33 / 34
最終回
しおりを挟む
クロエは外に出て、ウッドデッキに立ち、海を眺めた。
辺りは暗くなっていた。潮の匂いと、遠くから聞こえる波の音が心地いい。
目を閉じ、新鮮な空気を胸一杯に吸い込んだ。
「クロエ、寒くない?風邪引くよ。」
「ちょっとね。でも、ここから海を眺めるのが好きなの。」
イオも外に出てきて、後ろからクロエを抱き締めた。
「じゃあ、俺もこうして一緒に見よう。そしたら寒くないだろ?」
2人は顔を見合わせて笑い、キスをした。
ここは、海沿いにある静かなコテージ。先月、イオがクロエの為に用意してくれた別荘だった。
クロエが初めてイオの家に呼ばれた日、クロエは、イオが作った海辺の小さな家の作品が一番気に入った。
クロエの希望で、結婚して翌月後、あの作品を元にした、この別荘を建ててもらったのだった。
毎年、休暇にはこの別荘で過ごそうと約束した。
クロエとイオが卒業して、2年が経っていた。
◇
高等部最後の年、突然イオにプロポーズされた。戸惑ったクロエだったが、イオなら信じられると思い、プロポーズを受けた。
クロエの両親は、突然結婚したい人がいるとクロエから聞かされ驚いていたが、屋敷に来るイオと何度も接するうちに、彼の事が好きになった。
将来的にブライトン家の事業を手伝いつつ、イオの専門であった設計、建築の仕事も並行してやっていくということになった。
イオの両親はそれはもう大喜びで、母のアデルは
「イオ!チャンスを掴みとったのね!」
と涙を流していた。
イオの弟テオは、何が起こっているのかはよく分かっていなかったが、兄に何か嬉しいことがあったんだろうと思い、
「にいにやったね!」
とはしゃいでいた。
あれからアリオンはほどなくして、ベルファスト家の当主となった。アリオンの父が急逝し、後を継ぐ形となった為である。
今では、ブライトン家とベルファスト家は、事業において、良好な取引相手となっていた。
月に1度、アリオンはブライトン家を訪れる為、クロエやイオとも顔を合わせた。
イオは、初めはアリオンに対して、クロエの元婚約者ということで、苦手意識を持っていた。だが、何度か話すうちに、意外とウマが合うようなところがあり、今では良き友人となっていた。
クロエ、イオ、アリオンの3人は、探し物があった為、結婚前にクロエが使っていた部屋の中にいた。
イオが、飾ってあった1枚のクロエの似顔絵をじっと見た。
「これ、誰が書いたの?」
「それは、アリオンが子どもの時、書いてくれたの。素敵でしょ。」
クロエが嬉しそうに言うと、イオは
「えーなんかそれ焼けるんだけど。」
と少し拗ねながら笑った。
「今度は、2人の絵を描くよ。」
アリオンは微笑んでそう言った。
◇
先月、リナリーとラリーも結婚した。
リナリーはラリーのことが好きだったが、ラリーは鈍感で、リナリーの好意に長いこと気が付かなかった。
卒業式に、リナリーはもうこれで最後かと思い、
「ラリーは残念ね。私みたいに美人な女の子に好かれることなんてもう2度とないと思う。もう会うことも少なくなると思うけど、元気でね!じゃあ。」
と言って去ろうとしたところ、ラリーに腕を掴まれ、
「え?今なんて?リナリー、僕のこと好きだったの?」
と顔を真っ赤にして言ったらしい。
リナリーは美人だし、性格もさっぱりして男子から人気があったので、ラリーは相手にされていないと思い込んでいた。
リナリーとラリーが付き合ったと言う報告を聞いたイオは、
「ラリー、とうとう観念したんだな。。。いいのか?苦労するぞ。」
と言い、リナリーを怒らせた。
◇
セリーナは、学園での騒動の後、生徒達から白い目で見られるようになり、卒業まで1人で過ごした。
人のものを奪う、嘘をつく、という悪癖を治すには時間がかかったが、卒業後は、治癒の力で人の役に立つ喜びを知り、民間の医療施設で働き、大変有難がられた。
◇
結婚してから2年目、クロエとイオの間に子どもができた。
名前は「サラ」
瞳は母に似て、美しい薄紫の瞳のかわいらしい女の子だ。
腕のなかに抱かれた、幼子の小さな手を見ながら、クロエは考えていた。
今までの自分の人生を振り返ると、その時々で、挫折と後悔ばかりだったように思う。
何が正解かは、誰にも分からない。自分の行動で、人を傷つけてしまうこともあるし、傷つけられることもある。
しかし、失敗から前に踏み出せることもある。
クロエ自身、アリオンに振られたことで、生涯の友人となるリナリー、イオ、ラリーと出会えた。
イオとは一度は離れてしまったものの、セリーナという障害を乗り越えたことで、より一層強く結ばれた。
アリオンとは、婚約破棄という出来事があったものの、今では幼馴染として、以前よりもいい関係を築けている。
全ては、なるべくしてなったのではないか、とクロエは思った。
これからも、色々な悲しいこと、辛いことがあるかもしれないが、大事なのは、前を向いて歩くことかもしれない。
