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第二話 イェリとルイス
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イェリとルイスはどこにでもある小さな町で産まれた。
イェリは平凡で優しい両親の元に産まれた平凡な娘だったが、ルイスは違った。
ルイスの母親は美人だが奔放な人間で、毎夜男を家に連れ込んでは、数週間家を空けることもザラだった。そしてルイスが八歳の時、家を出て行ったきり戻らなかった。
八歳の子どもが、親の加護もなく一人きりで生きていけるはずがない。性に奔放な母親のおかげで、ルイスは村の大人からつまはじきにされていた。いつも汚れた服を着て、前髪を長く伸ばし、顔も黒い髪に隠れていた。子ども達は大人が取る彼への態度を見て、ルイスが弱者だと分かると、残酷にも石を投げたり、叩いたり蹴ったりして日常的に虐めていた。
イェリの両親は、そんなルイスを哀れに思い、こっそりではあるが食糧を分け与えていた。両親が動くと、それを見た周囲の大人達から何を言われるか分からない為、ルイスに食糧を持っていくのはイェリの役割だった。
イェリはルイスよりも四歳年上の十二歳だった。母親譲りの赤毛と、少しつり上がった大きな目元は美しかったが、気が強く見られるのでイェリは自分の容姿が嫌いだった。
ルイスはいつも下を向いていて、人前で声を発することはなかったが、イェリが食糧を持っていった時には、申し訳なさそうにお辞儀をするのだ。そんな幼いルイスの姿がイェリには痛々しく、そして守ってあげたくなった。
次第に、イェリはルイスへ食糧を渡すだけでなく、遊びに誘うようになった。ルイスは特に喜ぶ様子はなかったが嫌がりもせず、ただ黙ってイェリに付いてきては、イェリが楽しそうに話をするのを聞いていた。
町の同年代の子ども達のことを、イェリはあまり好きではなかった。閉鎖的で、人と違うことを揶揄する姿は大人と変わらず、イェリはそんな子達よりも、物言わぬルイスと一緒にいる方が気楽で楽しかった。
ある日、ルイスの伸びきった黒髪が余りに彼の視界を邪魔していた為、イェリはルイスに提案をした。
「ねぇ、ルイス。髪が邪魔じゃない?そんなに長いと洗うのも大変だし······私が少しだけ切ってあげる!駄目?」
ルイスは戸惑いたしたものの、おずおずと頷いた為、イェリは木の下にルイスを座らせ、彼の長い前髪にハサミを入れた。
前髪の下に隠れていた瞳を、イェリは初めて間近で見た。
薄い焦げ茶色の瞳は澄んでいて、まるで宝石のようだった。よく見れば、目も鼻も口も、バランス良く配置されており、ルイスは町のどの子どもよりも美しかった。イェリはしばらくルイスの瞳に見入られていたが、すぐにハッとして顔を赤くした。
「ル、ルイスの瞳は綺麗なんだね!隠さない方がいいと思うよ。私は·····あなたの目がすごく好き。」
ルイスは何を言われているのか分からないような、呆けた表情をしていたが、すぐに焦ったように下を向いた。
「下を向くのもやめよう?何か意地悪言ってくる子がいたら、私が守ってあげる。私の本当の友達はルイスだけよ。」
ルイスは薄い焦げ茶色の瞳でイェリをじっと見つめた後、突然堪えきれないように嗚咽して泣き出した。
「ど、どうしたのルイス········!何か嫌だった?ごめんね!」
慌てたイェリはルイスの背中を撫でた。ルイスはブンブンと首を振り、イェリに対して初めて口を開いた。
「ど、どうしてイェリは僕に優しくするの·······!みんな、僕のこと嫌いだ。汚いし、醜いし、邪魔だよ。母さんも······だから僕を捨てたんだ!僕は悪い子だ。優しくされる資格なんかない·······!!」
