婚約者を妹に譲ったら、婚約者の兄に溺愛された

みみぢあん

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42話 婚姻の儀3 エドガーside

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 ジュリーの父、セイフォード男爵が祭壇さいだん前まで来ると… 老齢ろうれいの女性神官が一歩前に出て、厳しい口調で説教を始めた。

「セイフォード男爵。 神聖な婚姻こんいんの儀式の最中に怒鳴り声をあげて、中断させるとは… これは女神様への冒涜ぼうとくですよ?」
 怖気おじけづいた参列者たちの中には、抗議の声をあげる者はいなかったが… 神官だけは毅然きぜんとした態度で男爵に注意する。

「男爵家当主の私が、許可を出していない結婚を、娘が勝手にしようとしているのだから! 儀式を止めるのは当然だ!!」

「セイフォード男爵!」

「これは男爵家内の問題だから、神官殿は黙っていてくれ!」 
 男爵はジュリーに手をのばす。 

「嫌よ、お父様っ…!」

「ジュリー…!」
 ここまで大騒ぎをするほど、男爵がジュリーに執着しているとは?! もっと人の目を気にする人だと思っていたが… 大きな誤算ごさんだった。

 エドガーはおびえるジュリーの前に立ち、自分の背中でジュリーを守り男爵の手をはばむ。

「ファゼリー伯爵! 娘への求婚はさっき断ったのを忘れたのか?」 

「先ほどは男爵に言い忘れましたが… 先にジュリー嬢から私の求婚を受け入れると、良い返事をもらっていました」

 男爵はしつこくエドガーの背中に隠れるジュリーに手をのばした。
「伯爵位を持つ者が、こんな小賢こざかしい手段を取るとは… さぁ、ジュリー! 屋敷に戻りなさい!」

「嫌です…っ! 今までのようにお父様の命令を、聞きたくありません」 
 ジュリーは震える手で、エドガーの背中にしがみついた。
  
「男爵、これはジュリー嬢の意志です。 王都の貴族管理局も私たちの結婚の許可を出しています! いくらあなたが父親でも… 王国法で守られている、成人したジュリーの結婚をする権利を、おかすことはできませんよ?」
(貴族管理局→出生、婚姻、死亡の届出など、貴族籍関係の管理をする王国の機関)

 エドガーは正論で男爵を説得しようとしたが… 興奮した男爵は聞く耳を持たなかった。

「ジュリーは私が育てた、私の娘だ!」

「セイフォード男爵、あなたにはもう1人アリアーヌという娘がいるのを忘れたのですか? それにもうすぐ、私の弟ジョナサンがあなたの息子になるのですよ?」

「そんなことは関係ない! ジュリーは男爵家を守るために、私が一から厳しく仕込んで育て上げた… 私の立派りっぱな後継者だ! 甘やかされて育った、ジョナサンなどとは比べ物にならない!」

「男爵…」
 これは困ったぞ? ジョナサンに関しては否定できない。

 不謹慎ふきんしんにもエドガーは、胸の中で笑ってしまう。
 当のジョナサン本人が祭壇広間の入り口で、あわてた様子でこちらをながめているのが、エドガーの視界に入る。

「……」
 ジョナサンのやつめ! 恐らく私が伯爵邸へ送った使いの報告を聞き、ジョナサンは男爵邸へ行き… 私たちが婚姻の儀を秘密裏に進めていたことを、男爵に漏らしたのだろう。
 クソッ…! 予定通りの事後報告となっていれば、もう少し穏便おんびんに事を運べたはずなのに… 結局は参列者たちの前で、男爵を説得しなければならなくなったぞ?

「何をグズグズしている、ジュリー! 帰るぞ!」
 エドガーのすきねらい、男爵はふたたび手をのばして、ジュリーの手をつかもうとする。

 だが、咄嗟とっさにジュリーが身体を引き… 男爵はジュリーの手ではなく、花嫁の長いベールをつかんで引っ張った。
「やめて…っ! お父様…っ…」

 エドガーが男爵の手首をつかみ、ギリギリとめ付け、ジュリーからベールをはぎ取るのを阻止そしした。
 
「男爵! 花嫁のベールを取るのは私の役目です」
 クソッ…! 怒りで頭に血がのぼった男爵は、人前でジュリーをはずかしめても平気なのか?!


「旦那様…! もう、止めて下さい! あなたは娘の幸せを、ご自分の手でつぶす気ですか?! 恥ずかしくないのですか?!」
 美しい花嫁姿の娘を見ても、ほこらしいとめるのではなく… 自分に服従ふくじゅうさせようと、乱暴に手を出す夫に、男爵夫人は耐えられなくなり、声をあげた。


「今さら何を言っているのだ! 貴族に生まれたのだから、家を守るために個人の幸せなど後回しにして、当然ではないか!」







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