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知ったときには時既に遅し
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姉は魔法少女のような格好をして俺に話しかけてきた。手にはゴテゴテと飾りのついたいかにもなステッキを持っている。
「伊庵(いおり)、久しぶり!」
「───────久々に会ったのになんだよその格好。正直きついぞ。」
俺が本音を言うと、姉はステッキで俺の頭を殴ってきた。
「あんた、しばらく見ない間に本当の自分が金髪美少年だと思い込んでるようね!今の姿を見てみなさい!」
俺は姉に手渡された手鏡で自分の顔を写した。
そこには、慣れ親しんだ冴えなくてモテない陰気な『伊庵(いおり)』がいた。
「うわぁ~··········ダセェ。そうだこれ俺だ。それより姉貴!お前のせいで大変なんだからな!どうしてくれるんだよ??───俺は今どうなってる!?もしかして死んだのか!?!?」
「何よこっちの世界結構楽しんでんじゃない。··········あんたは死んでないわよ。覚えてないでしょうけど、学校帰りに車に跳ねられて、今は意識不明。もう三日目を覚まさない。」
「はぁ!?俺は転生したんじゃなかったのか?じゃあ、俺は·······今俺が生きてるこの世界はなんなんだよ!?」
「全部あんたの意識の中よ。ちなみにこの夢もね。大事なことを伝えに来た。」
「··················?」
「あんたは、ゲームのバグで脇役から主人公になった。このゲームを攻略すれば、あんたは目覚めるわ。」
俺は混乱し姉の肩を掴み揺さぶった。
「はぁ!?攻略ってどうやって·········俺が主人公!?ソラは?」
「ソラは攻略対象になった。それにしても········あんたけっこうやらかしちゃってるわね。ここからクリアは難しいかも。」
それはそうだろう。俺は、しょうもない脇役で失うものがないからこそ、破滅エンドにさえならなければいいと生きてきたのだ。
「今のところ攻略キャラのあんたへの好感度は·······短期間で全員が上がりすぎてる。このあんたの意識の中で作り上げたゲームは特殊でね。選んだ攻略対象以外のキャラは、好感度下げないといけないのよ。」
「な、なんで?好感度高くて何が悪いんだよ?悪いより良い方がいいだろ!?」
姉は溜め息をつき首を降った。
「あんたは人の心を何も分かってないのね。愛情と憎しみは表裏一体なの。誰かを選べば、他のキャラの鬱ルートが発生する。」
「う、鬱ルート!?」
嫌な言葉の響きだ。良くないことになるのは馬鹿な俺でも分かる。
「当初の手首を切られて死ぬなんていう破滅エンドなんかましな方よ。このままあんたが誰かを選んだ場合のルートは········一生監禁、監禁のちに心中、相手の男と一緒に刺殺、刺殺のちに心中。─────キャラ別の鬱ルート教えてあげようか?」
俺はヒッと息を呑み、身震いし叫んだ。
「い、いい!!全部最悪じゃん······!そんなの信じられない!みんな良い奴だ!こんなに今ほのぼのしてるのに········なんでそんなことになるんだ!?」
「さあ知らないわよ!これからそうあんたがさせちゃうんでしょ?」
「うぅ·····俺が死んだらどうなるの?目が覚める?」
「そんなわけないでしょ。あんたが目覚めるのは、このゲームをハッピーエンドでクリアしたときか、もう一度バグが起こるのを待つか。今のところ、あんたにハッピーエンドは望めない。今さら三人の好感度を下げたところで鬱ルートは回避できない。」
俺は泣きながら床に崩れ落ち、姉の足に縋りついた。
「お、お姉さま!!今までの俺の行いを許してください!!なんでもします!勝手に冷蔵庫のもの食べないし、ブスだって言わないし、おつかいもちゃんと行く!だから········助けてください!」
姉は心底不快そうな顔で、足元に縋りつく俺を足で振り払った。
「うざい!離れろ!!」
床に転がった俺は力なく項垂れた。
「··········望みは薄いけど、方法はある。」
俺はグシャグシャに濡れた顔で姉を見上げた。
「今からあんたは、全員のキャラの好感度を極限まで上げることに集中しなさい。」
「············へ?」
「注意は一つだけ。バックバージンは守ること。それを失った時点で誰かを選び、他の誰かの鬱ルートに入ることになる。いいわね?」
「は、はい。」
よく分からないが、それしか方法がないのなら俺はそれに懸けるしかない。
