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私と最愛の魔法使い~王女様、私の夫に惚れられても困ります!~
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ナタリーはハッと目を覚ました。
見慣れた天井が目に入る。
昨夜の記憶がないが、いつものように仕事を終え、自室のベッドで眠っていたようだ。
(寝坊しなくて良かった······急いで支度して、アッシュ様を起こさなきゃ····)
ナタリーはいつものように手慣れた様子で身支度をした。
鏡に自分の姿が写り、なんとなく違和感を感じた。自分はこんなに幼かっただろうか。不思議な気分だが、長い長い夢を見ていた気がする。
ナタリーはかすかに抱いた違和感を振り払い、気を取り直し、すぐにアッシュの部屋をノックした。やはり返事はなく、いつものようにまだ寝ているようだ。
「アッシュ様起きてください。朝ですよ。」
ナタリーがカーテンを開けながら声をかけると、白銀の髪の美しい男が身じろぎをし、眠そうな声で呻いた。
毎日アッシュを目にしているナタリーだったが、今日は一段と彼が眩しく見えた。
9時から会議が始まることを伝えると、アッシュはめんどくさいと文句をいいながら、のろのろとシャワーを浴びに行った。
会議準備のため一足先に会場に着いたナタリーは、先に会場で準備をしていた18歳の少年、ウィル・アンダーソンに声をかけた。
「·········ウィル!お疲れ様です。」
「ナタリー!お疲れ様。あれ?今日はいつもみたいにウィリーって呼んでくれないの?」
無邪気な笑顔のウィルを見たナタリーは何故だか分からないが胸がいっぱいになり、涙が止まらなくなった。
「····え!?ど、どうしたのナタリー?僕何かした?·····ご、ごめん!!」
「ち、違うの!ごめん驚かせて······何て言うか───ウィルっていつも明るくてかわいいから·········私あなたが大好きよ。」
「す、好きって·····は!?本当にどうしちゃったんだよ?情緒不安定なんだねナタリ-。きっとアッシュ様にこき使われて疲れてるんだよ。準備は僕がするからナタリーは休んでて。」
ウィルは顔を紅くし、しどろもどろになりながら手を動かしていた。
会議の内容は、聖女による予言についてであった。一同が騒然となる中、ナタリーはどこか冷静にジークリートの報告を聞いていた。
会議が終わると、ウィルから声をかけられ、カイザーと一緒に魔法塔へ帰ったらどうかと言われたがナタリーは断った。
「私あなたと話したい。時間ある?外にいきましょ!」
意外な申し出を断ろうとするウィルの腕を掴み、ナタリーは魔法塔の外にあるベンチに座った。
「なんだか今日の君はいつもと違うね。なんだか強引っていうか······」
「うん。なんだか生まれ変わったような気分なの。いつもの私の方がいいよね?」
ウィルは首を振った。
「ううん!今日のナタリーも僕はいいと思う。」
ナタリーは微笑み、2人でボーッと噴水を眺めていた。
「ねぇウィル。あなたは雑用なんかするような人じゃないわよ。人にはその人に合った役割がある。本当の自分を隠さない方がいいと思う。」
「········え?どうしてそんなことを?僕何か言ったっけ??」
ウィルは心底不思議そうな顔をしていた。ナタリーも何故突然、こんなことをウィルに伝えたくなったのかは分からないが、どうしても言わなければならない気がした。
「私行かなきゃ!遅くなったらアッシュに詰められる。じゃあまたねウィリー!」
怪訝な顔をしているウィルに手を振り、ナタリーは魔法塔に帰った。
その日の仕事を終え、就寝したナタリーは、物が割れるような音で目を覚ました。隣のアッシュの部屋から聞こえた為、急いで様子を見に行くと、アッシュが苦しそうに床に踞っていた。
(大変······!!きっとアッシュの魔力が強いせいだわ!)
