【完結】勇者一行の後遺症~勇者に振られた薬師、騎士の治療担当になる~

きなこもち

文字の大きさ
1 / 27

第一話 勇者の帰還

しおりを挟む
「勇者一行の帰還だぞー!!!」
 外から地を這うような野太い男の叫び声が聞こえ、イェリはやりかけていた皿洗いの手を止め、バタバタと慌てて外に飛び出した。

 通りに面した建物の上階から、色とりどりの花びらが撒かれ、三年にも渡り魔王討伐の旅に出ていた勇者一行を人々が喜びと歓喜の笑顔で出迎えた。
 勇者一行の姿を一目見ようと、通りは多くの人で溢れ帰っていた。

 人々の期待が高まる中、遠くから馬に乗った勇者一行が現れた。人々に手を振りながら、ゆっくりとこちらに向かって闊歩してくる。イェリは、人混みの中からなんとか顔を出し、跳び跳ねながら、幼馴染みで勇者でもあるルイス・エヴァンの姿を三年ぶりに見た。
 イェリはこの三年間、毎日ルイスの無事を祈り、帰りを待ちわびていた。ただ無事に帰ってきて欲しい、イェリが望むのはただそれだけであった。

 三年ぶりに見たルイスは、以前の少年のようなあどけない面影は消え去り、精悍さと逞しさを併せ持つ、誰がどう見ても紛れもない『勇者』へと成長していた。
「ルイス·······!私よ!!!イェリよ!!··········おかえりルイス!!!」
 イェリはルイス達が無事戻ったことへの嬉しさで涙が溢れ、歓喜で胸が一杯になった。嬉しさの余り、幼馴染みの名を何度も叫んだが、人々の喜びの声に書き消され、ルイスはイェリに気が付くことはなかった。

 ルイスが目の前を通り過ぎてしまった為、イェリは残念そうに肩を落とした。しかしその後ろには、ルイスと共に魔王討伐の旅をした仲間達が続いた為、イェリは彼らに心の底からの感謝と尊敬の意を表し、ありったけの拍手を送りながら、英雄達をまじまじと目に焼き付けた。

 国を災いから救った清らかな聖女
 長髪で美麗な国一の魔法使い
 鍛えぬかれた逞しい体を持つ騎士

 皆、数々の困難を乗り越えた強者達だ。自信に満ち溢れ、笑顔で民衆に手を振る彼らはキラキラと輝いていた。
 彼らはイェリとは全く別世界を生きている、この国の希望の星だ。その中にルイスが含まれていることが、イェリには不思議な感じがした。

 幼馴染みであり、恋人でもあるルイスをこの三年間、ただひたすら待ち続けた。

 イェリは今年で二十五歳だ。
 世間では完全に『行き遅れた女』だが、イェリからすればそんなことはどうでも良かった。イェリにはルイスしかいない。幼い頃から共に育ってきたイェリとルイスは、家族のような友達のような関係でもあり、そして魂の繋がった恋人だった。

 勇者に選ばれたルイスが、魔王討伐の旅に出ることが決まった日、イェリは不安と寂しさで押し潰されそうになっていた。
「ルイス·······!!お願い行かないで!!私はあなたが勇者なんかじゃなくていい······!───死ぬかもしれないじゃない。あなたがいなくなったら、私は生きていけない。」
 イェリは悲しみの涙を流しながら、ルイスに抱き付き、討伐への旅を止めるよう懇願した。
 ルイスは神妙な顔をしていたが、イェリの顔を優しく持ち上げ、意思の強い目でイェリを諭した。
「イェリ。君を置いていくのを許して欲しい。でもこれは、僕に与えられた使命なんだ。やり遂げなきゃいけない。だから待ってて。」
「························!」
「必ず魔王を倒して君のところへ戻ってくるよ。そしたら僕達一緒になろう。死が二人を分かつまでずっと一緒だ。────愛してるイェリ。」
 ルイスは愛しそうにイェリをきつく抱き締めた。ルイスの意思は変わらない、そう悟ったイェリは、涙を堪えながらルイスの頬に触れた。
「───ルイス····約束よ。無事に生きて帰ってきて。破ったら許さない。」
ルイスは口を固く結び頷くと、ポケットから小さな箱を取り出し、中に入っていた指輪をそっとイェリの左手の薬指に嵌めた。
「─────ルイス、これ────」
「いつか渡そうと思ってたんだ。僕がいない間、イェリに他の男が近付いたらと思うと不安で。着けててくれる?」
イェリは涙を拭いながら顔を綻ばせた。
「私にはあなたしかいない。知ってるでしょ?·········嬉しい。ありがとうルイス。大切にする。」


 それが二人があの日した約束だった。
 無事に生きて帰り、ずっと一緒に暮らす。つまりは結婚するということだ。
 イェリはあの日の約束を胸に、この三年間、不安で眠れない夜を幾度も過ごし、今日という日を迎えることができた。

 (信じて待ってて良かった·······!!ルイスは約束通り、生きて帰ってきてくれたわ!)

