婚約者を妹に譲ったら、婚約者の兄に溺愛された

みみぢあん

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41話 婚姻の儀2

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 突然あらわれたセイフォード男爵は、娘のジュリーの結婚を許さないと大声で怒鳴り、『婚姻こんいんの儀』を中断させた。
 それまで神殿内にあふれていた、お祝いムードが一転し… 大きな不安につつまれる。


「ジュリー!! 父親の私の許しもえずに、こんなところで何をやっているのだ! 今すぐ私と屋敷に帰るぞ―――っ!」

 儀式の前に花嫁のジュリーが、マクシミリアンのエスコートで静々しずしずと進んだ通路を、怒り狂った男爵がジュリーを連れ戻そうと… 祝福の場を土足どそくみにじるように、ガツッ…! ガツッ…! とあらあらしい靴音を立てて祭壇さいだんへ向かう。

 参列者席の真ん中にある通路を、悪魔のような形相ぎょうそうで進む男爵の姿を見た参列者たちは……
「おお… 男爵様… ジュリーお嬢様をどうかお許しを! どうかジュリーお嬢様をお許しを…!」
「女神様、男爵様に慈悲じひの心をあたえて下さい!」

 顔を強張こわばらせた参列者たちは、不安そうに男爵を見守りながら、口々に祈りを捧げた。

「男爵様がジュリー様の結婚をお認めになるよう、女神様… どうか御力をお貸しください…!」
 参列している使用人たちにとってセイフォード男爵は、自分たちの雇い主であり… 領地民にとっては、自分たちの領主である。
 子供の頃から見守って来たジュリーを、祝いたい気持ちは大きいが、男爵に逆らうこともできないのだ。

「ああ… どうかお気を静めて、いつものおだやかな男爵様に戻ってください!」
 何より、普段は良い雇い主で、良い領主でもある男爵を、参列者たちは儀式に参列することで裏切ってしまったという自覚もあり、罪悪感もある。
 みんな複雑な思いを抱いていて、男爵の暴挙ぼうきょを止める者はいなかった。


「…っ?!」
 父親の怒鳴り声を聞き… 今まさに誓いの言葉を口にしようとしていたジュリーは、ハッ… と息をのみ、怒鳴り声がした背後を振り返った。
 ベールしで見てもわかるほど… 怒りで顔を真っ赤にした父親が、神殿広間の入り口からまっすぐ自分に向かって歩いてくる。

「ああ、やっぱり… ダメなのね…?」
 私は… エドガーと結婚は… できないのね…?!

 父親の姿を見た瞬間、ジュリーは青ざめる。
 娘のジュリーにとって父親の男爵は、自分を守る壁であり… 同時に越えられない壁でもあった。
 過去に不満があって逆らった時も… 結局、最後は父親の意のままにされて、ジュリーは従うしかなかったからだ。

 胸を満たしていた婚姻の喜びは、きりとなって散り… 大きな失望感で、ジュリーの瞳からジワリ… と涙がにじみ出す。

「ジュリー… 心配しないで、私にまかせてくれ」
 隣に立つエドガーから長い腕がのびて来て、ジュリーは腰を引きよせられる。

「エドガー… 私… ずっとあなたが好きなの… あなたと結婚するのが、子供の頃から夢だったわ…」
 でも、長女だから… やっぱりダメなのね… あきらめなくてはいけないのね……


 追い詰められたジュリーは、自分の願いを切々せつせつと口に出し… エドガーに初めて伝えた。






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