【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、元婚約者を諦められない

きなこもち

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花祭り4~事件~

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 クロエ、リナリー、イオ、ラリーの4人は大広場に来ていた。鐘の音と共に、花吹雪が舞った。

 4人は、花が舞い散る光景に見とれ、笑い合った。

 周囲の人々が大勢、踊ったり、歌ったりし始めた。クロエは、リナリーに手を引かれ、私たちも混ざろうと声をかけられた時だった。

 少し離れたところに、アリオンとセリーナの姿が見えた。

 ああ、『彼らも来ていたのか』とクロエが少し苦い気持ちで見ていると、アリオンと目が合った。


 その時、クロエの肩に後ろからドンっとぶつかった男がいた。

 深く帽子を被り、この場に似つかわしくないような、殺伐とした雰囲気を漂わせている。

 かなり強くぶつかったのに謝りもしなかったため、イオが腹を立て

「オイ!」

 と呼び止めたが、男は逃げるように足早に歩いていってしまった。

 その時、ラリーが呟いた。

「あの男、ホグウィードの臭いがした。」

 ホグウィードとは、劇薬となる植物で、ホグウィードを原料にした薬品が皮膚に触れると、ひどい火傷を引き起こす。クロエも聞いたことがある植物の名だった。

 ラリーは薬草を専攻としており、薬草の臭いをかぎわけることができた。

 クロエは、先程のぶつかってきた男の後ろ姿を目で追った。嫌な予感がした。

 男が足早に向かった先には、アリオンとセリーナがいた。

 2人とも男には全く気づいていない。


 クロエは男を追って走り出した。

 イオ、リナリー、ラリーは、突然走り出したクロエを止めることができなかった。

「クロエ!?」


『男は、アリオンに薬物をかけようとしている』


 クロエにはそうとしか思えず、考える前に体が勝手に動いていた。あの男を止めなければと思った。

 男は、アリオンとセリーナの目の前まで近寄り、おもむろに上着のポケットに手を入れた。何か小瓶のようなものを出したその時だった。

「アリオン!」

 クロエが叫び、後ろから男の肩を掴んだ。

 驚いて振り向いた男は、蓋を開けた小瓶の中身を、クロエの手の甲から腕にかけて、バシャッとかけた。


「!!!!!!」


 声にならない程の、痛みと熱さを感じたクロエは、腕を抑え倒れ込んだ。

 倒れ込むクロエをアリオンが抱き止めた。

「クロエ!!!!」

 すぐに、イオ、リナリー、ラリーもそばに駆け寄ってきた。

「何で!?どうなってるの!?!?なんでクロエが???」

 リナリーは半狂乱になり、泣きながらクロエの手を握っている。クロエはアリオンに抱き抱えられ、痛みに呻いている。

 その場は騒然としていた。

 男はすぐに群衆を抜けて逃走した。血の気が多く、正義感の強い花屋の店主と、たまたまその場にいあわせた憲兵隊の隊員が

「待てこらぁ!!」

 と言い、男を追いかけていった。


 自分をターゲットにしたであろう男を止めようとし、クロエが怪我をしてしまったことにアリオンはひどく動揺した。

 クロエの傷口は火傷でひどい状態になっていた。治療したとしても、痕が残るだろう。

 その時、はっとしたような表情になり、アリオンがセリーナを見た。


「セリーナ。頼む。君の治癒の力で、クロエを治してくれ。」


 ◇


 ルイの婚約者、メアリは、大広間が見渡せる建物の2階で、この一連の騒動を見ていた。

『とんでもないことをしてしまった。』

 メアリは顔面蒼白になった。

 メアリが雇った男に、人混みに乗じて、セリーナに薬品をかけるよう指示した。

 まさか、クロエが止めに入り、彼女を怪我させてしまうとは予想外であった。

 メアリは呆然と立ち尽くしていた。

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