(久しぶりに、4人でよく集まった、あの食堂に行きたいな。)
クロエは微笑みながら、そう考えていた。
終
ご愛読、ありがとうございました。
辺りは暗くなっていた。潮の匂いと、遠くから聞こえる波の音が心地いい。
目を閉じ、新鮮な空気を胸一杯に吸い込んだ。
「クロエ、寒くない?風邪引くよ。」
「ちょっとね。でも、ここから海を眺めるのが好きなの。」
イオも外に出てきて、後ろからクロエを抱き締めた。
「じゃあ、俺もこうして一緒に見よう。そしたら寒くないだろ?」
2人は顔を見合わせて笑い、キスをした。
ここは、海沿いにある静かなコテージ。先月、イオがクロエの為に用意してくれた別荘だった。
クロエが初めてイオの家に呼ばれた日、クロエは、イオが作った海辺の小さな家の作品が一番気に入った。
クロエの希望で、結婚して翌月後、あの作品を元にした、この別荘を建ててもらったのだった。
毎年、休暇にはこの別荘で過ごそうと約束した。
クロエとイオが卒業して、2年が経っていた。
◇
高等部最後の年、突然イオにプロポーズされた。戸惑ったクロエだったが、イオなら信じられると思い、プロポーズを受けた。
クロエの両親は、突然結婚したい人がいるとクロエから聞かされ驚いていたが、屋敷に来るイオと何度も接するうちに、彼の事が好きになった。
将来的にブライトン家の事業を手伝いつつ、イオの専門であった設計、建築の仕事も並行してやっていくということになった。
イオの両親はそれはもう大喜びで、母のアデルは
「イオ!チャンスを掴みとったのね!」
と涙を流していた。
イオの弟テオは、何が起こっているのかはよく分かっていなかったが、兄に何か嬉しいことがあったんだろうと思い、
「にいにやったね!」
とはしゃいでいた。
あれからアリオンはほどなくして、ベルファスト家の当主となった。アリオンの父が急逝し、後を継ぐ形となった為である。
今では、ブライトン家とベルファスト家は、事業において、良好な取引相手となっていた。
月に1度、アリオンはブライトン家を訪れる為、クロエやイオとも顔を合わせた。
イオは、初めはアリオンに対して、クロエの元婚約者ということで、苦手意識を持っていた。だが、何度か話すうちに、意外とウマが合うようなところがあり、今では良き友人となっていた。
クロエ、イオ、アリオンの3人は、探し物があった為、結婚前にクロエが使っていた部屋の中にいた。
イオが、飾ってあった1枚のクロエの似顔絵をじっと見た。
「これ、誰が書いたの?」
「それは、アリオンが子どもの時、書いてくれたの。素敵でしょ。」
クロエが嬉しそうに言うと、イオは
「えーなんかそれ焼けるんだけど。」
と少し拗ねながら笑った。
「今度は、2人の絵を描くよ。」
アリオンは微笑んでそう言った。
◇
先月、リナリーとラリーも結婚した。
リナリーはラリーのことが好きだったが、ラリーは鈍感で、リナリーの好意に長いこと気が付かなかった。
卒業式に、リナリーはもうこれで最後かと思い、
「ラリーは残念ね。私みたいに美人な女の子に好かれることなんてもう2度とないと思う。もう会うことも少なくなると思うけど、元気でね!じゃあ。」
と言って去ろうとしたところ、ラリーに腕を掴まれ、
「え?今なんて?リナリー、僕のこと好きだったの?」
と顔を真っ赤にして言ったらしい。
リナリーは美人だし、性格もさっぱりして男子から人気があったので、ラリーは相手にされていないと思い込んでいた。
リナリーとラリーが付き合ったと言う報告を聞いたイオは、
「ラリー、とうとう観念したんだな。。。いいのか?苦労するぞ。」
と言い、リナリーを怒らせた。
◇
セリーナは、学園での騒動の後、生徒達から白い目で見られるようになり、卒業まで1人で過ごした。
人のものを奪う、嘘をつく、という悪癖を治すには時間がかかったが、卒業後は、治癒の力で人の役に立つ喜びを知り、民間の医療施設で働き、大変有難がられた。
◇
結婚してから2年目、クロエとイオの間に子どもができた。
名前は「サラ」
瞳は母に似て、美しい薄紫の瞳のかわいらしい女の子だ。
腕のなかに抱かれた、幼子の小さな手を見ながら、クロエは考えていた。
今までの自分の人生を振り返ると、その時々で、挫折と後悔ばかりだったように思う。
何が正解かは、誰にも分からない。自分の行動で、人を傷つけてしまうこともあるし、傷つけられることもある。
しかし、失敗から前に踏み出せることもある。
クロエ自身、アリオンに振られたことで、生涯の友人となるリナリー、イオ、ラリーと出会えた。
イオとは一度は離れてしまったものの、セリーナという障害を乗り越えたことで、より一層強く結ばれた。
アリオンとは、婚約破棄という出来事があったものの、今では幼馴染として、以前よりもいい関係を築けている。
全ては、なるべくしてなったのではないか、とクロエは思った。
これからも、色々な悲しいこと、辛いことがあるかもしれないが、大事なのは、前を向いて歩くことかもしれない。