ルイスは、母親だけでなく家に来る見知らぬ男達からも、日常的に『邪魔だ』『汚い』『悪い子』と蔑まれ育ってきた。優しくしてくれる人間は只の一人もいなかった。イェリの両親と、イェリを除いては。
ルイスの本心を聞いたイェリは、自分でもどうしようもなく悲しくなり、泣きながら大声でルイスに反論した。
「そんなことない!!ルイスは邪魔者なんかじゃない·····!!ルイスのお母さんが馬鹿なんだ!あんな人お母さんじゃない!!」
「···················!」
ルイスはイェリの迫力に圧倒されたのか、泣きながらも言葉を失っていた。
「私はルイスが好き!他の皆が嫌いって言っても私は大好き!!文句ある!?」
イェリは感情のまま怒鳴った後、困惑するルイスをきつく抱き締めた。
「今日から私がルイスの家族だよ。だからルイスは一人じゃない。今度、さっきみたいなこと言ったらぶっとばすよ!分かった?」
ルイスはイェリにしがみつき、肩に顔を埋めていた。二人してわんわん泣いた後、しばらくして落ち着いたルイスとイェリは、二人で手を繋いで家に帰った。
それから、ルイスは少しづつだが言葉を発するようになった。髪で顔を隠すことを止め、下を向かずに前を向くようになった。
ルイスを虐めていた子ども達も、ルイスの変化によって『弱者を虐げる』という構図が崩れ、表立って乱暴を働く者も少なくなった。それでも、ルイスにちょっかいをかけてくる乱暴者はいたが、それもある日を境にピタッと止んだ。
「おい、ルイス。お前最近調子乗ってるんじゃないのか?」
堂々としているルイスのことを許せないニキビ面の大柄の少年と取り巻き達が、学校の帰りにルイスに絡んでいるのを発見したイェリは、すぐさま走り寄り、大きな声で相手を威嚇した。
「ルイスに構わないで!あっち行け!!」
「あ!?なんだと······!!この女!!!」
イェリに腹を立てたリーダー格の少年は、イェリの襟元に掴みかかり、イェリを地面に押し倒した後、張り手を食らわした。
周囲もその光景を見ていたが、元々素行の悪い少年達であったので、皆見て見ぬふりをし、そそくさと離れていった。
痛みと悔しさで涙を滲ませたイェリは、押し倒された状態でも足をバタバタと動かし、精一杯の抵抗をした。イェリの上に跨がった大柄の少年を下から見上げたイェリは、少年の背後にゆらっと別の影が重なるのを見ていた。
次の瞬間、近くに落ちていた太い木の棒を手にしたルイスは、思い切り腕を振り上げ、渾身の力を込めて、イェリの上に跨がっていた少年の頭を殴った。
鈍い音と共に少年は呻き声をあげ、地面に転がった。
「イェリに触るな。この豚。」
腹の底から出すような、怒気をはらんだルイスの声を聞いた少年達は、予想外の反撃に驚き混乱していた。しかし、すぐに別の二人がルイスに殴りかかり、ルイスは地面に転がされ、顔や腹を殴られたり蹴られたりしていた。上級生二人によってたかって殴られたルイスは顔が腫れ、鼻血が出ていたが、一瞬の反撃のチャンスを見逃さなかった。
一人の少年の股ぐらを思い切り蹴りあげると、すかさず怯んだもう一人の少年の頭を、転がっていた木の棒で殴りつけた。素行の悪い少年達であったが、子ども同士でここまでの本気の喧嘩をしたことはなく、完全に戦意喪失し、泣きながら退散しようとしていた。
逃げようとする少年達を尚も追い回し、「待て!逃げるなこの野郎!!」と言いながら殴りかかろうとするルイスを見て、さすがにまずいと感じたイェリが止めに入り、やっとその場は収まった。
翌日から、ルイスは周囲から、『大人しいが怒らせるとやばい奴』という認識をされるようになり、ルイスにちょっかいをかけてくる者は一人もいなくなった。
ルイスは元々頭が良かったので、学校での成績は良かった。小綺麗にしていれば、容姿が際立って整っていたことに周囲も気付き始め、もはやルイスは虐められっ子ではなく、一目置かれる存在となっていた。
