった。
「あわてて決めたりしないで… どの雇い主のもとで、マリエルさんが働きたいかは、じっくりと考えてから、決めた方が良いですよ?」
「はい、神官長様」
「マリエルさんは働き者で、慈愛にみちた優しい女性だと… 責任をもって私が推薦状に書きますからね?」
「ふふふっ… ありがとうございます!」
『絶対に苦労するから』 …と父親やセインに止められ、以前はマリエルも良い就職先があっても、少しだけ躊躇していた。
だが結婚に失敗し、痛い目にあったマリエルは… そんな甘えはすてることにしたのだ。
マリエルは自分が女神カルミーンの神殿にいることを、手紙を書いてギリスに送った。
「ギリスさんに、少しでも話し合う気があるのなら… 私は始めからやり直す努力を、しようと思ったけれど…」
1週間すぎたが、ギリスからの連絡はない。
マリエルをむかえにも来ない。
『自分は考えを改める気はないから、嫌なら帰らなくても良い』 …とそれが、ギリスの答えなのだ。
「家を出た私が悪いと… ギリスさんはきっとセイン様にそんな言いわけをして、この結婚がうまくいかなかった理由を、すべて私のせいにしているのでしょうね…?」
自立する手段を知らなければ、マリエルは何の希望も夢も無い、ギリスとの冷たい結婚生活を始めていただろう。
「セイン様と実家にも… 報告しないと…」
ああ… きっとセイン様は、私にがっかりするでしょうね…? でも、私はこれ以上間違いを、犯したくはないわ……
何度も大きなため息を、ハァ―――ッ… とつきながら、マリエルは謝罪の手紙を2通、書いた。
「これは… いったい、どういうことだ?!! 1週間前から、マリエルが神殿にいるだと?! なぜモルダール家ではないんだ?!」
王立騎士団の本部で、マリエルの手紙を受け取り、副団長のセイン・ガルフェルト侯爵は、執務室で怒鳴り声をあげた。
「ど… どうされたのですか、副団長?!」
セインの近くにいた、部下の1人がギョッ… と目を剥き、おずおずと怒り狂う上司にたずねた。
高齢で引退間近の騎士団長よりも、厳しくて怖い副団長、セインの前では、部下の騎士たちはみんなこの調子である。
「ギリスはどこだ―――っ?!」
「ギ… ギリスですか? あいつは確か… 昨夜おきた、伯爵邸の強盗事件の犯人を追って、東部に行っていますが? 2,3日は王都へ戻らないと思います…」
「…チッ! 先にギリスから話を聞きたかったが… 仕方ない! 私は神殿へ行く」
「は… はい、副団長!」
すばやく剣を剣帯に装着し、足ばやに執務室を出て行くセインの大きな後ろ姿を、ビクビクッ… と部下は見送った。
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