(久しぶりに、4人でよく集まった、あの食堂に行きたいな。)
クロエは微笑みながら、そう考えていた。
終
ご愛読、ありがとうございました。
81
あなたにおすすめの小説
放蕩な血
イシュタル
恋愛
王の婚約者として、華やかな未来を約束されていたシンシア・エルノワール侯爵令嬢。
だが、婚約破棄、娼館への転落、そして愛妾としての復帰──彼女の人生は、王の陰謀と愛に翻弄され続けた。
冷徹と名高い若き王、クラウド・ヴァルレイン。
その胸に秘められていたのは、ただ1人の女性への執着と、誰にも明かせぬ深い孤独。
「君が僕を“愛してる”と一言くれれば、この世のすべてが手に入る」
過去の罪、失われた記憶、そして命を懸けた選択。
光る蝶が導く真実の先で、ふたりが選んだのは、傷を抱えたまま愛し合う未来だった。
⚠️この物語はフィクションです。やや強引なシーンがあります。本作はAIの生成した文章を一部使用しています。
追放された令嬢ですが、隣国公爵と白い結婚したら溺愛が止まりませんでした ~元婚約者? 今さら返り咲きは無理ですわ~
ふわふわ
恋愛
婚約破棄――そして追放。
完璧すぎると嘲られ、役立たず呼ばわりされた令嬢エテルナは、
家族にも見放され、王国を追われるように国境へと辿り着く。
そこで彼女を救ったのは、隣国の若き公爵アイオン。
「君を保護する名目が必要だ。干渉しない“白い結婚”をしよう」
契約だけの夫婦のはずだった。
お互いに心を乱さず、ただ穏やかに日々を過ごす――はずだったのに。
静かで優しさを隠した公爵。
無能と決めつけられていたエテルナに眠る、古代聖女の力。
二人の距離は、ゆっくり、けれど確実に近づき始める。
しかしその噂は王国へ戻り、
「エテルナを取り戻せ」という王太子の暴走が始まった。
「彼女はもうこちらの人間だ。二度と渡さない」
契約結婚は終わりを告げ、
守りたい想いはやがて恋に変わる──。
追放令嬢×隣国公爵×白い結婚から溺愛へ。
そして元婚約者ざまぁまで爽快に描く、
“追い出された令嬢が真の幸せを掴む物語”が、いま始まる。
---
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
冷徹王子に捨てられた令嬢、今ではその兄王に溺愛されています
ゆっこ
恋愛
――「お前のような女に、俺の隣は似合わない」
その言葉を最後に、婚約者であった第二王子レオンハルト殿下は私を冷たく突き放した。
私、クラリス・エルデンは侯爵家の令嬢として、幼い頃から王子の婚約者として育てられた。
しかし、ある日突然彼は平民出の侍女に恋をしたと言い出し、私を「冷酷で打算的な女」だと罵ったのだ。
涙も出なかった。
あまりに理不尽で、あまりに一方的で、怒りも悲しみも通り越して、ただ虚しさだけが残った。
【完結】ケーキの為にと頑張っていたらこうなりました
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
前世持ちのファビアは、ちょっと変わった子爵令嬢に育っていた。その彼女の望みは、一生ケーキを食べて暮らす事! その為に彼女は魔法学園に通う事にした。
継母の策略を蹴散らし、非常識な義妹に振り回されつつも、ケーキの為に頑張ります!
『お前とは結婚できない』と婚約破棄されたので、隣国の王に嫁ぎます
ほーみ
恋愛
春の宮廷は、いつもより少しだけざわめいていた。
けれどその理由が、わたし——エリシア・リンドールの婚約破棄であることを、わたし自身が一番よく理解していた。
「エリシア、君とは結婚できない」
王太子ユリウス殿下のその一言は、まるで氷の刃のように冷たかった。
——ああ、この人は本当に言ってしまったのね。
【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?
綾雅(りょうが)今月は2冊出版!
恋愛
「エステファニア・サラ・メレンデス――お前との婚約を破棄する」
婚約者であるクラウディオ王太子に、王妃の生誕祝いの夜会で言い渡された私。愛しているわけでもない男に婚約破棄され、断罪されるが……残念ですけど、私と結婚しない王太子殿下に価値はありませんのよ? 何を勘違いしたのか、淫らな恰好の女を伴った元婚約者の暴挙は彼自身へ跳ね返った。
ざまぁ要素あり。溺愛される主人公が無事婚約破棄を乗り越えて幸せを掴むお話。
表紙イラスト:リルドア様(https://coconala.com/users/791723)
【完結】本編63話+外伝11話、2021/01/19
【複数掲載】アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアップ+
2021/12 異世界恋愛小説コンテスト 一次審査通過
2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる