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12話 温かい胸2
しおりを挟むセイフォード男爵邸の前までエドガーに送られジュリーが遠乗りから戻ると… 何か問題でも起きたのか、屋敷では使用人たちが普段よりも慌ただしくしていた。
ちょうど通りがかったジュリーと同年代の使用人を捕まえ、たずねてみると…
「まぁ、ジュリーお嬢様。 お帰りなさいませ」
「ずいぶん騒がしいけれど… 何かあったの?」
「はい、その… 実はアリアーヌお嬢様が神殿で倒れられて。 お医者様の診察を受けていらっしゃるところです」
使用人はひどく気まずそうにジュリーの質問に答えた。
「まぁ! アリアーヌが神殿で?」
「はい… あの… 奥様と一緒に神官様に…… その…」
そこで使用人は言葉を濁す。
婚約解消で落ち込んだジュリーが自分の部屋に閉じこもり、1週間出て来なかったことを使用人たちも知っていて… そんな傷心を抱えたジュリーを気づかっているのだ。
「ああ… 神殿で“婚姻の儀”をおこなう花嫁が、アリアーヌに変わったことを神官様に報告をしに行って倒れたのね?」
なるほど。 お母様もアリアーヌも部屋に閉じこもっていた私には何も言わず、2人で黙って神殿へ行ったのね。
普段ならそういう面倒ごとは身体が弱いアリアーヌの代わりに、姉の私にやらせるのに。
今回はさすがにお母様もアリアーヌ自身にやらせることにしたのだわ…
「はい、それでアリアーヌお嬢様が神官様にひどく叱られたと… 一緒に付き添ったアリアーヌお嬢様付きのキャロルに聞きました」
「そう… ありがとう。 引き止めてごめんなさい」
「いいえ、お嬢様。 失礼します」
使用人はジュリーに頭を下げ、その場を去って行く。
「……」
私の婚約者だったジョナサンと恋人になったことを、たぶんアリアーヌは神官様に厳しく説教され、責められたのね。 それでショックを受けて倒れた。
でもそれは、当然のことだわ。 結婚前だったとはいえ、私とジョナサンは何年も前から婚約していたのだから、そんな裏切り行為は許されないことだもの。
ハァ―――ッ… とため息をつきジュリーは自分の部屋に戻る。
自室に入りパタンッ… と扉を閉めた後に、ふと思う。
「この話を聞かされたのが昨日だったら… 私は海よりも深く、さらに落ち込んでいた。 でもエドガーと再会し慰められたおかげで……」
私は今、冷静に受け止めることが出来ているわ。
ジュリーは腕を交差し自分を抱きしめ、エドガーの広い胸の温もりを思いだす。
「本当にありがとう、エドガー… 大好きよ」
エドガーのことを思い出すとジュリーの顔に自然と笑みがこぼれた。
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