ルイスが十歳になると、町の外れに住む、王宮で騎士をしていた腕の立つ壮年の男性の元に弟子入りをすると言い、住み慣れた家を出ていった。
日々稽古に明け暮れているのか、時々イェリに会いに来るルイスは、いつも体中傷だらけだった。イェリは心配したが、ルイスが成長するにつれ生傷も減り、背が伸び、筋肉の付いたがっしりとした体格になるにつれ、その心配もなくなった。
ルイスが十五歳になる頃には、大人でもルイスに剣や武道で敵うものはおらず、おまけに精悍で逞しい少年に成長したルイスは、幼い頃とは違った意味で、町の中で明らかに異質な存在となっていた。
ルイスは思春期に入った段階から、イェリへの恋心を自覚しはじめ、イェリもまた、年下の弟のようなルイスが男らしく成長するのを間近で感じ、いつしかルイスといると胸の鼓動が早くなることに気づいた。
イェリが十九歳になると、周囲は早い子で結婚をし始める子もいた。
四歳年下のルイスは十五歳だ。お互いに好意があったとしても、十代の頃の四歳差というのは大きな壁があり、友達のような、姉と弟のような関係を崩せずにいた。
イェリは農家は継がず、町の薬局で働いていた。というのも、イェリは十五歳の頃国民全員に行われる『魔力検査』において、微量ながら『魔力有り』と認定されたからだった。通常魔力があると判断された場合、国の首都にある学園へ集められることになるが、イェリは本当に微弱な魔力だったことと、両親やルイスのいるこの町を離れたくなかった為、僅かな回復魔法を込めた薬を町民に提供する、薬局の仕事に従事しているのであった。
イェリは美しく成長し、赤い髪も大きなつり上がった目も白い肌も、男性からすれば魅力的に映った。好意を寄せられることは度々あったが、イェリとルイスが他人を寄せ付けぬ深い仲であるということは、町の人間の間では有名だった。ルイスよりも男として勝てる自信のある男性は現れず、イェリはこの歳になるまで、全く恋愛経験がなかった。
そうしてイェリとルイスは穏やかに、何の変哲もない幸せな日々を過ごしていたが、それはルイスが十五歳の時に受けた『魔力検査』を境に終わることになった。
イェリは平凡で優しい両親の元に産まれた平凡な娘だったが、ルイスは違った。
ルイスの母親は美人だが奔放な人間で、毎夜男を家に連れ込んでは、数週間家を空けることもザラだった。そしてルイスが八歳の時、家を出て行ったきり戻らなかった。
八歳の子どもが、親の加護もなく一人きりで生きていけるはずがない。性に奔放な母親のおかげで、ルイスは村の大人からつまはじきにされていた。いつも汚れた服を着て、前髪を長く伸ばし、顔も黒い髪に隠れていた。子ども達は大人が取る彼への態度を見て、ルイスが弱者だと分かると、残酷にも石を投げたり、叩いたり蹴ったりして日常的に虐めていた。
イェリの両親は、そんなルイスを哀れに思い、こっそりではあるが食糧を分け与えていた。両親が動くと、それを見た周囲の大人達から何を言われるか分からない為、ルイスに食糧を持っていくのはイェリの役割だった。
イェリはルイスよりも四歳年上の十二歳だった。母親譲りの赤毛と、少しつり上がった大きな目元は美しかったが、気が強く見られるのでイェリは自分の容姿が嫌いだった。
ルイスはいつも下を向いていて、人前で声を発することはなかったが、イェリが食糧を持っていった時には、申し訳なさそうにお辞儀をするのだ。そんな幼いルイスの姿がイェリには痛々しく、そして守ってあげたくなった。
次第に、イェリはルイスへ食糧を渡すだけでなく、遊びに誘うようになった。ルイスは特に喜ぶ様子はなかったが嫌がりもせず、ただ黙ってイェリに付いてきては、イェリが楽しそうに話をするのを聞いていた。
町の同年代の子ども達のことを、イェリはあまり好きではなかった。閉鎖的で、人と違うことを揶揄する姿は大人と変わらず、イェリはそんな子達よりも、物言わぬルイスと一緒にいる方が気楽で楽しかった。
