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十二章 祈願
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それからの友里は、学校では以前のように壁を作り、周囲を寄せ付けなくなった。
唯一話すのは壮一くらいで、新とは挨拶をすることも、目を合わせることすらしなくなった。
ある時、廊下ですれ違った智美に、
「冴木君、新と喧嘩したの?」と声をかけられた。
事情を知らない智美に口を挟まれたことが煩わしく、友里はぶっきらぼうに
「喧嘩してないよ。もう友達じゃないだけ。だから気にしないで。」と言い、智美から離れた。子どもっぽい奴だと思われただろうが、智美にどう思われようと友里は気にならなかった。
そして冬休みになり、年が明けた。
進学組は最後の追い込みで、日々勉強に明け暮れていた。
冬休み、壮一が来て欲しいと言うので、何度か壮一の家に泊まりに行った。
「そうは俺がきちゃ邪魔じゃない?もうすぐセンター試験だろ?」
「俺は、直前に勉強量増やすタイプじゃないんだ。いつものペースでやりたいし、焦らないでいいようにやってきたつもりだから大丈夫。」
「へー!格好いい。そうは国立志望だもんな。きっと受かるよ。」
さすがは秀才だ。毎日積み重ねて勉強していたからこその余裕なのだろう。
「友里は?結局就活もしてなかったよな?」
「うん。高校の内に仕事先決まっちゃうと、親に知られちゃうから。しばらくフリーターしてお金貯めてから、ちゃんとした仕事探そうかな。」
友里にとって、『いい大学に行く』『いい就職先を見つける』というのは手の届かない夢のようなものだった。
静と離れて自由に生きていく。
友里の願いは今はこれだけだった。
ボロアパートでも、安月給でも構わない。誰にも知られないところで、ひっそりと生きていこう、そう考えていた。
「じゃあさ、お金貯まるまででもいいから·······ゆう、ここに一緒に住まない?」
「え?ここに?いや、悪いよ。」
「うちボロいけど······場所は便利だしさ。家賃もかからないし。俺、一人暮らし寂しいしさ、それに、ゆうがいてくれたらばあちゃん喜ぶんだ。」
壮一が、辿々しくそれらしい理由を並べていくのがなんだか可愛らしかった。
友里は苦笑すると、茶化すように壮一の顔をのぞき込んだ。
「そう~相手を見てそういうこと言った方がいいぞ。俺は呆れるくらいの不良債権だ。口が悪くて毒親でひねくれてて、誰とでも寝る好き者だと思われてる。こんなのに依存されたら破滅だね!俺だったら友達にもならない。新は俺から逃れられたんだからラッキーだよ。だからお前も、卒業したら俺のことは忘れて。」
そこまで言い終わると、壮一はどこか悲しそうな顔をして友里に抱きついてきた。
「そんなこと言うなよ!ゆうは·········ゆうは、俺の大事な人なんだ。それに俺·········」
「············何?」
「俺、ゆうが一緒にいてくれるなら、破滅してもいいよ。」
その時の壮一の表情が、あまりに暗さを孕んでいたので、友里は何も言えなかった。
壮一は友里に、強い恋愛感情を抱いている。
それは友里自身も感じてはいた。しかし、壮一は友里の嫌がることは絶対にしないし、負担になるようなことは言ってこない。
友里自身、壮一とキスをしたり、寝たりすることを想像しても嫌じゃない。嫌じゃないどころが、時折友達のラインを踏み越えたくなる瞬間がある。
一度踏み越えてしまった感情が、恋情や嫉妬、情欲、憎悪で歯止めが効かなくなることを友里は知っている。
壮一が大切だからこそ、壮一には清廉なままでいて欲しいのだ。友里のような、薄汚れた色に染まってほしくなかった。
「そう、あのさ。今度一緒に神社行こう!!そうの合格祈願しに行くぞ!」
友里の提案は実現された。
センター試験数日前の休日、祈願で有名な神社に、二人で参拝に行った。
センター前最後の休日だということもあり、境内は受験生らしき人でごった返していた。
「人多いな······ゆう、行こう。」
壮一はさりげなく友里の手を繋いだ。男同士で手を繋いでいれば、二度見されるだろうが、今は人が多いので誰も友里達のことなど見てはいなかった。
参拝した後、記念に御守を買おうということになった。
