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14話 王都にて… エドガーside
しおりを挟む田舎の本邸から王都へと戻るとエドガーは溜まりにたまった仕事を再開するが、頭からジュリーの事が離れなかった。
「……」
これからジュリーはどうするのだろう? すぐに嫁ぎ先をさがすのだろうか? 私がジュリーの保護者なら絶対にそうするが……
ジュリーのために私がしてやれることは、良い嫁ぎ先をさがしてやることが1番良いのかも知れないな。
ペン先をインクに浸すとカリカリといくつかの書類に署名をして、インクが渇くようならべて置く。
ふと顔を上げてエドガーの書類を受け取りに来た同僚に声をかけた。
「なぁ、ブリュノ… お前、結婚相手をさがしていると言っていたよな?」
ブリュノは確か子爵家の次男だから。 領地や資産を親から継いではいないが、そこそこ有能で国から受け取る報酬も生活には困らない金額のはずだ。
爵位は無くても夫にするには悪くない相手だ。
たった今、エドガーが仕上げた書類に目を通しながら、同僚のブリュノは問いかけに答える。
「ああ、兄夫婦になかなか子供が出来ないから、叔父に早く結婚して後継者問題を解決してやれと急かされているんだ」
「跡継ぎの子どもか… 私の幼馴染なら……」
見るからに健康そうなジュリーなら大丈夫だろう。 すぐに可愛い後継者を産んで…くれ……る…
エドガーはそこまで考え、同僚の子を産むジュリーの姿を想像した。
生意気そうに笑いながらエドガーを揶揄っていたジュリーが、聖母のように慈愛に満ちた笑みを浮かべ我が子を抱く姿だ。
そんなジュリーの隣で肩を抱く同僚のブリュノが………?!
「おっ? 何だエドガー! 誰か良い令嬢の心当たりがあるのか?」
同僚は書類から視線を上げ、執務机の椅子に座るエドガーにキラキラと期待の眼差しを向ける。
「……っ」
むしょうに腹が立ち、エドガーは同僚を殴りたくなった。
「エドガー? いるなら焦らさず紹介してくれよ。 私は本当に困っているのだからな」
「いや、ダメだ。 お前にあの娘は合わない」
ダメだ! ジュリーにはもっと最高の男でないと。 その辺にいる平凡な奴など絶対に紹介できない!
ブリュノが平凡と言うが… エドガーと同じく将来有望な王太子の側近である。
「エドガー… そんなことは実際に相手と会ってみなければ、わからないさ?」
「いや、私にはわかる。 お前が弟のジョナサンよりも美形なら望みがあったかも知れないがな」
「おいっ… エドガー! 私を揶揄う気か? それとも喧嘩を売っているのか?」
同僚ブリュノは顔を赤くしてムッ… とする。
確かにブリュノはジョナサンよりも美形とは言えない。
「少なくともジュリーには私と同等の能力を持ち、私と同等の資産が当然あって…… それから社会的地位も同等で…」
「そんな奴はお前自身しかいないだろう?」
エドガーのような優良な花婿候補はほとんど婚約者がいるか結婚している。
「うう~んんっ……」
エドガーは腕組みをし唸り声をあげて考えに耽っていると…
「だったらその令嬢、私に紹介しろ!」
どこから2人の話を聞いていたのか… 王太子マクシミリアンがエドガーの執務室へ入って来て口を挟んだ。
「マクシミリアン殿下…?」
エドガーはあわてて立ち上がりブリュノと一緒に頭を下げてお辞儀をする。
「エドガー、お前が選んだ令嬢なら… 私の側妃にしてやっても良いぞ?」
王太子は冗談で言ったのだがエドガーは本気でムッ… と腹をたてた。
「いえ、殿下…」
確かにマクシミリアン殿下なら裕福で能力もあり、顔も王妃ゆずりで美形だが… 側妃だなんて。 ただでさえジュリーは、ジョナサンに妹と浮気されて傷つけられたのに。
「お前が私にすすめるなら、一度その幼馴染の令嬢とやらに会ってみよう」
「殿下、お戯れはやめて下さい! 私は側妃などすすめてはいません」
う゛う゛っ… 面倒な人に聞かれてしまったぞ? 考えようによっては側妃になるのは、女性にとって栄誉かもしれない。
だがジュリーはそんなことで喜ぶ女性ではない。
エドガーは敬愛する王太子も殴りたくなった。
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