43 / 55
41話 婚姻の儀2
しおりを挟む
突然あらわれたセイフォード男爵は、娘のジュリーの結婚を許さないと大声で怒鳴り、『婚姻の儀』を中断させた。
それまで神殿内にあふれていた、お祝いムードが一転し… 大きな不安につつまれる。
「ジュリー!! 父親の私の許しもえずに、こんなところで何をやっているのだ! 今すぐ私と屋敷に帰るぞ―――っ!」
儀式の前に花嫁のジュリーが、マクシミリアンのエスコートで静々と進んだ通路を、怒り狂った男爵が娘を連れ戻そうと… 祝福の場を土足で踏みにじるように、ガツッ…! ガツッ…! とあらあらしい靴音を立てて祭壇へ向かう。
参列者席の真ん中にある通路を、悪魔のような形相で進む男爵の姿を見た参列者たちは……
「おお… 男爵様… ジュリーお嬢様をどうかお許しを! どうかジュリーお嬢様をお許しを…!」
「女神様、男爵様に慈悲の心をあたえて下さい!」
顔を強張らせた参列者たちは、不安そうに男爵を見守りながら、口々に祈りを捧げた。
「男爵様がジュリー様の結婚をお認めになるよう、女神様… どうか御力をお貸しください…!」
参列している使用人たちにとってセイフォード男爵は、自分たちの雇い主であり… 領地民にとっては、自分たちの領主である。
子供の頃から見守って来たジュリーを、祝いたい気持ちは大きいが、男爵に逆らうこともできないのだ。
「ああ… どうかお気を静めて、いつものおだやかな男爵様に戻ってください!」
何より、普段は良い雇い主で、良い領主でもある男爵を、参列者たちは儀式に参列することで裏切ってしまったという自覚もあり、罪悪感もある。
みんな複雑な思いを抱いていて、男爵の暴挙を止める者はいなかった。
「…っ?!」
父親の怒鳴り声を聞き… 今まさに誓いの言葉を口にしようとしていたジュリーは、ハッ… と息をのみ、怒鳴り声がした背後を振り返った。
ベール越しで見てもわかるほど… 怒りで顔を真っ赤にした父親が、神殿広間の入り口からまっすぐ自分に向かって歩いてくる。
「ああ、やっぱり… ダメなのね…?」
私は… エドガーと結婚は… できないのね…?!
父親の姿を見た瞬間、ジュリーは青ざめる。
娘のジュリーにとって父親の男爵は、自分を守る壁であり… 同時に越えられない壁でもあった。
過去に不満があって逆らった時も… 結局、最後は父親の意のままにされて、ジュリーは従うしかなかったからだ。
胸を満たしていた婚姻の喜びは、霧となって散り… 大きな失望感で、ジュリーの瞳からジワリ… と涙がにじみ出す。
「ジュリー… 心配しないで、私に任せてくれ」
隣に立つエドガーから長い腕がのびて来て、ジュリーは腰を引きよせられる。
「エドガー… 私… ずっとあなたが好きなの… あなたと結婚するのが、子供の頃から夢だったわ…」
でも、長女だから… やっぱりダメなのね… 諦めなくてはいけないのね……
追い詰められたジュリーは、自分の願いを切々と口に出し… エドガーに初めて伝えた。
それまで神殿内にあふれていた、お祝いムードが一転し… 大きな不安につつまれる。
「ジュリー!! 父親の私の許しもえずに、こんなところで何をやっているのだ! 今すぐ私と屋敷に帰るぞ―――っ!」
儀式の前に花嫁のジュリーが、マクシミリアンのエスコートで静々と進んだ通路を、怒り狂った男爵が娘を連れ戻そうと… 祝福の場を土足で踏みにじるように、ガツッ…! ガツッ…! とあらあらしい靴音を立てて祭壇へ向かう。
参列者席の真ん中にある通路を、悪魔のような形相で進む男爵の姿を見た参列者たちは……
「おお… 男爵様… ジュリーお嬢様をどうかお許しを! どうかジュリーお嬢様をお許しを…!」
「女神様、男爵様に慈悲の心をあたえて下さい!」
顔を強張らせた参列者たちは、不安そうに男爵を見守りながら、口々に祈りを捧げた。
「男爵様がジュリー様の結婚をお認めになるよう、女神様… どうか御力をお貸しください…!」
参列している使用人たちにとってセイフォード男爵は、自分たちの雇い主であり… 領地民にとっては、自分たちの領主である。
子供の頃から見守って来たジュリーを、祝いたい気持ちは大きいが、男爵に逆らうこともできないのだ。
「ああ… どうかお気を静めて、いつものおだやかな男爵様に戻ってください!」
何より、普段は良い雇い主で、良い領主でもある男爵を、参列者たちは儀式に参列することで裏切ってしまったという自覚もあり、罪悪感もある。
みんな複雑な思いを抱いていて、男爵の暴挙を止める者はいなかった。
「…っ?!」
父親の怒鳴り声を聞き… 今まさに誓いの言葉を口にしようとしていたジュリーは、ハッ… と息をのみ、怒鳴り声がした背後を振り返った。
ベール越しで見てもわかるほど… 怒りで顔を真っ赤にした父親が、神殿広間の入り口からまっすぐ自分に向かって歩いてくる。
「ああ、やっぱり… ダメなのね…?」
私は… エドガーと結婚は… できないのね…?!
父親の姿を見た瞬間、ジュリーは青ざめる。
娘のジュリーにとって父親の男爵は、自分を守る壁であり… 同時に越えられない壁でもあった。
過去に不満があって逆らった時も… 結局、最後は父親の意のままにされて、ジュリーは従うしかなかったからだ。
胸を満たしていた婚姻の喜びは、霧となって散り… 大きな失望感で、ジュリーの瞳からジワリ… と涙がにじみ出す。
「ジュリー… 心配しないで、私に任せてくれ」
隣に立つエドガーから長い腕がのびて来て、ジュリーは腰を引きよせられる。
「エドガー… 私… ずっとあなたが好きなの… あなたと結婚するのが、子供の頃から夢だったわ…」
でも、長女だから… やっぱりダメなのね… 諦めなくてはいけないのね……
追い詰められたジュリーは、自分の願いを切々と口に出し… エドガーに初めて伝えた。
600
あなたにおすすめの小説
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。
毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。
【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない
かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、
それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。
しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、
結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。
3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか?
聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか?
そもそも、なぜ死に戻ることになったのか?
そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか…
色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、
そんなエレナの逆転勝利物語。
旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう
おてんば松尾
恋愛
王命により政略結婚したアイリス。
本来ならば皆に祝福され幸せの絶頂を味わっているはずなのにそうはならなかった。
初夜の場で夫の公爵であるスノウに「今日は疲れただろう。もう少し互いの事を知って、納得した上で夫婦として閨を共にするべきだ」と言われ寝室に一人残されてしまった。
翌日から夫は仕事で屋敷には帰ってこなくなり使用人たちには冷たく扱われてしまうアイリス……
(※この物語はフィクションです。実在の人物や事件とは関係ありません。)
私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。
ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。
しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。
もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが…
そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。
“側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ”
死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。
向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。
深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは…
※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。
他サイトでも同時投稿しています。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました
あおくん
恋愛
父が決めた結婚。
顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。
これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。
だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。
政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。
どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。
※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。
最後はハッピーエンドで終えます。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる