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十四章 喧嘩
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センター試験が終わると、生徒たちは各々受験や勉強がある為、自主登校という形になった。
友里は特に試験はなかったが、必要もないのに学校に行くつもりはなかったので、図書室で資格の勉強をしたり、本を読んだり、時々壮一の家に遊びに行ったりして時間を過ごした。
そして、何事もなく卒業し家を出るはずだったのだが、そう上手くはいかなかった。
卒業式前日、リハーサルがあるので登校するよう指示があった。
友里は渋々学校へ行く支度をし、家を出ようとしている時、静に呼び止められた。
「ゆうくん、今日早めに帰ってきてね。」
「···············何で?」
嫌な予感がした。静とは最近は口も聞かないので、こうやって話しかけてくること自体が珍しかった。
「またアレするの。今日は、メンバー一人変わるけど、人数も取り分も前回と同じ。19時にホテル集合だから、早めに出ないとね。」
てっきり、あれきりで終わるのだと思っていたが、そう甘くはなかった。
友里は静を無視して家を出た。
もはや、静の要求に応える必要はなかった。卒業証書を受け取れば卒業は確定しているし、いざとなったら壮一の家に泊めてもらえばいい。
写真をばら撒くなどと脅されたとしても、そんなことをして困るのは静だ。
朝から不快な気持ちを抱えたまま登校した。
久々に会うクラスメイトは、学校生活から解き放たれたように浮かれている者もいれば、まだ受験途中でピリピリしている者もいた。
友里が教室に入ると、壮一が軽く手を上げた。席に座り顔を上げると、新が目の前に立っていた。
「··········何?」
「何じゃない。おはようだろ。」
友里が睨むと、新は気にせず言葉を続けた。
「友里、話があるんだ。放課後屋上で待ってる。」
「話?俺行かないよ。帰り急ぐし。待ってんなよ。」
「········絶対来いよ。」
(なんだ新のやつ·······最後の最後に話って。)
卒業式のリハーサルが終わり、帰り支度をしていた友里に、壮一が話しかけてきた。
「ゆう、朝、羽柴に話しかけられてなかった?何て?」
「あー·····話があるから放課後呼び出された。でも行かない。」
「··········うん。俺も、ゆうに行ってほしくない。」
そんなことを壮一が言うのは初めてだった。壮一なら、
『最後だから話してくれば?後悔するよ。』と言葉をかける気がする。
「ちなみになんで?俺に行ってほしくない理由があんの?」
友里が苦笑しながら聞くと、壮一は真剣な顔をし、言葉を選ぶように話し始めた。
「上手く言えないんだけど······ゆうが遠くに行っちゃう気がするんだ。何もかも、羽柴に全部、攫われる気がする。」
壮一に何が見えているのか分からない。友里は気を取り直し、壮一の肩を叩いた。
「安心しろよ。俺はどこも行かないし。新のところもいかない。そう、卒業式の打ち合わせあるんだろ?じゃあ、また明日な!」
友里は壮一を安心させるよう、とびきりの笑顔を見せて手を振った。
しかし、これが友里にとって壮一との最後の別れになるとは、この時は夢にも思わなかった。
外は雨が降り出していた。
正直に言うと、友里は新と話したかった。しかし、最後の最後に何か重大なことを伝えられるのは怖い。
明日で本当に終わりだ。新にとっても、このまま友里と縁が切れたままの方がいいに決まっている。
友里は屋上へは行かず下駄箱に向かった。靴を履き、傘を差しながら外へ出た。
もう少しで校門というところで、肩を掴まれた。
「友里!」
振り向くと、息を切らして走ってきた新だった。傘もささず、濡れ鼠になっている。
「屋上からお前の姿見えたから走ってきた。」
友里は視線を外すとスタスタと歩き出した。
「俺行かないって言ったじゃん。」
「友里······!聞けよ。俺謝りたかったんだ!この前ひどいこと言ってごめん。」
「········何で謝るんだよ?俺が体売ってるって本当のことだよ。お前は間違ってない。分かったらもう俺に関わんないで。じゃあな。」
