【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、元婚約者を諦められない

きなこもち

文字の大きさ
6 / 34

クロエと初めての友人

しおりを挟む
 それからのクロエは、何ともないというように学園には来ていたものの、ぼーっと頬杖をついていることが多くなった。

 以前のように、アリオンの周囲を牽制し毒を吐くこともなく、休み時間にアリオンを追い回すこともない。

 ただ黙って窓の外を見ているその姿は、

「婚約者に振られた脱け殻の悪役令嬢」

 と噂された。


 クロエは元々、類い希な美人だったが、従来の噂と言動が強烈なことから、容姿を注目されることは少なかった。


 しかし今は、薄紫色の髪の妖艶な美女が、一人物思いにふけっている(ぼーっとしている)様子は、絵画から出てきたように美しく、男女ともに見惚れてしまう生徒も少なくなかった。


 ある日、食堂でクロエが1人で窓の外を眺めながら座っていた時のことである。


 黒髪で背の高い男子生徒が、クロエに近付き、意を決したように、話しかけた。

「あー、、、あの!!もし良かったら、お昼、俺らと一緒に食べませんか・・・!?」

 周囲は、なんて命知らずなやつだとザワついた。わがまま高飛車令嬢クロエが、どんな言葉で一刀両断するのか、食堂が静まり返った。


 クロエはしばらく男子生徒を見つめ、無言になった。それから、小さな声でこういった。

「ええ、ぜひご一緒したいわ。」

 この返答に、話しかけた男子生徒もひどく焦った様子だった。

「ええっ?いいんですか。。。」

 と間抜けな声をだし、食堂の机にぶつかりながら、仲間のいるテーブル席へクロエを案内した。


 クロエが男子生徒の誘いに乗ったのは、友人の一人もいない自分を変えたいと思ったからだ。

 アリオンもセリーナも、友人に囲まれ楽しそうなのに、クロエだけひとりぼっちでみじめだった。

 また、この男子生徒をクロエは実は知っていた。異性としての興味はなかったが、同じクラスの女子生徒が、

「推しにするならアリオン様で、彼氏にするならイオ!」

 とくだらない恋愛話で盛り上がっていたのを覚えている。

 そのときは、アリオンの名前を出した女子生徒を睨み付け、その場を凍りつかせたのは言うまでもない。

 よく女子の話題に名が上がるということは、人気者なのだろう。

 背が高く、筋力のついた体つきで、ハンサムだとは思う。

 しかし、特別家柄がいいわけでも、所作がスマートなわけでも、特異な美貌を持っているわけでもない、普通の生徒に見えた。

 また、普通の生徒のランチタイムとはどんなものなのか、クロエは少し興味があった。


 ◇


 案内されたテーブルに近づいていくと、イオの友人と思われる生徒が2人座っていた。

 一人は、遠くから見ても、均整のとれた長い手足と分かる、美しい焦げ茶色の髪を持つ女子生徒だった。もう一人は、栗毛に眼鏡をかけた小柄な男子生徒だった。

 女子生徒が、

「イオやるじゃん!ほんとにお嬢様連れてきた!」

 と笑いながら言い、栗毛眼鏡の男子生徒が

「やめろよ!失礼だろ!」

 と焦ったように彼女をたしなめた。


 クロエは女子生徒の言葉に特に気にすることもなく、

「こちらに座ってよろしいのかしら?」

 と聞いた。女子生徒は、勢いよく立ち上がり、
 空いていた椅子を引き、大袈裟な動作で

「お嬢様、こちらにお座りください!」

 とおどけて言ってみせた。

 クロエが席につくと、女子生徒が先頭をきって話し始めた。

「私はリナリー・ハリソン。3人とも専門科の2年生よ。」

 残りの2人が自己紹介しようと口を開く前に、リナリーが勝手に2人の紹介を始めた。

「お嬢様をナンパした男がイオ・ミドルズ。こう見えて女ったらしだから気をつけてね。眼鏡のコイツはラリー・パディントン。ただの変人よ。」

 リナリーの言葉にイオが勢いよく反論した。

「誰が女ったらしだ!!適当なこというな!」

 クロエが納得したように

「ああ、だから私に声をかけてきたのね。。。」

 と小さく呟くと、栗毛眼鏡の男子生徒が笑いながら言った。

「リナリー、その紹介はないんじゃない??僕は変人じゃないし。。。イオが、クロエお嬢様に声をかけたのは理由があって」

「イオは、テストの成績が3人の中で一番悪かったんだ。で、一番良かったリナリーのいうことをイオが聞くっていう約束だった。そしたら、リナリーが『傷心でいつも1人でいるクロエお嬢様をランチに誘え。』って。」