ナタリーはアッシュの身に何が起こっているのか分からなかったが、何故か自分が彼の役に立てるという確信があった。
「アッシュ様。私を信じて、身を任せてください。」
ナタリーは魔法が使えなかったが、アッシュの魔力が自分に流れ込むのをイメージしながら彼の手を握った。何の意味もない行為かもしれないが、そうしなければならないような気がしたのだ。
「大丈夫ですよ。ゆっくり息をして·····私に魔力を分けてください。すぐに落ち着きますから·····」
ナタリーの静かな語りかけと同時に、苦しんでいたアッシュの呼吸は次第に落ち着いてきた。
「········ナタリー、こっちを見てくれ。」
アッシュの呟きと共にナタリーが顔を上げると、暗闇で微かに揺れる美しいグリーンの瞳と目があった。2人は引き寄せられるように顔を近づけ、初めて口付けをした。ナタリーはこの瞬間を待ち望んでいたような気がする。アッシュの唇は冷たかったが、ナタリーの唇に触れていると徐々に熱を帯びてきた。その夜、2人で座ったまま手を繋ぎ、体を寄せ合っていた。いつの間にか朝になり、アッシュもナタリーも眠ってしまっていた。先に起きたアッシュがナタリーを侍女部屋に運んでいた為、ナタリーが目を覚ましたときには自室のベッドの上だった。
(アッシュが運んでくれたのね·····)
その日、どんな顔をしてアッシュと会えばいいのか分からなかったナタリーだったが、アッシュは普段と変わらぬ態度を取った。ナタリーも何もなかったこととして忘れようと思っていたその日の夜、部屋を退室しようとすると、アッシュに呼び止められ、不意に唇を重ねられた。その日を境に、2人っきりでいる時はアッシュのタイミングで日課のように口付けが行われた。ナタリーはアッシュへの恋心を自覚し、日課を心待にするようになっていった。
しかし、それからの出来事は散々だった。予言をした聖女エステルと対面を果たしたナタリーとアッシュであったが、エステルがアッシュと前世の恋人だったと騒ぎ出し、ナタリーを不吉だ、アッシュに近寄るなとなじった。エステルの接近で不安になったナタリーは、アッシュの部屋で自分でも思いもよらない行動を取ってしまうことになる。
見慣れた天井が目に入る。
昨夜の記憶がないが、いつものように仕事を終え、自室のベッドで眠っていたようだ。
(寝坊しなくて良かった······急いで支度して、アッシュ様を起こさなきゃ····)
ナタリーはいつものように手慣れた様子で身支度をした。
鏡に自分の姿が写り、なんとなく違和感を感じた。自分はこんなに幼かっただろうか。不思議な気分だが、長い長い夢を見ていた気がする。
ナタリーはかすかに抱いた違和感を振り払い、気を取り直し、すぐにアッシュの部屋をノックした。やはり返事はなく、いつものようにまだ寝ているようだ。
「アッシュ様起きてください。朝ですよ。」
ナタリーがカーテンを開けながら声をかけると、白銀の髪の美しい男が身じろぎをし、眠そうな声で呻いた。
毎日アッシュを目にしているナタリーだったが、今日は一段と彼が眩しく見えた。
9時から会議が始まることを伝えると、アッシュはめんどくさいと文句をいいながら、のろのろとシャワーを浴びに行った。
会議準備のため一足先に会場に着いたナタリーは、先に会場で準備をしていた18歳の少年、ウィル・アンダーソンに声をかけた。
「·········ウィル!お疲れ様です。」
「ナタリー!お疲れ様。あれ?今日はいつもみたいにウィリーって呼んでくれないの?」
無邪気な笑顔のウィルを見たナタリーは何故だか分からないが胸がいっぱいになり、涙が止まらなくなった。
「····え!?ど、どうしたのナタリー?僕何かした?·····ご、ごめん!!」
「ち、違うの!ごめん驚かせて······何て言うか───ウィルっていつも明るくてかわいいから·········私あなたが大好きよ。」
「す、好きって·····は!?本当にどうしちゃったんだよ?情緒不安定なんだねナタリ-。きっとアッシュ様にこき使われて疲れてるんだよ。準備は僕がするからナタリーは休んでて。」