ある日、ルイスの伸びきった黒髪が余りに彼の視界を邪魔していた為、イェリはルイスに提案をした。
「ねぇ、ルイス。髪が邪魔じゃない?そんなに長いと洗うのも大変だし······私が少しだけ切ってあげる!駄目?」
ルイスは戸惑いたしたものの、おずおずと頷いた為、イェリは木の下にルイスを座らせ、彼の長い前髪にハサミを入れた。
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薄い焦げ茶色の瞳は澄んでいて、まるで宝石のようだった。よく見れば、目も鼻も口も、バランス良く配置されており、ルイスは町のどの子どもよりも美しかった。イェリはしばらくルイスの瞳に見入られていたが、すぐにハッとして顔を赤くした。
「ル、ルイスの瞳は綺麗なんだね!隠さない方がいいと思うよ。私は·····あなたの目がすごく好き。」
ルイスは何を言われているのか分からないような、呆けた表情をしていたが、すぐに焦ったように下を向いた。
「下を向くのもやめよう?何か意地悪言ってくる子がいたら、私が守ってあげる。私の本当の友達はルイスだけよ。」
ルイスは薄い焦げ茶色の瞳でイェリをじっと見つめた後、突然堪えきれないように嗚咽して泣き出した。
「ど、どうしたのルイス········!何か嫌だった?ごめんね!」
慌てたイェリはルイスの背中を撫でた。ルイスはブンブンと首を振り、イェリに対して初めて口を開いた。
「ど、どうしてイェリは僕に優しくするの·······!みんな、僕のこと嫌いだ。汚いし、醜いし、邪魔だよ。母さんも······だから僕を捨てたんだ!僕は悪い子だ。優しくされる資格なんかない·······!!」
ルイスは、母親だけでなく家に来る見知らぬ男達からも、日常的に『邪魔だ』『汚い』『悪い子』と蔑まれ育ってきた。優しくしてくれる人間は只の一人もいなかった。イェリの両親と、イェリを除いては。
ルイスの本心を聞いたイェリは、自分でもどうしようもなく悲しくなり、泣きながら大声でルイスに反論した。
「そんなことない!!ルイスは邪魔者なんかじゃない·····!!ルイスのお母さんが馬鹿なんだ!あんな人お母さんじゃない!!」
「···················!」
ルイスはイェリの迫力に圧倒されたのか、泣きながらも言葉を失っていた。
「私はルイスが好き!他の皆が嫌いって言っても私は大好き!!文句ある!?」
イェリは感情のまま怒鳴った後、困惑するルイスをきつく抱き締めた。
「今日から私がルイスの家族だよ。だからルイスは一人じゃない。今度、さっきみたいなこと言ったらぶっとばすよ!分かった?」
ルイスはイェリにしがみつき、肩に顔を埋めていた。二人してわんわん泣いた後、しばらくして落ち着いたルイスとイェリは、二人で手を繋いで家に帰った。
それから、ルイスは少しづつだが言葉を発するようになった。髪で顔を隠すことを止め、下を向かずに前を向くようになった。
ルイスを虐めていた子ども達も、ルイスの変化によって『弱者を虐げる』という構図が崩れ、表立って乱暴を働く者も少なくなった。それでも、ルイスにちょっかいをかけてくる乱暴者はいたが、それもある日を境にピタッと止んだ。
「おい、ルイス。お前最近調子乗ってるんじゃないのか?」
堂々としているルイスのことを許せないニキビ面の大柄の少年と取り巻き達が、学校の帰りにルイスに絡んでいるのを発見したイェリは、すぐさま走り寄り、大きな声で相手を威嚇した。
「ルイスに構わないで!あっち行け!!」
「あ!?なんだと······!!この女!!!」
イェリに腹を立てたリーダー格の少年は、イェリの襟元に掴みかかり、イェリを地面に押し倒した後、張り手を食らわした。
周囲もその光景を見ていたが、元々素行の悪い少年達であったので、皆見て見ぬふりをし、そそくさと離れていった。