 ラリーは言葉を続けた。

「あとね、女ったらしっていうのはあながち間違ってないかな。だってさ、僕たちと友達になりたいって女の子は、みーんな、イオのこと好きになっちゃうんだよね。」

「僕が何度、イオとのキューピッド役頼まれたことか。。。いい迷惑だよ~」

 うんざりしたような顔でラリーが言うと、リナリーも同調した。

「分かる!私もイオと幼馴染みだからって嫉妬されて、何回嫌味言われたことか。本人は全く気づいてないのが、また腹立つんだよね!」

 2人に責められるような形になったイオは、不満げな表情でラリーとリナリーを睨んだ。

「おい、好き勝手言ってんなよ!お嬢様に変なこと吹き込むな!」

 イオは2人を軽く小突いた。

 そんな3人のやり取りを見ていたクロエは、この3人に好感を抱いた。

 今まで、クロエに取り入ろうと媚を売ってきた同級生とも、天真爛漫を装って近づいてきたセリーナのような人間とも違う気がした。


 罰ゲームのような形でランチに誘ってきたのはなんとも失礼な話だが、クロエ相手に特に気を使うこともなく、同級生として接してくれる3人に、居心地の良さを覚えた。

「1つ、伺いたいことがあります。なぜリナリーさんは私を誘うように言ったのですか?お話したことはないはずですが。」

 クロエは、単純な疑問をぶつけてみた。

 リナリーは、当然だと言わんばかりの顔でこう答えた。

「かわいい子と仲良くなりたいのは当然でしょう?お嬢様、最近やっとフリーになったんだから。」

 かわいいから仲良くなりたいなどと言われたのは、クロエは初めてだった。

 自分の容姿が整っている方だとは思っていたが、絶対にかわいくはないと自覚している。

 かわいいとは、セリーナのような庇護欲をそそるような明るい女の子を言うのだ。

 きっとお世辞で言ってくれているのだろうと思い、少し卑屈な気持ちになった。

「かわいいとは、初めて言われました。私はかわいくはないと思いますが。。。」

 ためらいがちにクロエが言うと、3人が揃って断言した。

「かわいくない!?それはない!!」

 あまりにも声が揃っていたので、クロエはフフっと吹き出してしまった。

 クロエの笑顔を初めて見た3人は、瞬時にドキッとし、しばらく見惚れたような表情になった。

「クロエお嬢様、破壊力やっば。。。」

 リナリーの呟いた言葉の意味が、クロエには分からなかった。

しおりを挟む
感想 88

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

隠れ蓑婚約者 ~了解です。貴方が王女殿下に相応しい地位を得るまで、ご協力申し上げます~

夏笆(なつは)
恋愛
 ロブレス侯爵家のフィロメナの婚約者は、魔法騎士としてその名を馳せる公爵家の三男ベルトラン・カルビノ。  ふたりの婚約が整ってすぐ、フィロメナは王女マリルーより、自身とベルトランは昔からの恋仲だと打ち明けられる。 『ベルトランはね、あたくしに相応しい爵位を得ようと必死なのよ。でも時間がかかるでしょう?だからその間、隠れ蓑としての婚約者、よろしくね』  可愛い見た目に反するフィロメナを貶める言葉に衝撃を受けるも、フィロメナはベルトランにも確認をしようとして、機先を制するように『マリルー王女の警護があるので、君と夜会に行くことは出来ない。今後についても、マリルー王女の警護を優先する』と言われてしまう。  更に『俺が同行できない夜会には、出席しないでくれ』と言われ、その後に王女マリルーより『ベルトランがごめんなさいね。夜会で貴女と遭遇してしまったら、あたくしの気持ちが落ち着かないだろうって配慮なの』と聞かされ、自由にしようと決意する。 『俺が同行出来ない夜会には、出席しないでくれと言った』 『そんなのいつもじゃない!そんなことしていたら、若さが逃げちゃうわ!』  夜会の出席を巡ってベルトランと口論になるも、フィロメナにはどうしても夜会に行きたい理由があった。  それは、ベルトランと婚約破棄をしてもひとりで生きていけるよう、靴の事業を広めること。  そんな折、フィロメナは、ベルトランから、魔法騎士の特別訓練を受けることになったと聞かされる。  期間は一年。  厳しくはあるが、訓練を修了すればベルトランは伯爵位を得ることが出来、王女との婚姻も可能となる。  つまり、その時に婚約破棄されると理解したフィロメナは、会うことも出来ないと言われた訓練中の一年で、何とか自立しようと努力していくのだが、そもそもすべてがすれ違っていた・・・・・。  この物語は、互いにひと目で恋に落ちた筈のふたりが、言葉足らずや誤解、曲解を繰り返すうちに、とんでもないすれ違いを引き起こす、魔法騎士や魔獣も出て来るファンタジーです。  あらすじの内容と実際のお話では、順序が一致しない場合があります。    小説家になろうでも、掲載しています。 Hotランキング1位、ありがとうございます。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました

あおくん
恋愛
父が決めた結婚。 顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。 これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。 だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。 政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。 どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。 ※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。 最後はハッピーエンドで終えます。

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からなくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

あなたへの愛を捨てた日

柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。 しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。 レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。 「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」 エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...