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私と最愛の魔法使い~王女様、私の夫に惚れられても困ります!~
アッシュの真実
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〈~4年前、アッシュ~〉
教会でナタリーと別れたアッシュが向かった先は王宮だった。
目的は、建国記念の日、魔法使いを操り人間を攻撃させ、争い事を引き起こした張本人である闇の魔法使いを殺すためである。その人物が、約20数年前に姿を消したアルヴェイン・ウォレスだとすれば、アッシュとナタリーの父親ということになる。当時、姿を消したアルヴェインがルフトの町へ現れ、アッシュの母であるアリスと共に姿を消したということまでは、アッシュは真実を掴んでいた。
ナタリーを救出するために王宮へ入った際、王女の側で邪悪な魔力を感じた。気配を消し他の者には気付かれていないようだが、アッシュはわずかな気配を感じ取った。高度な魔法使いであればあるほど、気配を消すことに長けている。アッシュ自身もまた、気配を消し王女の側近に近づく必要があった。
王宮の内部を偵察する為に、アッシュは変化魔法を使って王女に近しい者に成り代わることにした。
◇
夜中、就寝中のイースはひどく寒気がした。今は過ごしやすい気候であるはずなのに、凍ってしまいそうなほど寒い。ベッドの中で暖かい毛布にくるまれ就寝をしたはずなのに、何かがおかしい。
あまりの寒さに目覚めたイースは、ベッドの上で目を開けた。部屋は当然真っ暗で、部屋の中は何も変わった様子はない。
「·······寒い。」
部屋の窓が開いているのかと思い、窓際を確認したイースだが、窓はきちんと閉まっていた。
「····?変だな。」
「何が変なんだ?イース。」
振り返ったイースは、目の前に突然現れた元大魔法使いであるアッシュに驚愕し、あまりの驚きように声も出せなかった。
「········!?───あなたは───」
「久しぶりに会えたが、色んな意味で元気そうだな。生意気な小娘に付き従い悪巧みをしているとは、嘆かわしい。」
「アッシュ様·······!!これは違うんです!!!私は王女の味方のふりをしているだけで、本当は反旗を翻す機会を窺って····!!」
「見苦しい。欲に目が眩み、付く相手を間違えたようだな。馬鹿は長生きできないとはまさにこのことだ。」
イースの足元は既に凍り始めていて、身動きが取れなくなった。アッシュの魔法によって一瞬時に肩まで凍り、寒さと恐怖に支配されたイースはアッシュに泣き叫びながら懇願した。
「アッシュ様、どうかお助けを······!!何でもいたします!あなたを人間の王座に───!!私なら王女を誘導できます!」
「そんなものいらん。中途半端に魔力に恵まれ、俺に認知されてしまった運の悪さと自分の欲深さを恨むんだな。じゃあな、イース。」
イースは断末魔の苦しみを味わい、苦悶の表情のまま頭の先まで凍らされた。
アッシュは凍ったイースを断崖絶壁の崖の上から、荒れ狂う真っ暗な海の中へ突き落とした。イースは泡立つ荒波に飲まれ、すぐに海の藻屑となり消えた。
アッシュは崖の上に立ち、何の感情もなくしばらくその光景を眺めていた。
翌日、変化魔法でイースの姿に成り代わったアッシュは堂々と王女の前に姿を現した。王女の隣にいる側近の男が元凶で間違いないと特定したアッシュは、闇の魔法使いを誘き出す機会を窺っていた。
途中、王女の隣にいる無表情なウィルを見かけたアッシュは、ウィルに対し怒りと優越感が湧いてきた。
(ナタリーを守れなかったんだから、せめてお前は王配として王女の隣で自分の役目を果たせ。ナタリーは俺がもらう。)
一瞬ウィルがアッシュの目をじっと見ているような気がしたが、アッシュの魔力は一切漏れてはいないはずなので気付かれるはずがない。
素知らぬふりをし、王女の側近の男を観察した。長身で黒髪の男のその顔は、長い前髪で覆われ表情はよく分からないが、暗い印象のする男だ。明らかに、誰の印象にも残らないように存在感を薄くする魔法を使っているのだと分かる。見えているが、限りなく存在感がないのがこの男だ。
アッシュの父親であるならば、実際に会えば何か感じるものがあるかと思っていたが、アッシュは今のところ何の感情も抱かなかった。
なかなか男は王女の側を離れなかったが、王女が部屋に戻るタイミングで、1人きりになった男にアッシュは声をかけた。
「すみません、実はご相談したいことがあります。逃げ出した魔法使い達のことで·····ここではお話できませんので、僕に付いてきていただけませんか?」
イースに話しかけられるのが珍しかったのか、男はアッシュをじっと見ると、了承し頷いた。
男を連れ王宮の空いた部屋へ入り、扉を閉めたアッシュは、男の手を取った。
「実は、ご相談したいことと言うのは·····」
男は暗い瞳で、黙ってアッシュを見ていた。
