【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、元婚約者を諦められない

きなこもち

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最終回

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 クロエは外に出て、ウッドデッキに立ち、海を眺めた。

 辺りは暗くなっていた。潮の匂いと、遠くから聞こえる波の音が心地いい。

 目を閉じ、新鮮な空気を胸一杯に吸い込んだ。

「クロエ、寒くない?風邪引くよ。」

「ちょっとね。でも、ここから海を眺めるのが好きなの。」

 イオも外に出てきて、後ろからクロエを抱き締めた。

「じゃあ、俺もこうして一緒に見よう。そしたら寒くないだろ?」

 2人は顔を見合わせて笑い、キスをした。


 ここは、海沿いにある静かなコテージ。先月、イオがクロエの為に用意してくれた別荘だった。

 クロエが初めてイオの家に呼ばれた日、クロエは、イオが作った海辺の小さな家の作品が一番気に入った。

 クロエの希望で、結婚して翌月後、あの作品を元にした、この別荘を建ててもらったのだった。

 毎年、休暇にはこの別荘で過ごそうと約束した。

 クロエとイオが卒業して、2年が経っていた。

 ◇

 高等部最後の年、突然イオにプロポーズされた。戸惑ったクロエだったが、イオなら信じられると思い、プロポーズを受けた。

 クロエの両親は、突然結婚したい人がいるとクロエから聞かされ驚いていたが、屋敷に来るイオと何度も接するうちに、彼の事が好きになった。

 将来的にブライトン家の事業を手伝いつつ、イオの専門であった設計、建築の仕事も並行してやっていくということになった。


 イオの両親はそれはもう大喜びで、母のアデルは

「イオ!チャンスを掴みとったのね!」

 と涙を流していた。

 イオの弟テオは、何が起こっているのかはよく分かっていなかったが、兄に何か嬉しいことがあったんだろうと思い、

「にいにやったね!」

 とはしゃいでいた。


 あれからアリオンはほどなくして、ベルファスト家の当主となった。アリオンの父が急逝し、後を継ぐ形となった為である。

 今では、ブライトン家とベルファスト家は、事業において、良好な取引相手となっていた。

 月に1度、アリオンはブライトン家を訪れる為、クロエやイオとも顔を合わせた。

 イオは、初めはアリオンに対して、クロエの元婚約者ということで、苦手意識を持っていた。だが、何度か話すうちに、意外とウマが合うようなところがあり、今では良き友人となっていた。

 クロエ、イオ、アリオンの3人は、探し物があった為、結婚前にクロエが使っていた部屋の中にいた。

 イオが、飾ってあった1枚のクロエの似顔絵をじっと見た。

「これ、誰が書いたの?」

「それは、アリオンが子どもの時、書いてくれたの。素敵でしょ。」

 クロエが嬉しそうに言うと、イオは

「えーなんかそれ焼けるんだけど。」

 と少し拗ねながら笑った。

「今度は、2人の絵を描くよ。」

 アリオンは微笑んでそう言った。


 ◇


 先月、リナリーとラリーも結婚した。

 リナリーはラリーのことが好きだったが、ラリーは鈍感で、リナリーの好意に長いこと気が付かなかった。

 卒業式に、リナリーはもうこれで最後かと思い、

「ラリーは残念ね。私みたいに美人な女の子に好かれることなんてもう2度とないと思う。もう会うことも少なくなると思うけど、元気でね!じゃあ。」

 と言って去ろうとしたところ、ラリーに腕を掴まれ、

「え?今なんて?リナリー、僕のこと好きだったの?」

 と顔を真っ赤にして言ったらしい。

 リナリーは美人だし、性格もさっぱりして男子から人気があったので、ラリーは相手にされていないと思い込んでいた。

 リナリーとラリーが付き合ったと言う報告を聞いたイオは、

「ラリー、とうとう観念したんだな。。。いいのか?苦労するぞ。」

 と言い、リナリーを怒らせた。

 ◇

 セリーナは、学園での騒動の後、生徒達から白い目で見られるようになり、卒業まで1人で過ごした。

 人のものを奪う、嘘をつく、という悪癖を治すには時間がかかったが、卒業後は、治癒の力で人の役に立つ喜びを知り、民間の医療施設で働き、大変有難がられた。

 ◇

 結婚してから2年目、クロエとイオの間に子どもができた。

 名前は「サラ」

 瞳は母に似て、美しい薄紫の瞳のかわいらしい女の子だ。

 腕のなかに抱かれた、幼子の小さな手を見ながら、クロエは考えていた。

 今までの自分の人生を振り返ると、その時々で、挫折と後悔ばかりだったように思う。

 何が正解かは、誰にも分からない。自分の行動で、人を傷つけてしまうこともあるし、傷つけられることもある。

 しかし、失敗から前に踏み出せることもある。

 クロエ自身、アリオンに振られたことで、生涯の友人となるリナリー、イオ、ラリーと出会えた。

 イオとは一度は離れてしまったものの、セリーナという障害を乗り越えたことで、より一層強く結ばれた。

 アリオンとは、婚約破棄という出来事があったものの、今では幼馴染として、以前よりもいい関係を築けている。

 全ては、なるべくしてなったのではないか、とクロエは思った。

 これからも、色々な悲しいこと、辛いことがあるかもしれないが、大事なのは、前を向いて歩くことかもしれない。

 (久しぶりに、4人でよく集まった、あの食堂に行きたいな。)

 クロエは微笑みながら、そう考えていた。


 終


 ご愛読、ありがとうございました。
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