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11話 ペイサージュ伯爵
しおりを挟む小さな衣装部屋の奥を蝋燭の灯りで照らしてみると、質素な木製の扉があらわれる。
「あったわ… これがそうね?」
扉を見つけてもソレイユは開くのを躊躇して、扉に耳をピタリとくっ付け… 扉の向こうがわのようすを探ってみた。
「ぁぁぁぁ… ぁっぅぅぅぅ―――…」
間違いなく、苦悶に満ちた声が聞こえて来る。
「どうしよう…!」
夫となる男性とはいえ、結婚前に寝室へ入るなんて、気が引けるわ…? 誰か呼ぶにしても、部屋の外へ出るなら、一度服を着なければいけない。
「…ぅぅぅっ… くぅぅ―――…」
「…っ?!」
困ったわ…?
おろおろとソレイユが考えている間にも… ずっと伯爵の苦しそうな声が、扉のむこうがわから聞こえて来る。
「ダメだわ! 放ってはおけない…」
ほんの少しようすを見るだけなら!
ソレイユはベッドサイドに行き、分厚いガウンを寝衣の上に羽織り、しっかりとベルトを腰でむすぶと、ふたたび衣装部屋へもどる。
扉の横のフックにかけてあった鍵を取り、木製の扉の鍵穴に差し込みカチリッ… と小さな金属音を立てて開く。
扉は隣室の衣装部屋へとつながっていた。
隣室の衣装部屋をぬけると、ソレイユの予想通り伯爵の寝室に出る。
驚いたことに暖炉に火が入り、薪が赤々と燃えていた。
暑い夏が終わり、季節は短い秋が始まったばかりで、まだまだ昼間は暑いと感じる日があるのにだ。
「うう…っ?!」
部屋に入ったとたん熱くなったわ… 分厚いガウンをぬぎたいけれど… ここは、汗をかいても我慢よ!
恐らく伯爵様は魔獣との戦いで負ったケガのせいで、体温の調節を身体が上手くできなくて、いつも寒気を感じているのね?
ソレイユは病気で亡くなった母親の、看病をしていた経験から… 暖炉に火が入れられている理由を、すぐに理解した。
「くぅ… ううう――…」
また、ベットから苦痛に満ちた唸り声が聞こえる。
「伯爵様… おかわいそうに」
ジェランが『夜は酷くなると』 …と言ったのは、こういうことなのかも知れない。
ソレイユは手に持っていた蝋燭の炎をフッ… と吹き消し、燭台をテーブルに置く。
暖炉の炎で照らされた明るい室内を静かに歩き、伯爵のベッドへと近づく。
伯爵は驚くほど長身で、手と足ががっしりとしていて長く、ケガで弱ってはいるが逞しい身体をしていた。
上半身は裸だが、腰から下には下衣をはいている。
赤い顔でソレイユはホッ… と胸をなでおろす。
「……っ」
男性の裸の胸を見るだけで、ドキドキして恥ずかしいのに… 伯爵様が全裸だったら、私は伯爵様の顔を見ることも出来なかったわ?!
肩までの黒い髪に、まぶたを閉じているから、伯爵の瞳の色は分からないが… 思わずソレイユが見惚れるほど美しい男性だった。
「……?」
左目が隠れるように、黒い布で覆い隠しているのが、気になるわ…? 恐らく左目は潰れていて、その傷ついた目が夜になると痛み、伯爵を苦しめているのね?
ソレイユはもっと伯爵を観察してみると… 黒布で隠した左目の下から… 頬、顎にかけて、痛々しい傷痕が残っていて、そのまわりには禍々しい痣がある。
「……あっ!」
以前、ブレイヤールのおじ様に聞いたことがる! 魔獣は呪いの毒を持っていると。
だから魔獣との戦いでケガを負った騎士は、傷が塞がった後も、魔獣が放った『呪毒』が傷の奥深くへと染み込み、穢れを放ち身体の内側から騎士を蝕み痛めつけるのだと…
間違いなく伯爵は、魔獣の『呪毒』に侵されている。
これこそ、義母デゼールがソレイユに仕掛けた結婚の落とし穴なのだ。
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