【完結】呪いの言葉

きなこもち

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十三章 真実

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 友里と壮一が去った後、新と一緒に来ていた生徒達は友里の噂話を始めた。

「冴木って新と前仲良かったよな。今は全然って感じだけど。あいつって性格悪くね?色々黒い噂あるし。体育教師の木村とも噂あったよな。」
「それ聞いたことある!援交やってるとかね。」
「で、今のターゲットは委員長なんだろうな。ああいうの何ていうの?魔性?」
「新があいつと縁切ったのってさ、迫られたからじゃね?そうだろ!?」
 男子がおかしそうに、笑いながら新に詰め寄ってきた。

 智美はそれまで黙っていたが、新の顔を横目で見ると、
「·············えっそうなの?」と恐る恐る聞いてきた。
 智美の目の奥に、ゴシップ話をする時特有の嬉々とした好奇心の色が浮かんだ。
 新は一気に腹の底が冷えていくのを感じた。

「···············くだらね。俺帰る。」
 新はそうはっきりというと、踵を返し一人でスタスタと人混みの中を抜けていった。
「え、新どこ行くの!?待ってよ!」
 智美に腕を掴まれた新は、不機嫌そうに振り返った。
「何なの!?何が気に入らないのよ!!」
 智美は顔を赤くし憤りを顕にした。
「ああいう話嫌いなんだよ。するなら俺のいないところでやって。」
「············何よ!正義感ぶってさ。冴木君は新のことなんか、もう友達とも思ってないってよ?いい加減庇うのやめたら?」
「あっそ。別に庇ってない。」
「嘘!大体·······噂じゃなくて、本当の話でしょ?冴木君、実際にそういうことしてるんじゃない?」
 新は智美の言葉に違和感を持った。その言い方は、ただ周りに流されていたのではなく、智美は何かを見たのだ。
「智美·······もしかして、友里が援交やってるとかって噂流したの、お前じゃないよな?」
 智美は痛いところを突かれたように目を逸らした。嘘はつけないタイプなのだろう、新の問いかけに否定も肯定もしなかった。
「嘘だろ。なんでそんなこと······!」
 新が失望したような声を出すと、智美は涙声で反論し始めた。
「だって見たんだもん!!」
「見た?········何を見たんだ?」
「去年の12月前くらいかな。私の誕生日祝いってことで、家族でロイヤルホテルにディナーに行ったのよ。そしたらたまたまそこに冴木君もいた。かなり年上の、綺麗な女の人と一緒だった。」
 友里が義母に誘われて、高級ディナーを食べに行くと浮かれていた日だ。何かを飲まされないか注意しろと言った記憶がある。
「何となく気にして見てたら、途中まで席を立ったりとかして普通だったのに、冴木君、急にベロベロにお酒に酔ってて·····女の人と、お店の人に支えられながら帰っていったのよ。」
「············それで?」
「エレベーター前まで行ったら、下に行かずに上に上がっていったのね。だから、ホテルの部屋取ってるんだと思って·····それで興味本位で、トイレ行くって家族に嘘ついて、後をつけたの。」
「そしたら案の定、女の人と部屋に入って行った。お母さんとかお姉さんとか、そんな雰囲気じゃなかった。なんか生々しいっていうか、大人の関係って感じ。」
「····················」
「少しその場で様子を見てたら、驚くことに男の人や女の人が、何人もその部屋に入っていったの。子どもは冴木君だけ。」

 新は耳を塞ぎたくなった。
(それじゃあ、友里はあの日········)

「私やっと意味が分かった。冴木君、大人の人何人も相手にしてお金もらってたんだろうなって。·······だから、私新と冴木君が一緒にいるの耐えられなくて······!そんな子と仲良くしないで欲しかったの!」
「じゃあ、つまり友里は、歩けないほど意識がなかったんだろ?智美は何で········人を呼ぶとかしなかったんだ?」
 今更智美を責めても仕方ないことは分かっていた。しかし、新はどうしても理由を聞かずには居られなかった。
「え?だって!冴木君は男の子じゃない。いくらなんでも、嫌なら自分で逃げるでしょ?」

 新は悲痛な目で智美を見た。
 智美には理解できなかったのだ。
 薬を盛ってまで、若者に乱暴する野蛮な大人がいること。
 男もその対象になり得ること。

 新は何も言わずふらっと前を向き、そのまま歩き出した。
「······新?何なの!?何とか言ってよ!私間違ってる!?」

 新は立ち止まり、一呼吸置いた。智美を責めたくはなかった。新だって結局何もできなかったのだ。
「智美は悪くないよ。知らなかったなら·····しょうがないと思う。でも、高校生を意識なくさせて部屋に連れ込むのは······集団暴行なんだよ。レイプだ。意味分かるか?友里は体売ってたんじゃなくて、乱暴されたんだよ。」
 智美は雷に打たれたようにその場に立ち止まり、座り込んだ。
「··········そんな、嘘。私そんなつもりじゃ·········!!」
 後ろから智美のすすり泣く声が聞こえたが、新はもう智美と話すことなど何もなかった。

 フラフラと駅近くまで歩いてきた新は、今いるこの場所が、友里の父が交通事故で死んだ場所だと話していたことを思い出した。

 目の前に歩道橋が見えたので、何となく登ってみた。
 歩道橋をゆっくりと歩いていると、ちょうど真ん中辺り、歩道の隅に、汚れた小さなストラップのようなものが落ちていることに気が付いた。

 拾い上げてみると、見覚えのあるものだった。
 几帳面な友里が、いつもスマートフォンのプラグ穴に埃が入らないように挿していたアクセサリー。
 ダサい宇宙飛行士の形をしている。

 放課後買い物している時に、新と一緒に見て勢いで買った。

 あの日の友里からの電話を思い出した。ホテルに連れて行かれた翌日、友里はおそらく、この歩道橋の上から新に電話をかけたのだ。

 思い詰めたような、そして、どこか解放されたような妙に明るい声。
 死のうとする直前、友里は新に何かを伝えようとしたのだ。
 それなのに、新は友里の言葉すら聞こうとはしなかった。

 それどころか、新は噂を信じ、友里に何と言った?『体を売って金を受け取ったのか。』そう言葉を投げつけた。

「友里··········ごめん、友里······!!」
 涙が止まらなかった。時間を巻き戻せるなら、すぐにでもここにかけつけ思い切り抱き締めてあげたい。

 どん底にいた友里が、最後の最後に伸ばしてきた手を、新は振り払ったのだ。

 あの日電話してきたボロボロの友里を抱き締めるように、新はしばらくその場にうずくまり動かなかった。



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