「俺がそうに買ってやるよ!はい!合格祈願御守!」
壮一は緑色の御守を大事そうに受け取り、はにかみながら「ありがとう。」と言った。
「俺も、ゆうに買ったんだ。はい、これ。」
包み紙を開けてみると、赤い鈴の着いた御守が入っていた。
「幸せ御守·······?」
どこかファンシーなデザインで、袋に『幸せが訪れますように』と書いてあった。
「なにこれ!あはは。俺幸せ足りないように見えるよな。あー·····可笑しい。ありがとう、そう。嬉しいよ。」
友里は、幸せ御守をその場でカバンに付けた。リンと控えめになる鈴の音が、友里の心を優しくくすぐった。
壮一と屋台を一通り回って帰ろうということになった。寒かったので、暖かい食べ物が欲しくなり、屋台でたい焼きを買って商店街のベンチに腰掛けて食べていた。
すると、目の前を見覚えのある顔が横切った。
新と智美だ。
他にも、同じクラスや隣のクラスの男女が四人おり、デートも兼ねて、六人組で合格祈願に来たという風だった。
友里はカバンで顔を隠し、見つからないよう祈っていたが、祈りも虚しく数人に気が付かれてしまった。
「あれ?横山と冴木じゃね?」
「委員長~!!」
「二人もお詣り来たの!?仲良いねー!」
普段大して話したこともないのに、ワラワラと友里と壮一の周りに集まってきた。
自尊心が異常に高い人間達の、知り合いを見つけたら声をかけて何が悪いという押しつけがましい雰囲気が友里は苦手だ。
彼らはカップルで来ているのに、友里と壮一は、年明けに男二人で神社に来てたい焼きを食べている。
内心さみしい奴らだと笑っているだろう。
新と智美はグループの少し後方にいて、友里達に話しかけてくることはなかった。
グループが内輪で盛り上がり始めたので友里はいたたまれなくなり、壮一の腕を掴んで「じゃあ、俺達行くとこあるから。」と言いその場を離れようとした。
友里が逃げるようにその場を離れようとすると、突然新から腕を掴まれた。
「!!·········な、何?」
「あ、元気?最近会ってなかったから。」
自分から引き留めたくせに、特に用はなかったらしく、新は困ったように視線をキョロキョロとさせた。
「別に元気だよ。じゃ、試験頑張って。」
友里はそう言うと、新の腕を軽く押しのけ、壮一の袖を引っ張りその場を後にした。
新がしばらく友里の後ろ姿を目で追いかけているような気がしたが、友里は振り返らなかった。
唯一話すのは壮一くらいで、新とは挨拶をすることも、目を合わせることすらしなくなった。
ある時、廊下ですれ違った智美に、
「冴木君、新と喧嘩したの?」と声をかけられた。
事情を知らない智美に口を挟まれたことが煩わしく、友里はぶっきらぼうに
「喧嘩してないよ。もう友達じゃないだけ。だから気にしないで。」と言い、智美から離れた。子どもっぽい奴だと思われただろうが、智美にどう思われようと友里は気にならなかった。
そして冬休みになり、年が明けた。
進学組は最後の追い込みで、日々勉強に明け暮れていた。
冬休み、壮一が来て欲しいと言うので、何度か壮一の家に泊まりに行った。
「そうは俺がきちゃ邪魔じゃない?もうすぐセンター試験だろ?」
「俺は、直前に勉強量増やすタイプじゃないんだ。いつものペースでやりたいし、焦らないでいいようにやってきたつもりだから大丈夫。」
「へー!格好いい。そうは国立志望だもんな。きっと受かるよ。」
さすがは秀才だ。毎日積み重ねて勉強していたからこその余裕なのだろう。
「友里は?結局就活もしてなかったよな?」
「うん。高校の内に仕事先決まっちゃうと、親に知られちゃうから。しばらくフリーターしてお金貯めてから、ちゃんとした仕事探そうかな。」
友里にとって、『いい大学に行く』『いい就職先を見つける』というのは手の届かない夢のようなものだった。
静と離れて自由に生きていく。
友里の願いは今はこれだけだった。
ボロアパートでも、安月給でも構わない。誰にも知られないところで、ひっそりと生きていこう、そう考えていた。
「じゃあさ、お金貯まるまででもいいから·······ゆう、ここに一緒に住まない?」
「え?ここに?いや、悪いよ。」
「うちボロいけど······場所は便利だしさ。家賃もかからないし。俺、一人暮らし寂しいしさ、それに、ゆうがいてくれたらばあちゃん喜ぶんだ。」
壮一が、辿々しくそれらしい理由を並べていくのがなんだか可愛らしかった。