ウィルは顔を紅くし、しどろもどろになりながら手を動かしていた。
会議の内容は、聖女による予言についてであった。一同が騒然となる中、ナタリーはどこか冷静にジークリートの報告を聞いていた。
会議が終わると、ウィルから声をかけられ、カイザーと一緒に魔法塔へ帰ったらどうかと言われたがナタリーは断った。
「私あなたと話したい。時間ある?外にいきましょ!」
意外な申し出を断ろうとするウィルの腕を掴み、ナタリーは魔法塔の外にあるベンチに座った。
「なんだか今日の君はいつもと違うね。なんだか強引っていうか······」
「うん。なんだか生まれ変わったような気分なの。いつもの私の方がいいよね?」
ウィルは首を振った。
「ううん!今日のナタリーも僕はいいと思う。」
ナタリーは微笑み、2人でボーッと噴水を眺めていた。
「ねぇウィル。あなたは雑用なんかするような人じゃないわよ。人にはその人に合った役割がある。本当の自分を隠さない方がいいと思う。」
「········え?どうしてそんなことを?僕何か言ったっけ??」
ウィルは心底不思議そうな顔をしていた。ナタリーも何故突然、こんなことをウィルに伝えたくなったのかは分からないが、どうしても言わなければならない気がした。
「私行かなきゃ!遅くなったらアッシュに詰められる。じゃあまたねウィリー!」
怪訝な顔をしているウィルに手を振り、ナタリーは魔法塔に帰った。
その日の仕事を終え、就寝したナタリーは、物が割れるような音で目を覚ました。隣のアッシュの部屋から聞こえた為、急いで様子を見に行くと、アッシュが苦しそうに床に踞っていた。
(大変······!!きっとアッシュの魔力が強いせいだわ!)
ナタリーはアッシュの身に何が起こっているのか分からなかったが、何故か自分が彼の役に立てるという確信があった。
「アッシュ様。私を信じて、身を任せてください。」
ナタリーは魔法が使えなかったが、アッシュの魔力が自分に流れ込むのをイメージしながら彼の手を握った。何の意味もない行為かもしれないが、そうしなければならないような気がしたのだ。
「大丈夫ですよ。ゆっくり息をして·····私に魔力を分けてください。すぐに落ち着きますから·····」
ナタリーの静かな語りかけと同時に、苦しんでいたアッシュの呼吸は次第に落ち着いてきた。
「········ナタリー、こっちを見てくれ。」
アッシュの呟きと共にナタリーが顔を上げると、暗闇で微かに揺れる美しいグリーンの瞳と目があった。2人は引き寄せられるように顔を近づけ、初めて口付けをした。ナタリーはこの瞬間を待ち望んでいたような気がする。アッシュの唇は冷たかったが、ナタリーの唇に触れていると徐々に熱を帯びてきた。その夜、2人で座ったまま手を繋ぎ、体を寄せ合っていた。いつの間にか朝になり、アッシュもナタリーも眠ってしまっていた。先に起きたアッシュがナタリーを侍女部屋に運んでいた為、ナタリーが目を覚ましたときには自室のベッドの上だった。
(アッシュが運んでくれたのね·····)
その日、どんな顔をしてアッシュと会えばいいのか分からなかったナタリーだったが、アッシュは普段と変わらぬ態度を取った。ナタリーも何もなかったこととして忘れようと思っていたその日の夜、部屋を退室しようとすると、アッシュに呼び止められ、不意に唇を重ねられた。その日を境に、2人っきりでいる時はアッシュのタイミングで日課のように口付けが行われた。ナタリーはアッシュへの恋心を自覚し、日課を心待にするようになっていった。
しかし、それからの出来事は散々だった。予言をした聖女エステルと対面を果たしたナタリーとアッシュであったが、エステルがアッシュと前世の恋人だったと騒ぎ出し、ナタリーを不吉だ、アッシュに近寄るなとなじった。エステルの接近で不安になったナタリーは、アッシュの部屋で自分でも思いもよらない行動を取ってしまうことになる。
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