私のお金が欲しい伯爵様は離婚してくれません

１４話 誤解

　シェンストーン侯爵家の執事に、亡くなった祖父バスティアンの弁護士を内密ないみつに呼ぶよう指示を出す。
　アデルとクロヴィスは、これからのことを話し合うために、侯爵に執務室を借りることにした。


「アデル、今日は父上の執務室を借りたが…　しばらくこの屋敷でくらすのだから、お前用の執務室を用意したほうが良くないか？」
　弁護士がとうちゃくしだい、遺産相続にかんする問題で、アデルはいそがしくなる予定である。

「え？　でも…　それでは私がとてもずうずうしい娘だと、侯爵様に悪く思われないかしら？　だって侯爵家でクロヴィスの立場が、私のせいで悪くなるのは嫌だもの…」
　クロヴィスと侯爵様はあまり親子仲が良くないから…　少しでも私の印象を良くしておかないといけないと思うから。

　侯爵家の歴史を感じさせる執務机の小さな傷を、もじもじとアデルは指でなでながらクロヴィスを上目づかいで見る。
　クロヴィスは笑ってアデルの肩をポンッ…　とたたいた。

「そんなこと気にするな！　父上は息子のオレには特別厳しいが、意外と他の人間には寛容かんようなんだ…」

「そうなの？」　

「そうだよ！」
　めんどうそうにクロヴィスは、自分のアゴを指でポリポリとかく。

「……」
　クロヴィスにだけ厳しい？　ああ、侯爵様は1人息子のクロヴィスに期待しているから、厳しいのね？　クロヴィスの複雑な気持ちが良くわかるわ。
　お祖父様はふだん、私にとても甘かったけれど…　でも事業に関係することを私に教えるとき、『アデル、この法律はかんぺきに記憶しろと教えたのに、お前の頭はかざり物なのか？』　…と悪魔のように厳しかった。
　きっと侯爵様も、お祖父様と同じなのだわ。

　腕ぐみをするクロヴィスの肩につかまり、アデルは反対がわの手をのばすと…　背の高いクロヴィスにとどくよう、背のびをして頭をよしよしとなでた。

　クロヴィスは頭をなでられ困惑こんわくの表情をうかべる

「アデル…　お前はオレに何をやっているんだ？」

「あなたの気持ちが理解できるから…　あなたを慰なぐさめているの！　だって…　あなたにこんなことが出来るのは私ぐらいでしょう？」
　口が悪いあなたは、周囲から怖がられているから。
　意地悪だけど、本当はぜんぜん怖くないのにね？

「……」
　ニコニコとほほ笑み頭をなでるアデルに、クロヴィスは口をはんぶん開いて…　何とも言えないびみょうな顔をする。



　とうとつに、ガチャッ…！　と背後で執務室の扉がひらいた。


「あっ！」
「…おっと！」

　背伸びをしたまま振りかえろうとして、アデルはよろけてしまい…　　とっさにクロヴィスは両腕で抱きしめ、華奢きゃしゃな身体をささえる。


「…っ？！」
　扉をあけた侯爵は抱きあう2人を見て、何も言わずパタンッ…　と扉を閉めた。


「あら、誰が来たの？」
　よろけて背後を見れなかったアデルはクロヴィスにたずねると…　クロヴィスは渋しぶいい顔をして答えた。

「たぶん、父上は誤解ごかいしたと思う…」
「侯爵様？」

　アデルが首をかしげていると、ふたたび、ガチャっ…！　と扉がひらく。


「まだ孕はらませるなよ」
　クロヴィスにボソッ…　と注意をうながすと、侯爵はすばやく扉を閉めてたち去さった。


「なっ…？！」

「え？　なに？　侯爵様はなんと言ったの？」
　うまく聞き取れなかったアデルはクロヴィスにたずねると…　クロヴィスの顔はみるみるまっ赤にそまってゆく。

「////////////っ…」

「ねぇクロヴィス、どうしたの…？」