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27話 求婚
しおりを挟む普通なら1年以上はかかる離婚の手続きが、驚くほど早く完了した。
クロヴィスの父シェンストーン侯爵が、何人かの友人に相談し手続きが進むよう助力してくれたからである。
晴れて独身に戻ったアデルは、シェンストーン侯爵家からガーメロウ邸へ戻ってきていた。
「お祖父様、ただいま戻りました…」
アデルは漆黒の喪服姿で、祖父がいつも仕事をしていた、執務机のいすをなでた。
祖父が愛煙していた葉巻のにおいがしみつく執務室にいると… 急にさびしさを感じアデルの瞳に涙がにじむ。
指先で涙をぬぐっていると、ガチャッ… と扉が開きクロヴィスが入って来た。
「アデル、護衛の騎士をあと2人雇ったほうが……」
顔を見てすぐにクロヴィスはアデルが泣いていたのだと気づき… 話すのをやめて、アデルを抱きしめる。
「ダメね、私ったら… そろそろ喪服をぬがないといけないのに」
お祖父様が亡くなってから、あっというまに1年がすぎてしまったわ… いつまでも喪中ではいられないのに… 不意に涙があふれてしまう。
「嫌なら喪服のままでも良いさ…」
「そうは行かないわ… 私にはいろいろな計画があるから」
いつまでも泣きながら、屋敷に閉じこもってはいられないもの…
アデルは顔をあげてクロヴィスを見あげる。
「計画?」
「私と結婚して、クロヴィス!」
「……っ」
クロヴィスはぽか~んと口を開けて、アデルを見下ろす。
「お願いクロヴィス… 私と結婚して!」
お願い! お願い! お願い! お願い…っ! クロヴィスお願い!!
胸をドキドキさせながら、アデルは懇願した。
「お前は…っ!」
クロヴィスはギュッ… と眉間にしわをよせる。
「お願いクロヴィス! 私… あなたが好きなの! たぶん、ずっと好きだったの!」
クロヴィスのことを意識しはじめてから、私は注意深くクロヴィスのことを見るようになったわ。
そうしたら、クロヴィスはたくさんの女性たちから、熱い視線を送られていることに気づいた。
私はすごく女性たちに嫉妬して… それから、あなたを誰かに盗られたくないと思ったの!
「アデル… 求婚と求愛は男にさせないとダメだ」
「え…?」
「そうしないと… 結婚したあと、夫となった男は妻が自分に惚れているからと、調子にのって傲慢になるからな?」
クロヴィスは険しい表情でアデルの頬を大きな手のひらでつつむと、説教を始める。
「ク… クロヴィス…?!」
えええええぇぇ~…?! クロヴィス、ここで説教するの?! 返事は? 結婚するの? しないの?
「いや… 今はそんな話はどうでも良いか……」
「クロヴィス?」
「…アデル」
クロヴィスはアデルの唇にキスを落とし、苦笑する。
「…っ?!」
キス? 唇にキス?!
アデルの顔は耳まで赤くなる。
「お前… オレの見せ場を奪った自覚はあるか?」
クロヴィスはもう一度、アデルの唇に長めのキスをする。
「…?!」
んんん…? 見せ場を奪った? どういう意味?
唇がはなれると、アデルは訳がわからずキョトン… とクロヴィスを見あげる。
プハッ… とクロヴィスが吹き出した。
「もう少し待ってくれたら、オレが先に求婚したのに!」
「あら… あなたも私と結婚する気だったの?」
確かに最近のクロヴィスは… あまり意地悪を言わなくなった。
そのかわり、甘い言葉で揶揄われることが多くなったけど…? んんん?
クロヴィスはいつも本気で口説いていたが… 経験の少ないアデルは、恋愛に鈍感で気づかなかった。
「結婚するに決まっているだろう? オレ以上に、お前のことを大切にできる男が、他にいるか?」
「いないわ…」
「まったく、お前は…」
ブツブツと文句を言いながら、クロヴィスはアデルにキスをする。
喪があけてから、クロヴィスは礼儀正しく跪き、アデルに求婚する気でいたが… アデルに先をこされて、少しだけ不機嫌になった。
だが…
『あなたが誰かに盗られないか心配で… 待てなかったの!』 …とアデルにかわいい言い訳をされて、すぐにクロヴィスは上機嫌になる。
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