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34話 オルドナンスの神殿
しおりを挟むソレイユが毎朝通う、王宮街にあるペイサージュ伯爵邸近くの神殿に比べると… オルドナンスの女神ルージュの神殿は、こぢんまりとしていて素朴な雰囲気があった。
神殿に入り最奥にある祭壇の前で、ソレイユとアンバレはならんでひざまずき、そっと目を閉じて軽く祈りを捧げる。
顔を上げてソレイユは隣にひざまずくアンバレに微笑みかけると… アンバレは人の気配に気づいて、ソレイユのななめ後ろを見ていた。
「…?」
アンバレの視線の先を、ソレイユも振り返って見てみると… 生成りの質素な神官服を着た、中年の女性神官が微笑みながら立っていた。
神官服の形から、その女性が神殿の神官長だと、ソレイユもすぐにわかった。
「お待ちしておりました、ペイサージュ伯爵様、ソレイユ嬢」
「ええ?!」
私でさえ、このオルドナンスの神殿をおとずれようと決めたのは、今朝なのに?! なぜ、この人は知っているの?!
不思議がっていると… すぐに神官長がソレイユの疑問に答えてくれた。
「今朝、王宮街神殿のコンプレス様から、連絡をもらいましたから」
王宮街神殿のコンプレスとは、ソレイユに紹介状を書いてくれた、神官長のことである。
「今朝… ですか?!」
私たちが来る前に、何時間もかけて、王宮街の神官長様がこの地まで使いを送って下さったということ?!
驚くソレイユの肩に、アンバレは笑いながら手をのせ、口を挟む
「先に『連絡用の幻鳥』を受け取っていたのですね?」
アンバレが神官長にたずねると… 神官長はアンバレと話しながら、ニッコリと笑ってソレイユにうなずいた。
「はい、恐らくソレイユ嬢なら、今日か明日じゅうには、オルドナンスまでいらっしゃるだろうと…」
「アンバレ様? 『連絡用の幻鳥』とは何ですか?」
聞き慣れない単語を聞き、ソレイユはアンバレに首を傾げながら質問した。
「そうか! ソレイユは魔法とは無縁の暮らしをしていたから、知らないのか…? それなら、自分の目で見た方が早いな!」
上着の内ポケットからアンバレは、魔法文字が刻まれた、手のひらサイズの金属の板に、グリーンの魔石がはめ込まれた魔道具を出す。
「魔法…?!」
確かに私の実家のジャルダン子爵家もだけれど… 近隣の貴族たちにも魔法を使う人はいなかったから。
子供の頃、リベルテが内緒で見せてくれたことがあるだけで… ブルイヤールのおじ様が魔法は間違えると、すごく危険だからと、カルムお兄様やリベルテが安易に使うのを禁じていたし?
「ああ…」
板についた魔石にアンバレが魔力を込めると、板から緑色にキラキラと輝く半透明の小鳥がふわりと浮かび上がり、音もなくソレイユのまわりを飛び始めた。
「まぁ、これが魔法? なんて可愛らしい…?!」
「この魔法の鳥なら、時間も気象条件も関係なく飛ばせるから、ここからペイサージュ伯爵邸まで、お茶を一杯飲み終わるまでには届くはずだ」
「何て便利なのかしら?!」
自分のまわりを、ふわふわと飛ぶ幻鳥をうっとりとソレイユはながめた。
「確かに便利だが… 送り手と、受け取り手の両方が魔法を使えないと、成立しない連絡方法なんだ」
「あらら… それは残念ですね…」
しょんぼりするソレイユを、かわいそうに思ったアンバレは…
「幻鳥はあまり魔力は使わないから、少しでも魔法の素質があれば、君にも使えるのだが… 今度、試しに練習してみようか?」
「でも、私は子供の頃に判定を受けて、まったく無いといわれましたし…」
「あまり知られてはいませんが、大人になるにつれて、多少魔力が強くなる人もいますから、もう一度、調べてみましょうか、ソレイユ嬢?」
ソレイユとアンバレの微笑ましい会話を、それまで黙って聞いていた神官長が、助け舟を出した。
パチンッ… と手のひらをたたいて、ソレイユは瞳を輝かせる。
「まぁ! よろしいのですか?!」
「判定用の魔道具に、手をかざすだけですから、簡単に出来ますしね」
「嬉しい!」
無邪気に瞳をキラキラと輝かせるソレイユに、思わず神官長とアンバレは顔を見合わせた。
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