侍女と愛しの魔法使い【旧題:幼馴染の最強魔法使いは、「運命の番」を見つけたようです。邪魔者の私は消え去るとしましょう。】

きなこもち

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私と幼馴染の最強魔法使い~幼馴染に運命の恋人が現れた!?~

ナタリーの条件

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 ナタリーは、何もする気がおきず、数日部屋から出ず過ごした。

 夜になると、必ずアッシュがノックをして、
「ナタリー、おやすみ。」
 と言い、ドアを開けずに去っていった。

 そして必ず、ドアの前には、ナタリーの好きなお菓子やフルーツが置いてあった。

 正直、アッシュがこのようなことをするとは意外だった。連れ戻したことへの罪悪感があるのだろうか。

 あのアッシュが、ナタリーに気を遣っているとは驚きである。

 (私が好きなもの、覚えてたのね。)

 自分ばかりが世話を焼いていたと思ったが、アッシュもナタリーのことをよく見ていたのだろうか。

 その日も、アッシュがきて、おやすみと言い、去る足音がした。

 ナタリーはドアを開け、

「待って。アッシュ、少し外を散歩しない?」
 と言った。

 2人で並んで歩くのはいつぶりだろうか。ナタリーは、なんだか不思議な感じがした。

 ここ数日、部屋にこもっている中、ナタリーは色々なことを考えていた。

 ナタリーは、もう人間界で暮らすことも、ウィルと会うこともできない。

 魔法界では、ナタリーは悪い意味で目立っており、アッシュの元以外に行くあてもない。

 現状、ここで自分なりに生活の基盤を整え、生きていくのが一番だ。ずっと塞ぎ混んでいても仕方ない。

 ナタリーは、アッシュに話しかけた。

「ねぇアッシュ。あなた、エステル様と取引したって言ってたわよね。それなら、私とも取引して。」

「取引?」

「そう。取引。あなたは、私に近くにいてほしいんでしょ?それなら、私の条件を飲んでもらう。」

 アッシュは少し考え、「聞こう」と言った。

「まず、私に何かしらの仕事をさせて。侍女でも掃除係でもなんでもいい。側室や愛人は絶対に嫌。次に、労働に対する給料をもらう。休暇もきちんともらうわ。どこにいこうと口を出さないで。」

「・・・・・分かった。」

「まだあるわよ!私の着る服を限定しないで。『似合わない』とか『男を誘うつもりか』とか言ったら許さない。私をバカにする発言をしたらまた逃げ出してやるから。」

「・・・すまない。」

「最後に!」

「まだあるのか?多くないか?」

 アッシュは呆れたように言った。

「最後に。ウィルに手を出さないこと。」

「・・・・努力はする。」

 上出来だ。ナタリーの自由を確保しつつ、ウィルの身も多少は安心となった。

 ナタリーが側にいる以上、ウィルに手は出しにくいだろう。

 ナタリーは、言いたいことを言えたおかげで気分がスッとした。夜の空気を胸一杯に吸い込むと、人間界も魔法界も、空気の美味しさはそう変わらない気がした。

 ナタリーがアッシュの少し前を、ブラブラしながら歩いていると、アッシュが話しかけてきた。

「ナタリー、3年間、どう過ごしていた?」

 ナタリーは、そんなことを聞かれるとは思っていなかった。他人がどう過ごしていようと、気にしない男がアッシュだった。

 この3年で、少し心境の変化があったのだろうか?

「楽しかったわよ。小さいけど、素敵な家に住んでた。色んな場所に行って、色んな人と関わった。育てた花を売る仕事をしてたの。あと、ボートに乗って紅葉を見たり、芝生に寝転がって星を眺めたりした。」

「そうか。その、ウィルとは・・・」

 アッシュが珍しく言い淀んだ。

 結婚したのかとか、男女の関係なのかとか、そういうことを聞きたいんだろうか?

 普通に考えたら、3年間、逃亡した男女が1つ屋根の下で暮らしていれば、何もないとは考えにくい。

「結婚はしてない。する話しも出てたけど、家族のような、友達のような感じで過ごしてたわ。でも、お互い想い合ってた。」

 さすがに、連れ戻される直前に、初めて体を重ねたとは言えなかった。

 アッシュは、小さな声で

「そうか。」

 と言い、言葉を続けた。

「だが、お前をウィルの元へは返してやれない。これは俺の条件だ。」

「分かってる。私は、あなたの側で自分らしく生きていくって決めたわ。」

 3年前、ナタリーの勘違いとアッシュの言葉足らずなところが原因でこうなってしまったとすれば、ウィルは巻き込まれた形となる。

 ナタリーは、ウィルに対して愛しい気持ちと、申し訳ない気持ちが混在していた。

 ウィルも上級魔法使いになったのであれば、今までとは全く違う環境で過ごすことになるだろう。

 貴族の令嬢と結婚し、水属性魔法使いのトップとして活躍するに違いない。ナタリーのことは、いずれ忘れてしまうだろうか。

 忘れて欲しくない気持ちと、自分など忘れて幸せになって欲しい気持ちとがせめぎ合っていた。
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