【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、元婚約者を諦められない

きなこもち

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治癒の力

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 セリーナは、この混乱にただただ立ち尽くしていた。ただ1つ思ったことがあった。


『  私じゃなくて良かった 。』


 セリーナは平民出身だが、治癒の能力を見出だされ、貴族へ養子に入り、この学園に入学した。

 元々、愛嬌があり、人の心を読むのが得意であった。

 貴族のご子息達は、プライドや偏見の塊だったが、案外純粋なところがあり、幼い頃から世間に揉まれてきたセリーナからすると、懐に入ることは容易いことだった。

 もう2度と、貧乏な暮らしなどごめんだった。

 家柄のよい貴族令息と結婚し、私は幸せになる。そう強く願っていたセリーナが見つけた最良の相手が、アリオンであった。

 アリオンは、鼻持ちにならないクロエという令嬢と婚約していたが、アリオンの様子をみるに、無理をして婚約している様子が伺えた。

 最初は、不純な同期から近づいたセリーナだったが、努力家で賢く、美しいアリオンに次第に本気で惹かれていった。

 アリオンとクロエが婚約解消になった時は、内心嬉しかったものだ。

『あの女に勝った!!』

 セリーナはそう思っていた。

 婚約解消になった後、アリオンはセリーナとさらに距離を縮め、最愛の恋人にしてくれると思った。

 しかし、アリオンとセリーナの距離は次第に離れ、元婚約者のクロエばかりを見つめていることに気付いた。

 未練が残っているのはセリーナから見てもはっきりと分かり、アリオンから、自分が選ばれなかったことが悔しくて仕方がなかった。

 おまけに、アリオンと出会う前に、モーションをかけていたルイが、セリーナがどこに行くにも付いてくるようになり、独占欲を出し始めた。そのせいもあってか、アリオンとセリーナの距離は更に遠くなった。


 ◇


 アリオンが、セリーナにクロエの火傷の傷を治すよう、懇願している。

 アリオンの愛しい女を治すために、自分は必要とされているのだ。

 非常におもしろくなかったが、クロエの友人達も、セリーナに次々と助けてくれと言ってきた。

 セリーナの治癒能力は、未だ完成形ではないものの、多少の怪我や傷はきれいに治癒することができた。

 火傷の傷はまだ治したことがなく、自信がなかったが、皆が自分に期待しているという状況で、断るわけにはいかないと思った。

「分かった。やってみるわ。」

 セリーナはそういうと、クロエの患部に手を当て、集中して治癒の力を使った。次第に患部が青い光でポウっと包まれ、火傷の傷がみるみるきれいになっていった。

 一部、手の甲に傷跡が残ってしまったが、元々の傷を考えると、ほとんど目立たないような傷跡になった。


 その光景を目の当たりにした大広間にいた人々は、

「すごい!傷が治っていくぞ!」

「なんて尊い力なんだ!!」

 と口々にセリーナを褒め称えた。

「私の力が、人のお役に立てて嬉しいです。」

 とセリーナは涙を流しながら言った。
 その健気で控えめな姿に、皆心を打たれ、

「まるで聖女のようだ」

 とさらに心を熱くした。

 セリーナの友人のイオ、リナリー、ラリーもお礼を言ってきた。

 特にセリーナの印象に残ったのは、以前から好印象だと思っていた男子生徒イオで、真剣な眼差しでセリーナを見つめ、

「本当にありがとう。君がいなかったらどうなっていたか。俺たちの恩人だよ。」

 と言った。セリーナは、誰かから、何の忖度もなく、本気で感謝された経験というものがなかった。

 涙を流したのはパフォーマンスであったが、この時ばかりは自分でも自然と感激の涙が出てきた。

『こんな自分に感謝し、称えてくれるのね。』

 セリーナは生まれて初めて、心からの充足感を感じていた。
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