「時がきたら、私はまたあんたの前に現れるわ。それまで頑張ってね。それじゃあ伊庵、元気でね。」
姉はそう言うと、ステッキを大きく振り煙のように消えていった。
「伊庵(いおり)、久しぶり!」
「───────久々に会ったのになんだよその格好。正直きついぞ。」
俺が本音を言うと、姉はステッキで俺の頭を殴ってきた。
「あんた、しばらく見ない間に本当の自分が金髪美少年だと思い込んでるようね!今の姿を見てみなさい!」
俺は姉に手渡された手鏡で自分の顔を写した。
そこには、慣れ親しんだ冴えなくてモテない陰気な『伊庵(いおり)』がいた。
「うわぁ~··········ダセェ。そうだこれ俺だ。それより姉貴!お前のせいで大変なんだからな!どうしてくれるんだよ??───俺は今どうなってる!?もしかして死んだのか!?!?」
「何よこっちの世界結構楽しんでんじゃない。··········あんたは死んでないわよ。覚えてないでしょうけど、学校帰りに車に跳ねられて、今は意識不明。もう三日目を覚まさない。」
「はぁ!?俺は転生したんじゃなかったのか?じゃあ、俺は·······今俺が生きてるこの世界はなんなんだよ!?」
「全部あんたの意識の中よ。ちなみにこの夢もね。大事なことを伝えに来た。」
「··················?」
「あんたは、ゲームのバグで脇役から主人公になった。このゲームを攻略すれば、あんたは目覚めるわ。」
俺は混乱し姉の肩を掴み揺さぶった。
「はぁ!?攻略ってどうやって·········俺が主人公!?ソラは?」
「ソラは攻略対象になった。それにしても········あんたけっこうやらかしちゃってるわね。ここからクリアは難しいかも。」
それはそうだろう。俺は、しょうもない脇役で失うものがないからこそ、破滅エンドにさえならなければいいと生きてきたのだ。
「今のところ攻略キャラのあんたへの好感度は·······短期間で全員が上がりすぎてる。このあんたの意識の中で作り上げたゲームは特殊でね。選んだ攻略対象以外のキャラは、好感度下げないといけないのよ。」
「な、なんで?好感度高くて何が悪いんだよ?悪いより良い方がいいだろ!?」
姉は溜め息をつき首を降った。
「あんたは人の心を何も分かってないのね。愛情と憎しみは表裏一体なの。誰かを選べば、他のキャラの鬱ルートが発生する。」
「う、鬱ルート!?」
嫌な言葉の響きだ。良くないことになるのは馬鹿な俺でも分かる。
「当初の手首を切られて死ぬなんていう破滅エンドなんかましな方よ。このままあんたが誰かを選んだ場合のルートは········一生監禁、監禁のちに心中、相手の男と一緒に刺殺、刺殺のちに心中。─────キャラ別の鬱ルート教えてあげようか?」
俺はヒッと息を呑み、身震いし叫んだ。
「い、いい!!全部最悪じゃん······!そんなの信じられない!みんな良い奴だ!こんなに今ほのぼのしてるのに········なんでそんなことになるんだ!?」
「さあ知らないわよ!これからそうあんたがさせちゃうんでしょ?」
「うぅ·····俺が死んだらどうなるの?目が覚める?」
「そんなわけないでしょ。あんたが目覚めるのは、このゲームをハッピーエンドでクリアしたときか、もう一度バグが起こるのを待つか。今のところ、あんたにハッピーエンドは望めない。今さら三人の好感度を下げたところで鬱ルートは回避できない。」
俺は泣きながら床に崩れ落ち、姉の足に縋りついた。
「お、お姉さま!!今までの俺の行いを許してください!!なんでもします!勝手に冷蔵庫のもの食べないし、ブスだって言わないし、おつかいもちゃんと行く!だから········助けてください!」
姉は心底不快そうな顔で、足元に縋りつく俺を足で振り払った。
「うざい!離れろ!!」
床に転がった俺は力なく項垂れた。
「··········望みは薄いけど、方法はある。」
俺はグシャグシャに濡れた顔で姉を見上げた。
「今からあんたは、全員のキャラの好感度を極限まで上げることに集中しなさい。」
「············へ?」
「注意は一つだけ。バックバージンは守ること。それを失った時点で誰かを選び、他の誰かの鬱ルートに入ることになる。いいわね?」
「は、はい。」
よく分からないが、それしか方法がないのなら俺はそれに懸けるしかない。
「時がきたら、私はまたあんたの前に現れるわ。それまで頑張ってね。それじゃあ伊庵、元気でね。」
姉はそう言うと、ステッキを大きく振り煙のように消えていった。
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