婚約者を妹に譲ったら、婚約者の兄に溺愛された

みみぢあん

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13話 妹アリアーヌ

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 夕食を終えて自室に戻り就寝しゅうしんの準備をしていたジュリーのもとへ、妹のアリアーヌが会いたがっていると侍女のキャロルが呼びに来た。 
 

「アリアーヌは神殿で倒れたのでしょう? 今夜は静かに休んで、私と話すのは明日ではだめなのかしら」
 今日は私も久しぶりにエドガーと馬で遠乗とおのりに出かけたから、疲れているのに。
 早く休みたいわ。

 ジュリーは自分で脱いだドレスを椅子にかけ、寝衣しんいに着替えながらキャロルにたずねた。 

「申し訳ありません、ジュリーお嬢様。 アリアーヌお嬢様にも、そうお伝えしたのですが… どうしてもとおっしゃられまして」
 長女のジュリーには付けていないのに、両親は妹のアリアーヌには身体が弱いという理由で、専属せんぞく侍女のキャロルをつけて何から何まで世話をさせているのだ。

「わかったわ。 キャロル、あなたは下がって良いわ」
 これ以上、断ろうとすればキャロルが困るわね。 素直に私がアリアーヌの我がままを、聞いてあげれば済むことだわ……
 
「はい、失礼します!」
 ホッ… とした顔でキャロルが部屋を出て行く。


「キャロルも大変ねぇ~…?」
 アリアーヌは悪い子ではないのだけれど… 私も含めて、みんなで甘やかし大切にしすぎたせいで、自分が我がままを言っていると自覚が無いところがあるから。 

 子供のように邪気じゃきがなくアリアーヌは純粋なのだ。
 だがその純粋さが、ジュリーは時々、残酷ざんこくに感じることがある。

 はしたなく出そうになった大きなあくびをかみ殺しながら… ジュリーはベッドに広げた淡いブルーのローブを羽織はおる。
 髪を片がわに寄せて三つ編みにしてリボンで1つにまとめると、アリアーヌの部屋へゆく。



 ノックはしないで扉を開きジュリーは妹の部屋へ入る。

 サイドチェストに置かれたランプの明かりで照らされたベッドに、アリアーヌは上半身を起こし、しょんぼりとうつむいていた。


「……っ」
 本当にアリアーヌは綺麗だわ。 まさに“妖精姫”ね? 姉の私でさえ息をのむほど美しいと、時々見れてしまうのだから。
 ジョナサンが夢中になっても仕方ないのかもしれない。

 美しいレースの装飾が使われた寝衣しんいを身に着けたアリアーヌは、熟練じゅくれんの職人に作られた精巧せいこうな妖精の人形のようだ。
 それほどアリアーヌの美しさは人間離れしていた。

「あっ… お姉様!」
 ジュリーの気配にきずいたアリアーヌは、パッ… と顔を上げた。

 淡い金の髪がゆれてキラキラと輝く。
 ランプの明かりが白い肌に反射して、アリアーヌ自身が身体の内から琥珀こはく色の光を放っているような錯覚さっかくをする。

 ベッドわきの椅子に腰を下ろし、思わずアリアーヌに見惚れていたジュリーは苦笑を浮かべた。

「キャロルを困らせたそうね? だめよ。 使用人たちにあまり我がままを言っては」
 妹のことを思うなら、もっと厳しくしなければいけなかったのに… 結局、子供のように泣かれるのが面倒で、私は今まで我がままを受け入れて来た。

 だからアリアーヌは、自分が甘やかされて受け入れられるのは当然だと思いながら、成長してしまった。
 昼間、厳しくアリアーヌを叱責しっせきした神殿の神官のように受け入れてくれない相手に出会うと、とても弱くなるのだ。


「我がままなんて、言っていないわ。 私はただ、ジュリーお姉様にジョナサンとのことをもう一度、謝りたいと思っただけよ」
 綺麗なアリアーヌの顔が曇る。
 昼間、神殿で神官に説教されたことがアリアーヌはよほど辛かったのだろう。

「ジョナサンのことは気にしてないわ」
 それは本当のことよ。 エドガーに会ってなぐさめてもらったから… 

「私… ジョナサンをお姉様から盗んだわけではないわ?」

「ええ… わかっている」
 ああ、神官様に泥棒猫どろぼうねこあつかいをされたのね? でも私にはどうでも良いわ。
 だからもうアリアーヌあなたがジョナサンと結婚するなら… 私が今までしてきたアリアーヌあなたの面倒を見たり、守ったりする役目は終わりにする。
 これからは夫となるジョナサンがアリアーヌの世話をするのだから。
 これで私はアリアーヌあなたという重い荷物をおろせるわ…

 ジュリーはジョナサンに面倒な妹の世話を丸投げするのだ。

「お姉様はいつも忙しそうにしているでしょう? だからお姉様がいない時にジョナサンと一緒にお茶を飲んでいただけなのよ。 だって私たちは幼馴染おさななじみだから」

「そうね、ジョナサンは昔から私よりもあなたと仲が良かったわね…」
 
「お姉様ならわかってくれると神官様にも伝えたのに… 頭ごなしで怒られて…… 本当にひどい言いかただったの!」
 涙をポロポロとこぼすアリアーヌ。

 いつものパターンでアリアーヌは泣いた自分をジュリーになぐさめて欲しいのだ。

 妹の望みを理解していてもジュリーは…

「ハァ~~… フゥッ…!」 
 大きなあくびが出そうになり、ジュリーは眠そうに口を手のひらで隠す。

「ごめんなさいアリアーヌ。 私はもう休みたいから失礼するわ」
「え? お姉様…?」

「昼間、気分転換てんかん遠乗とおおのりへ出かけたから、とても疲れているの… お休みなさい、アリアーヌ」


 素早くアリアーヌのひたいにキスをして、ジュリーはさっさと退散たいさんした。





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