「俺はあんたを殺しに来たんだ。一緒に行こう。」
アッシュは移動魔法で強制的に男を連れ、王宮から遠く離れた僻地の森の中へ飛んだ。
教会でナタリーと別れたアッシュが向かった先は王宮だった。
目的は、建国記念の日、魔法使いを操り人間を攻撃させ、争い事を引き起こした張本人である闇の魔法使いを殺すためである。その人物が、約20数年前に姿を消したアルヴェイン・ウォレスだとすれば、アッシュとナタリーの父親ということになる。当時、姿を消したアルヴェインがルフトの町へ現れ、アッシュの母であるアリスと共に姿を消したということまでは、アッシュは真実を掴んでいた。
ナタリーを救出するために王宮へ入った際、王女の側で邪悪な魔力を感じた。気配を消し他の者には気付かれていないようだが、アッシュはわずかな気配を感じ取った。高度な魔法使いであればあるほど、気配を消すことに長けている。アッシュ自身もまた、気配を消し王女の側近に近づく必要があった。
王宮の内部を偵察する為に、アッシュは変化魔法を使って王女に近しい者に成り代わることにした。
◇
夜中、就寝中のイースはひどく寒気がした。今は過ごしやすい気候であるはずなのに、凍ってしまいそうなほど寒い。ベッドの中で暖かい毛布にくるまれ就寝をしたはずなのに、何かがおかしい。
あまりの寒さに目覚めたイースは、ベッドの上で目を開けた。部屋は当然真っ暗で、部屋の中は何も変わった様子はない。
「·······寒い。」
部屋の窓が開いているのかと思い、窓際を確認したイースだが、窓はきちんと閉まっていた。
「····?変だな。」
「何が変なんだ?イース。」
振り返ったイースは、目の前に突然現れた元大魔法使いであるアッシュに驚愕し、あまりの驚きように声も出せなかった。
「········!?───あなたは───」
「久しぶりに会えたが、色んな意味で元気そうだな。生意気な小娘に付き従い悪巧みをしているとは、嘆かわしい。」
「アッシュ様·······!!これは違うんです!!!私は王女の味方のふりをしているだけで、本当は反旗を翻す機会を窺って····!!」
「見苦しい。欲に目が眩み、付く相手を間違えたようだな。馬鹿は長生きできないとはまさにこのことだ。」
イースの足元は既に凍り始めていて、身動きが取れなくなった。アッシュの魔法によって一瞬時に肩まで凍り、寒さと恐怖に支配されたイースはアッシュに泣き叫びながら懇願した。
「アッシュ様、どうかお助けを······!!何でもいたします!あなたを人間の王座に───!!私なら王女を誘導できます!」
「そんなものいらん。中途半端に魔力に恵まれ、俺に認知されてしまった運の悪さと自分の欲深さを恨むんだな。じゃあな、イース。」
イースは断末魔の苦しみを味わい、苦悶の表情のまま頭の先まで凍らされた。
アッシュは凍ったイースを断崖絶壁の崖の上から、荒れ狂う真っ暗な海の中へ突き落とした。イースは泡立つ荒波に飲まれ、すぐに海の藻屑となり消えた。
アッシュは崖の上に立ち、何の感情もなくしばらくその光景を眺めていた。
翌日、変化魔法でイースの姿に成り代わったアッシュは堂々と王女の前に姿を現した。王女の隣にいる側近の男が元凶で間違いないと特定したアッシュは、闇の魔法使いを誘き出す機会を窺っていた。
途中、王女の隣にいる無表情なウィルを見かけたアッシュは、ウィルに対し怒りと優越感が湧いてきた。
(ナタリーを守れなかったんだから、せめてお前は王配として王女の隣で自分の役目を果たせ。ナタリーは俺がもらう。)
一瞬ウィルがアッシュの目をじっと見ているような気がしたが、アッシュの魔力は一切漏れてはいないはずなので気付かれるはずがない。
素知らぬふりをし、王女の側近の男を観察した。長身で黒髪の男のその顔は、長い前髪で覆われ表情はよく分からないが、暗い印象のする男だ。明らかに、誰の印象にも残らないように存在感を薄くする魔法を使っているのだと分かる。見えているが、限りなく存在感がないのがこの男だ。
アッシュの父親であるならば、実際に会えば何か感じるものがあるかと思っていたが、アッシュは今のところ何の感情も抱かなかった。
なかなか男は王女の側を離れなかったが、王女が部屋に戻るタイミングで、1人きりになった男にアッシュは声をかけた。
「すみません、実はご相談したいことがあります。逃げ出した魔法使い達のことで·····ここではお話できませんので、僕に付いてきていただけませんか?」
イースに話しかけられるのが珍しかったのか、男はアッシュをじっと見ると、了承し頷いた。
男を連れ王宮の空いた部屋へ入り、扉を閉めたアッシュは、男の手を取った。
「実は、ご相談したいことと言うのは·····」
男は暗い瞳で、黙ってアッシュを見ていた。
「俺はあんたを殺しに来たんだ。一緒に行こう。」
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