侍女と愛しの魔法使い【旧題:幼馴染の最強魔法使いは、「運命の番」を見つけたようです。邪魔者の私は消え去るとしましょう。】

きなこもち

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私と最愛の魔法使い~王女様、私の夫に惚れられても困ります!~

脱出

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「ナタリー、久しぶり。会えて嬉しいが、こんな場所で再会したくなかった。」
 アッシュがしゃがみ、ナタリーの頬を触った。
 ナタリーは色んな思いが込み上げ、泣きながらアッシュの胸に飛び込んだ。目立たないようにする為なのか、アッシュの髪は黒く染められていたが、他はあの時と何も変わらない姿だった。
「アッシュ───!!会いたかったわ·····でも、どうしてここに?」
「以前、建国祭の少し前、お前に防御魔法をかけただろ?」
「····え?それって、ケイリーと出掛ける前の······」
 思い出した。アッシュが、ナタリーとケイリーとのお出掛けに付いていきたがったが、ナタリーが断った為、防御魔法をかけてくれたのだ。
「じゃあ、人が燃えたのは、私が魔法を使ったせいじゃなくて、アッシュの防御魔法のせい·····?」
 一年以上前のことなのに、まだ効力があったことが驚きだ。
「そうだ。俺がかけた魔法が発動すれば、俺はナタリーの居場所が分かる。何かあったのだと思い来てみたら、人間相手に悲惨なことになっているな。すぐに出ていかなくて悪かった。様子を伺ってたんだ。ここの見張りの奴らは全員朝まで起きない。」
 ケイリーは興奮が押さえられないようだった。
「あなた達って本当に最高!もうダメだと思ったのに····ナタリーが来てからたった一晩でこんなことになるなんて!もとはといえば、私がナタリーをドレス買いに行こうって誘ったおかげよね!そうでしょ!?」
「待て。俺はナタリーを助けに来ただけだ。ほかの奴らを助けるとは言ってない。」
 ナタリー達の周囲で話を聞いていた魔法使い達は、一同にざわつき始めた。
 ナタリーはアッシュの手を取り、懇願した。
「アッシュ······久しぶりに会ったのに、こんなお願いをして本当にごめんなさい。皆をここから出して欲しいの。それができるのは、あなたしかいない。」
「·········まぁいいだろう。ただし、条件がある。ナタリーに対する条件だ。呑めるか?」
 周囲の魔法使い達が、必死な目をしてナタリーに「ナタリー頼む!」「お願い助けて!」と口々に言ってきた。
 皆を助け出してくれるなら、どんな条件でも呑むと最初から決めていたことだ。ナタリーに迷いはなかった。
「どんな条件でも呑むわアッシュ。私にできることなら、嘘はつかない。」
 ナタリーがアッシュの目をまっすぐ見て言うと、アッシュは黙って頷いた。
「分かった。確かに聞いたぞ。じゃあ、ここにいる全員助けてやる。お前達、手を繋げ。」
 牢屋にいるその場全員が、各々手を繋いだ。
「大人数だからけっこうしんどそうだ。いくぞ!!」
 アッシュが叫ぶと同時に、『赤い塔』に閉じ込められていた魔法使い数十人全員が、一度に姿を消した。

 ◇

 翌朝、王宮は大騒ぎになった。
「王女様!!朝、見張りのものが気付いたときには、赤い塔に捕らえていた魔法使い全員が牢からいなくなりました!ナタリーも····いません!!」
「はぁ!?何ですって!?見張りの兵士は一体何をしてたの!?」
「そ、それが····全員倒れ、眠っていました───!」
 王女は激しく憤り、室内にあった花瓶を、報告に来た兵士に投げつけた。
「外部からの魔法使いの仕業ね······!!まぁいいわ。あんな小物達、人質以外の価値はないもの。私にはウィルがいればいい。結婚式は予定通り執り行うわ。」

 ウィルはイースに強い催眠魔法をかけられ、まだ目覚めていなかった。
 騒ぎを聞いたジークリートが、寝ているウィルを激しく揺さぶった。
 ウィルは呻きながら目を開けた。ひどく頭が痛い。
「おい!ウィル!!やったぞ。何故かは分からないが、きっと『あの人』が来たんだ······!!ナタリーも無事に脱出したようだ!!」
「······え?ナタリーが───?」
 ウィルは、意識を失う前に見た、傷付いたナタリーの姿が脳裏に焼き付いて離れなかった。離れないと誓ったのに、一人でいかせてしまった。
 (僕はナタリーの夫として失格だ。)
 ウィルは自身に対して激しく失望した。だからあんな夢を見たのだろう。しかし、人質が逃げ、ナタリーも安全なのであれば、こちらが動きやすくなったのは間違いない。王女の夫になどなるつもりはないが、政治が絡んでいる話だ。単独で行動することは躊躇われた。
「ウィル、目覚めてさっそくなんだが、お前に会いたいという方かいらっしゃっているんだ。王女様には内密の為、ゆっくりする時間もない。」
 ジークリートは緊張した面持ちでウィルに声をかけた。ドアから入ってきた人物を見て、ウィルはこの欲望と陰謀にまみれた王宮で、何が起こっているのか分かるような気がした。




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