無口な年下王太子は私のことが好きらしい

みみぢあん

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23話 目が覚めて

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 ふと目覚めると、私は知らない場所で寝ていた。

 あまりにも寝心地が良くて、もう一度まぶたを閉じて眠ってしまおうかと…
 ふぅ~… とため息をつくと……

 名前を呼ばれた。


「…オディリア嬢?」

「……?!」
 声が聞こえた方に視線を向けると… 私を呼んだ人物がななめ上から、心配そうに私の顔をのぞき込んでいた。

「オディリア嬢?」

「……ひゃぁっ!」
 あっ! ランベール殿下??!

「気分は悪くないか? 水を飲みたくないか?」
「……水?」

 飲みたくないかと聞かれたら、急に飲みたくなりコクリとうなずいた。
 
「わかった。 少し待ってくれ」
 殿下はニコリと笑い、私の側から離れて行く。


 カチッ… コポコポッ… とグラスに水を注ぐ音が聞こえた。 水音を聞いたとたん、私は自分がすごくのどかわいていることに気が付いた。

「…っ」
 のどがカラカラだわ… 早くお水が欲しい。

 身体を起こそうとするけれど、重くてだるい身体に力が入らず、モタモタとしてしまう。

 見かねた殿下はベッド脇のサイドチェストにグラスを置き、私が身体を起こすのを手伝ってくれた。
 そのうえベッドヘッドと背中の間に、クッションを2つはさんでくれる。

「あ… ありがとうございます」
「婚約者なら当然だよ」

 のどかわいてかすれた声で礼を言うと… 殿下は何となく嬉しそうに答え、チェストからグラスを取り私の口へ運んでくれる。

 さすがにグラスから水を飲ませてもらうのは恥ずかしくて、グラスを受け取ろうとしたけれど、寝起きのせいか手に力が入らず、ブルブルと震えてしまい上手く持てない。
「あっ…」

「大丈夫だよ。 このままオレの手から飲んで…」

「んっ……」
 恥かしかったけれどのどかわきに耐えられず、殿下に甘えて水を飲ませてもらった。

 グラスの水をゴクゴクと飲み干してハァ―――… とため息をつくと、私は満足して殿下が背中に挟んでくれたクッションにもたれかかる。

「……ありがとうございます」
 意外だわ。 ランベール殿下はこんなに親切な人だったのね? 知らなかった。

 婚約者の私以外に愛する人がいるから、それを理由にマルセル殿下と同じ種類の男性だと、一括ひとくくりにまとめてはいけなかった。

 殿下はグラスをチェストに置き、ベッド脇の椅子に腰をおろした。

「君は倒れてから2日眠り続けていたんだ。 だから体力の限界が来ていたから… ちょうど起こそうと、思っていたところなんだ」

「……2日もですか?!」
 私はそんなに眠っていたの?! 

「医療室で君は気を失い、それでオレは母上が暮らすこの白鷺宮エグレットへ連れて来たんだ。 さすがに婚約者でも、まだ未婚だからオレの王太子宮にはつれて行けなかったから…」

「ここは白鷺宮エグレット… ジャクリーヌ妃殿下の?!」

「君の侍女スージーに家の事情を少し聞いたよ。 それでダドンヴィル侯爵邸に君を帰せば、また何か無理強いをされるかも知れないと、そう判断したけど… 勝手にすまない」

「いえ、そんな… 私の面倒を見て下さりありがとうございます」
 ううっ… 無理矢理、濃い化粧をされたことまで殿下は聞いたのね? ああ、恥ずかしいわ! 自分の家族に私がそんな扱いを受けていると知られるなんて…

