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15話 バーンウッド伯爵邸の朝 ピエールside
しおりを挟むバーンウッド伯爵家存続のために、父の命令でピエールは裕福な商人バスティアン・ガーメロウの孫娘アデルと、見合いをすることになった。
『僕には婚約者のストナル子爵令嬢、シャルロットがいます!』
シャルロットが学園を卒業し、成人したら結婚する予定だった。
『結婚前で良かったではないか?』
『待って下さい、父上!』
『いいか、ピエール? そんなにシャルロットが気に入ったのなら、愛人にすれば良い… ただし、バスティアンに知られて婚約が破談にならないよう、シャルロットの存在はしっかりかくしておけよ!』
父が知人にさそわれ、次々と手を出した事業がすべて失敗し、伯爵家は大きな借金をかかえてしまう。
代々伯爵家が所有してきた美術品や、亡くなったピエールの母の宝石まで売り払っても、借金が大きすぎて全額をかえすまでにはいたらなかった。
『そんな… 父上!』
『絶対にアデル嬢を逃すなよ? 金がなければお前の大切なシャルロットに、ドレスの1枚も買ってやれないのだぞ? ピエール、それでも良いのか?!』
『……っ』
苦汁の決断をせまられ… ピエールは先代伯爵の命令にしたがいアデルと婚約し、バスティアン・ガーメロウにかくれてシャルロットと秘密の恋人関係を続けてきたのだ。
……だが、
ようやくアデルの祖父が病死し、シャルロットをバーンウッド伯爵邸にむかえ入れることができて、ピエールは幸福の絶頂にいた。
「ねぇ、ピエール? あの女の絶望した顔… 何度、思いだしても笑えると思わない?」
バーンウッド伯爵夫人のベッドに横たわり、シャルロットはとなりで寝ころがるピエールに、クスクスと笑いかけた。
「ふふふっ… シャルロット、昨日のアレがそんなに気に入ったのか? 君は悪い女だな?」
アデルを殺すのは、もっと先にする計画だったが… シャルロットに早く伯爵夫人の部屋で暮らしたいと泣きつかれて… 僕はこれ以上、最愛の人を待たせることができなかった。
「悪いのはあの女よ! ずうずうしくあなたと結婚したいと、あの女が言い出さなかったら、私の赤ちゃんはきっと、死ぬこともなかったわ?」
シャルロットは悲しそうに、たいらな自分のお腹をなでる。
「そうだな…」
シャルロットが学園を卒業したら、すぐに結婚する予定だったから… 卒業の日をもくぜんにして… 愛しあう僕たちは初夜まで待ちきれず、なんども愛を交した。
だが、父上の命令で僕はアデルと婚約が決まり、シャルロットにそのことを伝えたら… シャルロットは大きなショックを受けて、僕の子を流産してしまった! 僕たちは不幸なことに、そのとき初めてシャルロットが妊娠していたことを知った。
流産で身体をこわしたシャルロットは、学園の卒業まぎわに療養生活をおくることとなり… 社交界で病弱な娘だとレッテルをはられ、ピエール以外の誰かに、嫁ぐことさえできなくなったのだ。
「本当にアデルは、自分の身分もわきまえず… 生意気な女だった」
婚約者となり何度かガーメロウ邸をおとずれたとき… 僕よりもアデルのほうが、ずっと裕福な暮らしをしていることを見せつけられ、憎くてたまらなかった!
そして、子供をうしないシャルロットが絶望しているときに… 何も知らず無邪気に笑うアデルが大嫌いだった! だから僕は甘い言葉で誘惑し、アデルを天国から地獄へ、僕の手でたたき落としてやろうと決めたんだ!
「ねぇ、ピエール? あの女… どんな顔をして、死んだと思う?」
「昨日見た時よりも、もっと絶望した顔に決まっているさ!」
「ふふふっ… いい気味だわ!」
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