 これからルイス一行は王宮へ行くはずだ。先程は気付かれることがなかったが、王宮へ行けば、ルイスと三年ぶりの対面が果たせるはずだ。
 イェリはドキドキしながら身支度をした。先程見た、まるで別世界の人のようなルイスの姿が少々不安にはなったが、イェリは薬指に嵌めた指輪を触り、気持ちを落ち着かせながら王宮へ向かう馬車へと乗り込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹に裏切られた聖女は娼館で競りにかけられてハーレムに迎えられる~あれ? ハーレムの主人って妹が執心してた相手じゃね?~

サイコちゃん
恋愛
妹に裏切られたアナベルは聖女として娼館で競りにかけられていた。聖女に恨みがある男達は殺気立った様子で競り続ける。そんな中、謎の美青年が驚くべき値段でアナベルを身請けした。彼はアナベルをハーレムへ迎えると言い、船に乗せて隣国へと運んだ。そこで出会ったのは妹が執心してた隣国の王子――彼がこのハーレムの主人だったのだ。外交と称して、隣国の王子を落とそうとやってきた妹は彼の寵姫となった姉を見て、気も狂わんばかりに怒り散らす……それを見詰める王子の目に軽蔑の色が浮かんでいることに気付かぬまま――

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

聖女の妹によって家を追い出された私が真の聖女でした

天宮有
恋愛
 グーリサ伯爵家から聖女が選ばれることになり、長女の私エステルより妹ザリカの方が優秀だった。  聖女がザリカに決まり、私は家から追い出されてしまう。  その後、追い出された私の元に、他国の王子マグリスがやって来る。  マグリスの話を聞くと私が真の聖女で、これからザリカの力は消えていくようだ。

実は私が国を守っていたと知ってましたか? 知らない? それなら終わりです

サイコちゃん
恋愛
ノアは平民のため、地位の高い聖女候補達にいじめられていた。しかしノアは自分自身が聖女であることをすでに知っており、この国の運命は彼女の手に握られていた。ある時、ノアは聖女候補達が王子と関係を持っている場面を見てしまい、悲惨な暴行を受けそうになる。しかもその場にいた王子は見て見ぬ振りをした。その瞬間、ノアは国を捨てる決断をする――

虚弱体質で偽聖女だと追放された私は、隣国でモフモフ守護獣様の白き聖女になりました

・めぐめぐ・
恋愛
平民孤児であるセレスティアルは、守護獣シィに力を捧げる【聖女】の一人。しかし他の聖女たちとは違い、儀式後に疲れ果ててしまうため「虚弱すぎる」と、本当に聖女なのか神殿内で疑われていた。 育ての親である神官長が拘束され、味方と居場所を失った彼女は、他の聖女たちにこき使われる日々を過ごす。そしてとうとう、平民が聖女であることを許せなかった王太子オズベルトによって、聖女を騙った罪で追放されてしまった。 命からがら隣国に辿り着いたセレスティアルは、そこで衰弱した白き獣――守護獣ラメンテと、彼と共に国を守ってきた国王レイと出会う。祖国とは違い、守護獣ラメンテに力を捧げても一切疲れず、セレスティアルは本来の力を発揮し、滅びかけていた隣国を再生していく。 「いやいや! レイ、僕の方がセレスティアルのこと、大好きだしっ!!」 「いーーや! 俺の方が大好きだ!!」 モフモフ守護獣と馬鹿正直ヒーローに全力で愛されながら―― ※頭からっぽで

私の妹は確かに聖女ですけど、私は女神本人ですわよ?

みおな
ファンタジー
 私の妹は、聖女と呼ばれている。  妖精たちから魔法を授けられた者たちと違い、女神から魔法を授けられた者、それが聖女だ。  聖女は一世代にひとりしか現れない。  だから、私の婚約者である第二王子は声高らかに宣言する。 「ここに、ユースティティアとの婚約を破棄し、聖女フロラリアとの婚約を宣言する!」  あらあら。私はかまいませんけど、私が何者かご存知なのかしら? それに妹フロラリアはシスコンですわよ?  この国、滅びないとよろしいわね?  

森聖女エレナ〜追放先の隣国を発展させたら元婚約者が泣きついてきたので処刑します〜

けんゆう
恋愛
緑豊かなグリンタフ帝国の森聖女だったエレナは、大自然の調和を守る大魔道機関を管理し、帝国の繁栄を地道に支える存在だった。だが、「無能」と罵られ、婚約破棄され、国から追放される。  「お前など不要だ」 と嘲笑う皇太子デュボワと森聖女助手のレイカは彼女を見下し、「いなくなっても帝国は繁栄する」 と豪語した。  しかし、大魔道機関の管理を失った帝国は、作物が枯れ、国は衰退の一途を辿る。  一方、エレナは隣国のセリスタン共和国へ流れ着き、自分の持つ「森聖力」の真価 に気づく……

追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜

三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。 「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」 ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。 「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」 メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。 そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。 「頑張りますね、魔王さま!」 「……」(かわいい……) 一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。 「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」 国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……? 即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。 ※小説家になろうさんにも掲載

処理中です...