友里は苦笑すると、茶化すように壮一の顔をのぞき込んだ。
「そう~相手を見てそういうこと言った方がいいぞ。俺は呆れるくらいの不良債権だ。口が悪くて毒親でひねくれてて、誰とでも寝る好き者だと思われてる。こんなのに依存されたら破滅だね!俺だったら友達にもならない。新は俺から逃れられたんだからラッキーだよ。だからお前も、卒業したら俺のことは忘れて。」
そこまで言い終わると、壮一はどこか悲しそうな顔をして友里に抱きついてきた。
「そんなこと言うなよ!ゆうは·········ゆうは、俺の大事な人なんだ。それに俺·········」
「············何?」
「俺、ゆうが一緒にいてくれるなら、破滅してもいいよ。」
その時の壮一の表情が、あまりに暗さを孕んでいたので、友里は何も言えなかった。
壮一は友里に、強い恋愛感情を抱いている。
それは友里自身も感じてはいた。しかし、壮一は友里の嫌がることは絶対にしないし、負担になるようなことは言ってこない。
友里自身、壮一とキスをしたり、寝たりすることを想像しても嫌じゃない。嫌じゃないどころが、時折友達のラインを踏み越えたくなる瞬間がある。
一度踏み越えてしまった感情が、恋情や嫉妬、情欲、憎悪で歯止めが効かなくなることを友里は知っている。
壮一が大切だからこそ、壮一には清廉なままでいて欲しいのだ。友里のような、薄汚れた色に染まってほしくなかった。
「そう、あのさ。今度一緒に神社行こう!!そうの合格祈願しに行くぞ!」
友里の提案は実現された。
センター試験数日前の休日、祈願で有名な神社に、二人で参拝に行った。
センター前最後の休日だということもあり、境内は受験生らしき人でごった返していた。
「人多いな······ゆう、行こう。」
壮一はさりげなく友里の手を繋いだ。男同士で手を繋いでいれば、二度見されるだろうが、今は人が多いので誰も友里達のことなど見てはいなかった。
参拝した後、記念に御守を買おうということになった。
「俺がそうに買ってやるよ!はい!合格祈願御守!」
壮一は緑色の御守を大事そうに受け取り、はにかみながら「ありがとう。」と言った。
「俺も、ゆうに買ったんだ。はい、これ。」
包み紙を開けてみると、赤い鈴の着いた御守が入っていた。
「幸せ御守·······?」
どこかファンシーなデザインで、袋に『幸せが訪れますように』と書いてあった。
「なにこれ!あはは。俺幸せ足りないように見えるよな。あー·····可笑しい。ありがとう、そう。嬉しいよ。」
友里は、幸せ御守をその場でカバンに付けた。リンと控えめになる鈴の音が、友里の心を優しくくすぐった。
壮一と屋台を一通り回って帰ろうということになった。寒かったので、暖かい食べ物が欲しくなり、屋台でたい焼きを買って商店街のベンチに腰掛けて食べていた。
すると、目の前を見覚えのある顔が横切った。
新と智美だ。
他にも、同じクラスや隣のクラスの男女が四人おり、デートも兼ねて、六人組で合格祈願に来たという風だった。
友里はカバンで顔を隠し、見つからないよう祈っていたが、祈りも虚しく数人に気が付かれてしまった。
「あれ?横山と冴木じゃね?」
「委員長~!!」
「二人もお詣り来たの!?仲良いねー!」
普段大して話したこともないのに、ワラワラと友里と壮一の周りに集まってきた。
自尊心が異常に高い人間達の、知り合いを見つけたら声をかけて何が悪いという押しつけがましい雰囲気が友里は苦手だ。
彼らはカップルで来ているのに、友里と壮一は、年明けに男二人で神社に来てたい焼きを食べている。
内心さみしい奴らだと笑っているだろう。
新と智美はグループの少し後方にいて、友里達に話しかけてくることはなかった。
グループが内輪で盛り上がり始めたので友里はいたたまれなくなり、壮一の腕を掴んで「じゃあ、俺達行くとこあるから。」と言いその場を離れようとした。
友里が逃げるようにその場を離れようとすると、突然新から腕を掴まれた。
「!!·········な、何?」
「あ、元気?最近会ってなかったから。」
自分から引き留めたくせに、特に用はなかったらしく、新は困ったように視線をキョロキョロとさせた。
「別に元気だよ。じゃ、試験頑張って。」
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