友里が再度校門を抜けようとすると、痺れを切らした新は、友里がさしていた傘を強引に取り上げ投げ捨てた。
傘がグラウンドに転がり、友里の肌に冷たい雨が降り注いできた。
「··········何すんだよお前!」
友里は怒りのあまり、新に掴みかかった。
「俺はな、新、お前の大嫌いなホモなんだよ。俺は誰とでも寝るよ。義理の母親や色んな大人と寝てるし、木村や横山やお前とだって寝れる。だから、俺に友情なんか感じたって無駄。さっさと金持ちのパパが待つ家に帰れ!」
新は傷付いたような表情になり、友里を睨みつけた。
「何で·············」
「あ?」
「何でそんなこと言うんだ!!」
今度は新が友里に掴みかかり、雨で泥濘むグラウンドに友里を押し倒し馬乗りになった。
生徒たちはザワつき始め、「新と冴木が喧嘩してる!」と男子生徒が囃し立てた。友里と新の周囲には、気づけば人だかりができていた。
「お前なんでそんなひねくれてんだよ!」
「········離せよ!降りろ!!」
「横山とベタベタしてたのだって俺への当てつけだろ!?ムカつくんだよ!」
「勝手に嫉妬すんな!!お前は智美とよろしくやってろ!!」
泥まみれになりながら二人は揉み合い、罵り合った。
騒ぎを聞きつけた男性教師が新を羽交い締めにし、友里から引き離した。
「お前たち·······!!卒業間近に何やってる!?これ以上問題を起こすな!!!喧嘩するなら校門の外でやれ!退学にするぞ!?」
新から解放された友里は、自由になった隙に走り出し校門を出た。
新は教師に捕まっているのか、振り返っても追ってはこなかった。
しばらく走った後、友里はとぼとぼと歩き出した。
びしょびしょに濡れ、泥プールに飛び込んだのではないかと言う程全身泥まみれだった。
電車もバスにも乗れず、友里は仕方なく、雨に打たれながら家まで歩いて帰った。
「もう·····あいつ本当に何なんだよ······」
友里はやりきれなさで一杯になった。新はもう友里のことなど気にもしていないと思ったのに、友里に対して、あそこまで強い感情を持っているとは意外だった。
結局それから一時間ほどかかり、家に帰り着いた時には暗くなっていた。
(疲れた·······明日の卒業式行くの止めようかな。)
友里がぼんやりと考えながら玄関のドアを開けると、静がすごい形相で廊下に立っており、こちらを睨んでいた。
友里は特に試験はなかったが、必要もないのに学校に行くつもりはなかったので、図書室で資格の勉強をしたり、本を読んだり、時々壮一の家に遊びに行ったりして時間を過ごした。
そして、何事もなく卒業し家を出るはずだったのだが、そう上手くはいかなかった。
卒業式前日、リハーサルがあるので登校するよう指示があった。
友里は渋々学校へ行く支度をし、家を出ようとしている時、静に呼び止められた。
「ゆうくん、今日早めに帰ってきてね。」
「···············何で?」
嫌な予感がした。静とは最近は口も聞かないので、こうやって話しかけてくること自体が珍しかった。
「またアレするの。今日は、メンバー一人変わるけど、人数も取り分も前回と同じ。19時にホテル集合だから、早めに出ないとね。」
てっきり、あれきりで終わるのだと思っていたが、そう甘くはなかった。
友里は静を無視して家を出た。
もはや、静の要求に応える必要はなかった。卒業証書を受け取れば卒業は確定しているし、いざとなったら壮一の家に泊めてもらえばいい。
写真をばら撒くなどと脅されたとしても、そんなことをして困るのは静だ。
朝から不快な気持ちを抱えたまま登校した。
久々に会うクラスメイトは、学校生活から解き放たれたように浮かれている者もいれば、まだ受験途中でピリピリしている者もいた。
友里が教室に入ると、壮一が軽く手を上げた。席に座り顔を上げると、新が目の前に立っていた。
「··········何?」
「何じゃない。おはようだろ。」
友里が睨むと、新は気にせず言葉を続けた。
「友里、話があるんだ。放課後屋上で待ってる。」
「話?俺行かないよ。帰り急ぐし。待ってんなよ。」
「········絶対来いよ。」
(なんだ新のやつ·······最後の最後に話って。)
卒業式のリハーサルが終わり、帰り支度をしていた友里に、壮一が話しかけてきた。
