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12話 ペイサージュ伯爵2 アンバレside
しおりを挟む魔獣との戦いでケガを負い、魔獣の呪毒に侵された、ペイサージュ伯爵アンバレは… 終わりが見えない苦痛の日々に疲れ切っていた。
「うううっ―――…」
ああ、頭が痛くてたまらない。
痛みが強過ぎて身体に力が入らず、自力で腕も上げられない…! 恐ろしく冷たい氷の刃で、頭を串刺しにされているようだ!!
ああ、痛い、痛い… もう耐えられない! 元部下たちにどれだけバカにされようと、私は死にたい!
明日こそは… 身体が動くようになったら、この惨めな命を絶ってやると、アンバレはずっと死ぬことばかり考えていた。
「伯爵様…? 伯爵さま?」
ベッドのはしに座り、『誰か』がアンバレに呼びかけながら腰を下ろす。
「…っくうう……?」
若い女性の声?! 誰だ? 誰かいる?!
誰がいるのか確かめたくても、アンバレの左目を中心に侵された魔獣の呪毒の穢れのせいで… 激しく痛んでまぶたを開くことさえ、思い通りにならない。
「伯爵様…」
そっとアンバレの腕に触れ… 『誰か』はもう一度、呼びかけた。
「…っ!」
…ああ、『誰か』が、私の腕に触れている?! 夜になると私の顔に浮かび上がる、呪毒紋に怯え… 長く仕えてくれている使用人たちでさえ、私の顔を見たとたんに悲鳴を上げて逃げ出すというのに…?!
「伯爵様… 私に何か出来ることはありませんか?」
温かい手で『誰か』は、アンバレの腕をもう一度なでてから… アンバレが聞き取りやすくなるよう、耳元に唇を寄せてそっとたずねた。
「……」
久しぶりに聞く… 私をいたわる、優しい女性の声だ?! どうしてこんなところに、女性がいるのだ?!
醜い傷痕と呪毒紋が顔半分に浮き出た、アンバレに近づく女性は、使用人を含めて誰もいない。
自分の容姿が他人に不快感をあたえることを、理解していたアンバレは、久しぶりに聞いた怯えを含まない穏やかな声音に、動揺し戸惑っている。
「伯爵様… 聞こえていますか?」
「……っ!」
さっきよりも、耳のすぐ近くで声がする! この女性は、私の顔に唇を寄せて話しているのか?! 私の顔が怖くないのか?!
「伯爵様…?」
「…誰… だ…? くうっ―――…!」
クソッ…!!
一言、言葉を発しただけで… アンバレは激痛に襲われうめき声を上げる。
『誰か』はハッ… と息をのむ。
「伯爵様… 申し訳ありません… お話するのさえ、お辛いのですね?! 私ったら、なんて愚かなの…っ!」
『誰か』は動揺し、アンバレに声をかけたことを、深く後悔しているようすだ。
「くううぅぅ―――…」
そんなことはない! 私は声をかけられて、嬉しかった! 悲鳴ではない、優しい声が聞けて私は本当に嬉しい…! ああ、クソッ…! そう伝えたいのに…っ…!
『誰か』にそう言ってやりたくて、口を開きかけたが… アンバレの頭を襲う激痛のせいで、苦し気なうめき声しか出なかった。
「お邪魔して、申し訳ありません… 私は自分の部屋に戻ります」
もう一度、『誰か』はアンバレの耳元まで唇を寄せて、謝罪する。
「ううっ… くぅ…!」
ダメだ! 行かないでくれ!! お願いだ! 顔は呪毒に侵されて、醜くても… 私の心は健康なんだ!! 顔を見て悲鳴をあげられるのが嫌で、他人を遠ざけて来たが、本当は人が恋しかった!
力と気力をふりしぼり、自分の腕におかれた、『誰か』の手に触れようとアンバレは腕を上げた。
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