すてられた令嬢は、傷心の魔法騎士に溺愛される

みみぢあん

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87話 慰霊祭

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 倒壊とうかいした魔法騎士団本部は、聖女ブリュイによって綺麗に浄化されたあと、ようやく再建され… 完成した記念式典とイフリートとの戦いで亡くなった騎士たちの慰霊いれい祭が行われた。

 最初にイフリートが王都に出現した、転移魔法陣があった場所に騎士たちの名をきざんだ慰霊碑いれいひが置かれ、聖女ブリュイと王宮街神殿のコンプレスによって、鎮魂ちんこんの祈りが捧げられる。


「イフリートを前にしても、一歩も引かなかった勇敢ゆうかんな騎士たちよ! 我々はほこり高き騎士たちの戦いとその名を慰霊碑にきざみ、後世まで語り継ぎ、けして忘れない!!」
 王太子クリストフはイフリート戦で使った竜輝石りゅうきせきの杖をかかげると、氷結の魔法をつかい、空気中の水分を氷結させてキラキラと輝く、花びらのような氷の粒を降らせた。

「おお… なんと美しい…」
 参列者たちは自分たちの頭の上でふわりっ… と蒸発して消えてゆく、氷の花びらを見あげ感嘆かんたんの声をあげる。
 イフリートが放った暗く青い炎に、その身を焼かれながら戦った騎士たちの魂に向けて、王太子からの献花けんかだった。 


「わぁ… 兄上の魔法はすごいなぁ…」
 ペイサージュ伯爵夫妻の前にある王族たちが座る席で、9歳になったばかりの第2王子が無邪気に瞳を輝かせ、氷の花びらを見あげていた。

「ふふふっ…」
 驚くほど大人びて見える第2王子様も、こうして見ると、やっぱりまだ子供なのね? なんだか少しホッ… としたわ…

 第2王子の声がソレイユとアンバレの耳にも届き、思わず2人は微笑んだ。

 以前なら第2王子の隣に、母親の側妃や第2王子を王太子に押していた勢力の中心人物である、母方の祖父コラスィオン公爵がピッタリとくっ付いていた。

 だが、王都に張られた結界をくぐり、騎士団の地下にあった転移魔法陣でイフリートを招き入れた2人の新人騎士が、コラスィオン公爵家の次男ディアレとその従兄弟プーベルだったことから… コラスィオン公爵家は、王国を滅亡の危機にさらした責任を問われ、公爵家の領地と資産はすべて没収ぼっしゅうされ、公爵位も剥奪はくだつされた。

 本来なら公爵家の直系筋は、全員処刑されてもおかしくなかったが、第2王子の血縁者という理由で、母親は廃妃はいひとなり公爵とその家族は、平民の地位に落とされるだけで済まされる。

 危うかった王太子クリストフの地位も、コラスィオン公爵家が無くなったことで、今では揺るぎないものとなった。


 ソレイユがふと参列者席を見渡すと、ブルイヤール夫妻とカルム、カルムの妻シュクルの姿を見つけた。

「……」
 おじ様も、おば様も… カルムお兄様もシュクルお姉様も… みんな寂しそうな顔をしている。
 絶縁ぜつえんしたと言っても、リベルテは血のつながった家族だもの、悲しんで当然よね…? それなのに、リベルテの婚約者だったリュンヌの姿が、どこにも無い。
 やっぱりあの子は来なかった!

 ソレイユの表情は自然と険しくなり… そんな妻のようすに気づいたアンバレはひそひそと声をかけた。

「ソレイユ、どうした?」
「アンバレ様、リュンヌが来ていません」
「ああ…」

「……」
 私が結婚してから、この2年でいろいろなことがあった。
 元婚約者のリベルテが亡くなり… それに、お父様も馬から落ちて亡くなった。
 お義母様はリュンヌのお腹の子を、ジャルダン子爵家の後継者にするつもりでいたけど… 亡くなったお父様は、連れ子のリュンヌを養子にする手続きをしていなかった。
 お金もかかるし… たぶんお父様は、手続きが面倒だったのね?

 ジャルダン子爵が亡くなり… 妻のデゼールとその連れ子リュンヌは、ジャルダン子爵家と縁が切れ、相続問題は血縁者のソレイユに回って来た。
 受け継ぐ物など、何も残っていないことを知っていたソレイユは、アンバレに代理人を立ててもらい、お金のかわりに土地と屋敷で借金を支払い、子爵位を王家に返した。

 そしてイフリート戦で亡くなった騎士たちの、遺族に支払われる補償金を、リベルテの両親ブルイヤール夫妻が交渉して、リベルテの子を身籠みごもった婚約者のリュンヌに支払われるよう手配したのだ。

「あの人たち… いくら何でも、薄情すぎるわ」
 だからこそ、リベルテの婚約者だったリュンヌは、 この慰霊いれい祭にいなければ、いけないはずなのに…? 補償金だけもらって、知らない顔をするなんて… 本当に信じられない!!

「ソレイユ、すべて終わったことだから、忘れなさい… 君が気にする価値はないよ?」
 ムッ… と腹を立てる妻を、アンバレは穏かになだめた。

「ごめんなさい、アンバレ様… こんな時に腹を立てるなんて… この場に相応ふさわしくないですね…」
 すぐにソレイユは機嫌を直して、アンバレの大きな手をにぎり、慰霊祭に集中する。


「……」
 アンバレは子育てに奮闘する、優しい妻には何も言わなかったが… リュンヌが慰霊祭に、姿をあらわさなかった本当の理由を知っていた。 

 ソレイユの義母デゼールは、ジャルダン子爵家でおぼえた贅沢ぜいたくを止められず、リベルテの死で手に入れた多額の補償金を、アッという間に使いきってしまい… お金に困ったデゼールは娘のリュンヌが出産を終えると、アンティケール侯爵に愛人として売ったのだ。


 
 慰霊祭が終わり、続けて魔法騎士団の本部が完成した記念式典が行われ… その席でイフリート戦で生き残った騎士たち全員に褒賞ほうしょうが与えられた。

 亡くなった騎士たちの遺族へ補償が済むまではと、生き残った騎士たちは断わり続けていたが… ようやく区切りをつけてそれぞれ褒賞ほうしょうを受け取った。

 魔法騎士団の副団長カルムは、アブレミディ男爵位と領地を与えられ… ペイサージュ伯爵アンバレは爵位が上がり侯爵となる。







※次回で最終話です。ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます☆彡
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