【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、元婚約者を諦められない

きなこもち

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婚約解消後2

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 クロエはアリオンとセリーナと別れた後、自分の屋敷に戻った。


 暗い顔で帰ってきたクロエを見て、両親や侍女達は何があったのかと心配したが、しばらく1人にしてと自室に入り鍵をかけた。


 もはや、なぜという疑問すら浮かばなかった。


 2人の様子を見て察するに、アリオンはクロエに嫌気が差していたのだ。


 そんなときにセリーナが現れ、心変わりしてしまったのだろう。


 恋愛ごとに疎いクロエでも、それくらいのことは分かった。


 アリオンは優しく、忍耐強い人間だった。それはクロエもよく知っている。
 そんなアリオンに婚約解消という決断をさせてしまったのだ。

 きっとひどく悩んだに違いない。


 セリーナがアリオンに色目を使っていたとしても、根本的な原因はきっとクロエだ。


 大好きなアリオンを苦しめていたのが自分だということが耐え難かった。


 怒りの感情は消え、ただただクロエ自身が消えてなくなりたくなった。。。


 ◇


 それからのクロエは、

『婚約解消を取り消してほしい』

 などとは既に考えなくなっていた。

 ただただ、アリオンに自分をこれ以上嫌ってほしくない、クロエとアリオンのかけがえのない思い出を、嫌な思い出にしないで欲しい、クロエの願いはただそれだけであった。


 覚悟を決め、自室から出ると、両親の元へ向かった。

「お父様、お母様、お話があります。」

 ただならぬ様子の娘を見て、ブライトン夫妻に緊張が走った。

「話とは何だ?クロエ」

「アリオン様との婚約の話はなかったことにしてください。」


 クロエがはっきりと言い切ると、サリーが戸惑いながら聞いた。


「クロエ、それはなぜ?あなた達はすごく仲が良かったじゃない。何より、あなたはアリオンが大好きだったはずよ。」


「2人で話して決めたことです。友人としてかけがえのない存在でしたが、夫婦にはなれないと気づいたのです。お互いに、相応しい相手が別にいると考えました。」


 クロエは、アリオンから婚約解消を言い渡されたことも、セリーナの存在も両親には伝えなかった。

 これ以上悪い方向に進みたくなかったし、アリオンが責められるのは耐え難かった。

 サリーは、クロエがアリオンを友人としてではなく、婚約者として愛していたことを知っていた。2人の間に何かがあり、こじれにこじれてこのようなことになってしまったのだろう。

 サリーが懸念していたことが、現実に起きてしまった。


「正式な婚約ではありませんでしたが、あちらのご両親にも婚約解消したいとの旨を、書簡でお伝えいただけますか?」

 クロエは、あくまでもこちらから婚約解消を申し出たということにしたかった為、両親にそのようにお願いした。


「・・・私たちは、お前の意思を尊重する。元々政治的意味合いは薄い婚約だったしな。だが、本当にいいのか?もう少し時間をかけて考えた方がいい。」

 クロエの父はそう諭したが、クロエはきっぱりと断った。

「いえ、私ももう17になりました。自分のことは自分がよく分かっています。時間をかける必要はありません。」

 そこまではっきりと言われてしまうと、ブライトン夫妻は娘の言う通りに動かざるをえなかった。

 クロエに言われた通り、婚約解消の意向があると書いた書簡を、ベルファスト家へ送った。


 ◇


 ベルファスト家に届いたブライトン家からの書簡は、ベルファスト夫妻を非常に驚かせた。

 アリオンはすぐに両親に呼ばれた。

「アリオン!ブライトン家から、婚約解消したいと便りが届いたぞ!?全くお前はどうしてもっと上手くやらないんだ!!ブライトン家の娘を上手く扱っておけば、このようなことにはならなかったのに。正式な婚約ではないから婚約破棄にはならんし、こちらはただ受け入れるしかない。。。!!」

 アリオンの父が喚いているのを、カーラは黙って聞いていた。そして静かに言った。

「アリオン、何があったのかは予想がつくわ。母親として、近くで見てきたもの。お父様が厳しくしすぎたせいね。私はあなたの力になれなかったわね。。。」

 そして、カーラはアリオンの肩に手を掛け、目を真っ直ぐに見て、言った。

「でもね、本当に大切なものは、一度手放すと二度と戻ってはこないの。あなたの選択に、後悔がないことを祈るわ。」


 アリオンは、カーラの言葉が深く心に突き刺さった。

 自室に帰ってベッドに横になり、色々なことが頭の中に渦巻いていた。


 本当に自分は勝手な人間だと思う。


 クロエが、家に帰ってすぐに婚約解消を了承し、書簡を送ってきたということに少なからずショックを受けていた。

 また、クロエは、婚約解消に至るまでの経緯を明かさなかった。

 全てアリオンが原因であるのに、この期に及んで自分をかばったのだろうか。

 アリオンは自分が情けなくて仕方なかった。

 何度かは話す機会を作るつもりだったが、もうそれも不要になった。

 婚約の話はなかったことになったのだから。


 クロエと自分は、もう何の接点もない他人になったのだろうか?

 できることなら、婚約する前の、仲の良いただの幼馴染みに戻りたかった。


 アリオン自身が望んだ結果なのに、クロエとの宝物のような記憶と、彼女の笑顔が思い出され、どうしても涙が止まらなくなった。。。


 アリオンもまた、クロエを愛していた。
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