痛みと悔しさで涙を滲ませたイェリは、押し倒された状態でも足をバタバタと動かし、精一杯の抵抗をした。イェリの上に跨がった大柄の少年を下から見上げたイェリは、少年の背後にゆらっと別の影が重なるのを見ていた。
次の瞬間、近くに落ちていた太い木の棒を手にしたルイスは、思い切り腕を振り上げ、渾身の力を込めて、イェリの上に跨がっていた少年の頭を殴った。
鈍い音と共に少年は呻き声をあげ、地面に転がった。
「イェリに触るな。この豚。」
腹の底から出すような、怒気をはらんだルイスの声を聞いた少年達は、予想外の反撃に驚き混乱していた。しかし、すぐに別の二人がルイスに殴りかかり、ルイスは地面に転がされ、顔や腹を殴られたり蹴られたりしていた。上級生二人によってたかって殴られたルイスは顔が腫れ、鼻血が出ていたが、一瞬の反撃のチャンスを見逃さなかった。
一人の少年の股ぐらを思い切り蹴りあげると、すかさず怯んだもう一人の少年の頭を、転がっていた木の棒で殴りつけた。素行の悪い少年達であったが、子ども同士でここまでの本気の喧嘩をしたことはなく、完全に戦意喪失し、泣きながら退散しようとしていた。
逃げようとする少年達を尚も追い回し、「待て!逃げるなこの野郎!!」と言いながら殴りかかろうとするルイスを見て、さすがにまずいと感じたイェリが止めに入り、やっとその場は収まった。
翌日から、ルイスは周囲から、『大人しいが怒らせるとやばい奴』という認識をされるようになり、ルイスにちょっかいをかけてくる者は一人もいなくなった。
ルイスは元々頭が良かったので、学校での成績は良かった。小綺麗にしていれば、容姿が際立って整っていたことに周囲も気付き始め、もはやルイスは虐められっ子ではなく、一目置かれる存在となっていた。
ルイスが十歳になると、町の外れに住む、王宮で騎士をしていた腕の立つ壮年の男性の元に弟子入りをすると言い、住み慣れた家を出ていった。
日々稽古に明け暮れているのか、時々イェリに会いに来るルイスは、いつも体中傷だらけだった。イェリは心配したが、ルイスが成長するにつれ生傷も減り、背が伸び、筋肉の付いたがっしりとした体格になるにつれ、その心配もなくなった。
ルイスが十五歳になる頃には、大人でもルイスに剣や武道で敵うものはおらず、おまけに精悍で逞しい少年に成長したルイスは、幼い頃とは違った意味で、町の中で明らかに異質な存在となっていた。
ルイスは思春期に入った段階から、イェリへの恋心を自覚しはじめ、イェリもまた、年下の弟のようなルイスが男らしく成長するのを間近で感じ、いつしかルイスといると胸の鼓動が早くなることに気づいた。
イェリが十九歳になると、周囲は早い子で結婚をし始める子もいた。
四歳年下のルイスは十五歳だ。お互いに好意があったとしても、十代の頃の四歳差というのは大きな壁があり、友達のような、姉と弟のような関係を崩せずにいた。
イェリは農家は継がず、町の薬局で働いていた。というのも、イェリは十五歳の頃国民全員に行われる『魔力検査』において、微量ながら『魔力有り』と認定されたからだった。通常魔力があると判断された場合、国の首都にある学園へ集められることになるが、イェリは本当に微弱な魔力だったことと、両親やルイスのいるこの町を離れたくなかった為、僅かな回復魔法を込めた薬を町民に提供する、薬局の仕事に従事しているのであった。
イェリは美しく成長し、赤い髪も大きなつり上がった目も白い肌も、男性からすれば魅力的に映った。好意を寄せられることは度々あったが、イェリとルイスが他人を寄せ付けぬ深い仲であるということは、町の人間の間では有名だった。ルイスよりも男として勝てる自信のある男性は現れず、イェリはこの歳になるまで、全く恋愛経験がなかった。
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