「ゆう、朝、羽柴に話しかけられてなかった?何て?」
「あー·····話があるから放課後呼び出された。でも行かない。」
「··········うん。俺も、ゆうに行ってほしくない。」
そんなことを壮一が言うのは初めてだった。壮一なら、
『最後だから話してくれば?後悔するよ。』と言葉をかける気がする。
「ちなみになんで?俺に行ってほしくない理由があんの?」
友里が苦笑しながら聞くと、壮一は真剣な顔をし、言葉を選ぶように話し始めた。
「上手く言えないんだけど······ゆうが遠くに行っちゃう気がするんだ。何もかも、羽柴に全部、攫われる気がする。」
壮一に何が見えているのか分からない。友里は気を取り直し、壮一の肩を叩いた。
「安心しろよ。俺はどこも行かないし。新のところもいかない。そう、卒業式の打ち合わせあるんだろ?じゃあ、また明日な!」
友里は壮一を安心させるよう、とびきりの笑顔を見せて手を振った。
しかし、これが友里にとって壮一との最後の別れになるとは、この時は夢にも思わなかった。
外は雨が降り出していた。
正直に言うと、友里は新と話したかった。しかし、最後の最後に何か重大なことを伝えられるのは怖い。
明日で本当に終わりだ。新にとっても、このまま友里と縁が切れたままの方がいいに決まっている。
友里は屋上へは行かず下駄箱に向かった。靴を履き、傘を差しながら外へ出た。
もう少しで校門というところで、肩を掴まれた。
「友里!」
振り向くと、息を切らして走ってきた新だった。傘もささず、濡れ鼠になっている。
「屋上からお前の姿見えたから走ってきた。」
友里は視線を外すとスタスタと歩き出した。
「俺行かないって言ったじゃん。」
「友里······!聞けよ。俺謝りたかったんだ!この前ひどいこと言ってごめん。」
「········何で謝るんだよ?俺が体売ってるって本当のことだよ。お前は間違ってない。分かったらもう俺に関わんないで。じゃあな。」
友里が再度校門を抜けようとすると、痺れを切らした新は、友里がさしていた傘を強引に取り上げ投げ捨てた。
傘がグラウンドに転がり、友里の肌に冷たい雨が降り注いできた。
「··········何すんだよお前!」
友里は怒りのあまり、新に掴みかかった。
「俺はな、新、お前の大嫌いなホモなんだよ。俺は誰とでも寝るよ。義理の母親や色んな大人と寝てるし、木村や横山やお前とだって寝れる。だから、俺に友情なんか感じたって無駄。さっさと金持ちのパパが待つ家に帰れ!」
新は傷付いたような表情になり、友里を睨みつけた。
「何で·············」
「あ?」
「何でそんなこと言うんだ!!」
今度は新が友里に掴みかかり、雨で泥濘むグラウンドに友里を押し倒し馬乗りになった。
生徒たちはザワつき始め、「新と冴木が喧嘩してる!」と男子生徒が囃し立てた。友里と新の周囲には、気づけば人だかりができていた。
「お前なんでそんなひねくれてんだよ!」
「········離せよ!降りろ!!」
「横山とベタベタしてたのだって俺への当てつけだろ!?ムカつくんだよ!」
「勝手に嫉妬すんな!!お前は智美とよろしくやってろ!!」
泥まみれになりながら二人は揉み合い、罵り合った。
騒ぎを聞きつけた男性教師が新を羽交い締めにし、友里から引き離した。
「お前たち·······!!卒業間近に何やってる!?これ以上問題を起こすな!!!喧嘩するなら校門の外でやれ!退学にするぞ!?」
新から解放された友里は、自由になった隙に走り出し校門を出た。
新は教師に捕まっているのか、振り返っても追ってはこなかった。
しばらく走った後、友里はとぼとぼと歩き出した。
びしょびしょに濡れ、泥プールに飛び込んだのではないかと言う程全身泥まみれだった。
電車もバスにも乗れず、友里は仕方なく、雨に打たれながら家まで歩いて帰った。
「もう·····あいつ本当に何なんだよ······」
友里はやりきれなさで一杯になった。新はもう友里のことなど気にもしていないと思ったのに、友里に対して、あそこまで強い感情を持っているとは意外だった。
結局それから一時間ほどかかり、家に帰り着いた時には暗くなっていた。
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