侍女と愛しの魔法使い【旧題:幼馴染の最強魔法使いは、「運命の番」を見つけたようです。邪魔者の私は消え去るとしましょう。】

きなこもち

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私と幼馴染の最強魔法使い~幼馴染に運命の恋人が現れた!?~

異変

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 その日の夜中のことだった。

 部屋で寝ていたナタリーは、物が割れるような音で目が覚めた。

 アッシュの部屋の方から聞こえた為、飛び起きてアッシュの部屋へ走った。

 ドアをノックし、

「アッシュ様?音がしましたが、どうされました!?」

 声をかけても返事がない。鍵はかかっていなかった為、そのまま部屋の中に入った。

 部屋の中は、暗く、枕元に置いてあった花瓶が割れ散乱していた。アッシュは、苦しそうに呻きながら床に座り込んでいた。

 ナタリーはアッシュに駆け寄った。

「アッシュ様!?どうされました?苦しいのですか!?」

 アッシュの額は汗ばんでおり、かなり苦しそうで苦悶の表情を浮かべている。こんなことは初めてだった。

「大変…!!医者を呼びます。」

 ナタリーが魔法使い専属の医者を呼ぼうとした時、アッシュに両肩を強く掴まれた。

「よせ…!!誰も呼ぶな!」
「え!?しかし…!」

 こんなに苦しんでいるのに、人を呼ぶなとは、理解できなかった。

 しかし、アッシュが鬼気迫る表情で助けを呼ぶことを禁じた為、ナタリーはそれ以上、どうしようもできなくなった。

「分かりました。人は呼びません。私に出来ることはありますか?」

 魔力無しの自分に、アッシュの力になれることなど何もないことは分かっていたが、侍女としてせめて何か役に立ちたかった。

 すると、アッシュはしばらくなにも言わず、ゆっくりと顔を上げた。そして、ナタリーの方に向き直ってはっきりとこう言った。

「お前の助けが必要だ。俺を信じ、全て身を委ねて欲しい。」

「……? はい。私にできることなら。」

 ナタリーは、アッシュが何をしようとしているのか、どういう意味で言っているのか理解できなかったが、今自分にできることがあるならば、その期待に応えたいと思った。

「ありがとう。」

静かにそう言ったかと思うと、次の瞬間、ナタリーの唇はアッシュに塞がれていた。

 一瞬何が起きたか分からず、手でアッシュの胸元を押し返し、離れようとしたが、強く抱き締められた。

 アッシュが苦しんでいたことと、今されているこの行為が何か関係があるのだろう。ナタリーには知る由もないが、アッシュを助けたい一心だったナタリーは、体の力を抜き、この口づけを受け入れた。

 すぐに床に押し倒され、口づけはさらに深くなっていった。次第に頭がボーッとし、暗闇の中、2人の息遣いがやたらはっきりと聞こえていた。

 ナタリーは、頭の隅では、このまま男女の行為をするのかな…私はできるだろうか。などと考えていたが、アッシュは口づけ以上のことはしてこなかった。

 しばらくそうしていたが、ふっとアッシュが顔を離した。表情は落ち着いており、苦しんでいる様子はなかった為、ナタリーは少し安心した。

「あの…アッシュ様…」

ナタリーが何か言おうとすると、アッシュは一言

「……寝る。」

と言い、スタスタと自分のベッドに潜り込んでしまった。

 取り残されたナタリーは、唖然としたが、とりあえずアッシュの様子が普段通りに戻った為、一旦は落ち着いたのだろう。

 心配ではあったが、これ以上、部屋に居座り続けるのは、恥ずかしさと居たたまれなさで無理だった。

「何かあればお呼びください。」

とアッシュに声をかけ、ナタリーは自室に戻った。その日、ナタリーが眠れなかったのは言うまでもない。
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