「うん。 婚約者だから当然だよ」
「申… 申し訳ありません! 私はなんてご迷惑を……」

「迷惑なんてないさ。 むしろオレの方が謝らないと… 知らなかったで済まされないことだから」

 ランベール殿下の顔に後悔が浮かんでいる。

「そんなことは何も…」
「いや、君が倒れたのはオレの責任が大きいんだ」
「責任…?」

 ハァ―――… と殿下は大きなため息を1つ吐き、自分の顔を手のひらでゴシゴシとこすると、私の顔を真正面から見つめ口を開いた。


「君が倒れたのは、毎日少量のを盛られていたからなんだ」

「……っは?!」
 一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

 王太子の婚約者という立場上… 私が王宮でとる食事の管理は徹底されている。 お茶も信頼出来る人がれた物しか口にしない。
 そうやって今まで気を付けて来たから、幸運なことに私はで害されたことがない。

 だからを盛られたと聞き、ピンッ… とこなかった。

「君は毎日、王妃陛下の所へお茶を飲みに行っていただろう?」
「はい」
「その時のお茶や菓子の中に仕込まれていたんだ」

「まさか… ああっ!! もしかして王妃陛下が体調を崩して公務ができなくなったのは、毒のせいなのですか?! 王妃陛下は大丈夫ですか?!」

 私はてっきり王妃陛下が体調を崩したというのは、単なる言い訳で、私が何かで怒らせたから…
 私に仕事(罰)をあたえるための口実だと思っていた。


「いや、違う。 が君にを飲ませるために、毎日お茶に呼んでいたんだ」

「……は?」
 王妃陛下が? なぜ? 私は陛下に毒を盛られるほど悪いことをしたの?

「君は何も悪くないよ。 たぶんオレへの復讐ふくしゅうだと思う」
 ランベール殿下は苦しそうに顔をゆがめた。

復讐ふくしゅう?!」
「マルセル兄上が失脚しっきゃくして、オレが王太子になったから」

「…それはマルセル殿下自身の落ち度で、ランベール殿下は何も悪くないわ」

「王妃陛下にとってマルセル兄上をおびやかすオレは、昔からずっと『悪』だった」
「『悪』…って… そんな……」

 …でも、『あの王妃陛下ならやるかも知れない』 …と私の脳裏にチラリと浮かび、ランベール殿下の話を強く否定できない。

 いきなり私に大量の仕事を押しつけ、朝から晩まで休みなく働かせるような人だから。


「オレも幼い頃から何度も王妃陛下にを盛られて、生死の境を彷徨さまよった。 おかげで成長が遅れてこの身体だ!」

 殿下は悔しそうに自分の胸をこぶしでドンッ! …と叩く。 私は殿下の言葉に驚いて目をいた。

「殿下が… 毒を盛られていた?!」

「オレはけして病弱な身体で産まれたわけではないよ。 母上はむしろ、オレを強い身体で産んでくれたから、王妃陛下に盛られた毒に耐えてここまで生き残った」

 ハッ! と息をのんだ。
 衝撃的なランベール殿下の秘密を知り、悲鳴を上げてしまいそうな恐怖を押さえるために、自分の唇を手のひらでおおった。

「……っ」
 ランベール殿下がそんなに危険な状況に、追い込まれていたなんて!
 そんな事実… 初めて知ったわ。 …確かにその手のことは王家の威信いしんに関わるから、極秘扱いにされるけど。

 病弱で目立たない王子というのが、ランベール殿下の印象だったけれど… それはすべて王妃陛下の陰謀だった。

 私は言葉を失う。

「本当にすまない。 君が王妃陛下に毒を盛られたのは…………」

 それだけ言って殿下は沈鬱ちんうつな表情で黙りこんでしまう。

「…殿下は私が毒を盛られたのは、王妃陛下の復讐ふくしゅうだとおっしゃっていましたが… なぜですか? 私を殺しても妃候補が変わるだけで、殿下に大した影響は無いわ」

「それは……」
「他にも何かあるのですか? どうか教えて下さい、殿下!」

 殿下はひどく憔悴しょうすいしたようすで項垂うなだれ、ボソボソと私の問いに答えた。


「…オレが王太子になる時に、国王陛下父上に頼んだんだ。 君を… オレの婚約者にして欲しいと」







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