6 / 21
追跡開始!
しおりを挟む
数日後、寅から馬鹿丁寧なメールが届いていたので、奈緒子も丁寧に返信した。
『 先日は、助けていただき感謝申し上げます。お借りしていた服をお渡ししたいので、ご都合がいい時に、図書館へ伺ってもよろしいでしょうか? 』
『とんでもございません。私からも洗濯した服をお返ししたいです。また、ご相談したいことがある為、先日と同じ時間と場所に来ていただけないでしょうか?』
あれから、弘人の浮気の証拠をつかもうと思い、車のナビを調べたが、履歴は残っていなかった。やましいことがあれば履歴は消さないと思うので、ますます怪しい。スマホのトーク履歴や写真も見ようと思ったのだが、指紋認証ロックがかかっており、開けることができなかった。
◇
その日、前に寅と会った川縁に座っていると、寅が走ってやって来た。
「奈緒子さん!お久しぶりです。」
律儀に頭を下げられ、奈緒子も「あ、こちらこそです」と言って頭を下げた。
「それで、ご相談というのは····」
早速本題を切り出してきた寅に、奈緒子は覚悟を決めて話し出した。
「私、寅君のいう通り、夫の浮気現場を押さえようと思ってる。」
「はぁ。そうですか。」
「それで、今週の土曜日に家から外出する夫を追跡しようと思うんだけど、寅君、私と一緒に行ってくれない?」
「·····えぇ!な、なんで僕が??」
寅は心底、ゴタゴタに巻き込まれたくないというような顔をした。
「あなたしか頼めないの!私1人だと、万が一見失ったとき困るし、一人だと目立つだろうし、何より浮気相手が現れた時に、自分がどうなるか分からないの。」
奈緒子の懇願に、寅は断りきれなくなり、
「····でも僕、お役に立つかは分からないですけど·····」
と言ってしぶしぶ承諾してくれた。奈緒子は嬉しくなり、寅の両手を掴んでぶんぶん振り回した。
「寅君、ありがとう~!!」
◇
土曜日の午後、奈緒子は一泊実家で過ごすということにして、玄関で弘人に見送られていた。
「じゃあ、行ってくるね。」
「なおちゃん、ゆっくりしてきて。行ってらっしゃい。」
玄関を出ると、奈緒子は自家用車に乗り込み、車内で着替えた。近くのパーキングに停めて、自宅マンションの前に戻ってきて寅と合流した。
「GPSはつけなかったんですか?」
「それは考えたんだけど、私が勢いで今日実家に帰るって言っちゃったから、用意する暇がなかったの。」
「じゃあ、本当に刑事の張り込みみたいな感じですね。実はやってみたかったんです。張り込み。」
寅がこの状況に似つかわしくないような、少しワクワクした表情をしたので、奈緒子はずっと感じていた緊張と不安が少し和らいだ。
一時間ほどしてから、弘人がエントランスから出てきた。
「来た!」
「へーあれが旦那さん・・・かっこいい人ですねぇ。」
気付かれないように間を空け、弘人の後ろを歩いた。奈緒子は大学生の女の子が着そうなカジュアルな服装をし、帽子を深く被った。
途中、弘人が立ち止まって振り返ったので、慌てて2人は下を向いた。大学生のカップルに見えるように、寅の腕に手を回した。
弘人がまた歩きだしたが、奈緒子は寅の腕に腕を絡ませたまま、歩き出そうとした。
「あの、もう旦那さん見てないですけど。」
寅が、腕を離せと言っているのだと思い、奈緒子は答えた。
「突然振り向かれたら反応できないから、嫌かもしれないけど、しばらくこのまま歩こう!」
「嫌ってわけじゃなくて····」
寅がボソボソと何か言っていたが、奈緒子には聞こえなかった。
弘人は駅で電車に乗り、乗り換えてある駅で降りた。少し歩き、一人でカフェに入っていった。奈緒子と寅も入店し、弘人からは見えない位置の席に座った。
「ここで誰かと待ち合わせですかね?」
しかし、弘人はカバンからパソコンを取り出し、仕事をしている様子だった。しばらくしても、人が来る気配はない。1時間ほどして、店を出てから、またどこかへ歩きだした。
今度こそ目的地に行くはずだ。奈緒子はなんだか心臓が痛くなってきた。緊張した顔をしていると、今度は寅から、奈緒子の腕を掴んできた。
「振り向かれると反応できないから、こうするんでしょ。」
奈緒子は少し心強くなって、寅の腕を握り返した。尾行を再開し、辿り着いたのは、きれいな高層マンションだった。
弘人がマンションのエントランス付近まで行くと、女性が弘人に駆け寄っていくのが見えた。
奈緒子は、覚悟はしていたものの、やはり女がいたと分かり、かなりショックだった。しかし、現場を押さえなければ追跡した意味がないので、スマホを用意してカメラを向けた。寅も念のため撮影していた。
その時、奈緒子は相手の女の顔をはっきりと見た。奈緒子は女の顔を見たとたん、呆然とし、撮っていたスマホを持った手をダランと下げた。
「え?え?奈緒子さん・・・?」
寅が目を白黒させながら、奈緒子と現場の2人を交互に見ていた。
あの人たちは、誰だ?
私にいつも笑ってくれる優しい夫
学生時代から今でも、ずっと親友のはるか
2人が自分を騙し、会瀬を重ねていたという事実が、ただただ奈緒子には信じられず、現実感がなかった。
「あの女、私の親友なの。」
そう呟いて、奈緒子はゆらっと2人の元へ歩きだした。
『 先日は、助けていただき感謝申し上げます。お借りしていた服をお渡ししたいので、ご都合がいい時に、図書館へ伺ってもよろしいでしょうか? 』
『とんでもございません。私からも洗濯した服をお返ししたいです。また、ご相談したいことがある為、先日と同じ時間と場所に来ていただけないでしょうか?』
あれから、弘人の浮気の証拠をつかもうと思い、車のナビを調べたが、履歴は残っていなかった。やましいことがあれば履歴は消さないと思うので、ますます怪しい。スマホのトーク履歴や写真も見ようと思ったのだが、指紋認証ロックがかかっており、開けることができなかった。
◇
その日、前に寅と会った川縁に座っていると、寅が走ってやって来た。
「奈緒子さん!お久しぶりです。」
律儀に頭を下げられ、奈緒子も「あ、こちらこそです」と言って頭を下げた。
「それで、ご相談というのは····」
早速本題を切り出してきた寅に、奈緒子は覚悟を決めて話し出した。
「私、寅君のいう通り、夫の浮気現場を押さえようと思ってる。」
「はぁ。そうですか。」
「それで、今週の土曜日に家から外出する夫を追跡しようと思うんだけど、寅君、私と一緒に行ってくれない?」
「·····えぇ!な、なんで僕が??」
寅は心底、ゴタゴタに巻き込まれたくないというような顔をした。
「あなたしか頼めないの!私1人だと、万が一見失ったとき困るし、一人だと目立つだろうし、何より浮気相手が現れた時に、自分がどうなるか分からないの。」
奈緒子の懇願に、寅は断りきれなくなり、
「····でも僕、お役に立つかは分からないですけど·····」
と言ってしぶしぶ承諾してくれた。奈緒子は嬉しくなり、寅の両手を掴んでぶんぶん振り回した。
「寅君、ありがとう~!!」
◇
土曜日の午後、奈緒子は一泊実家で過ごすということにして、玄関で弘人に見送られていた。
「じゃあ、行ってくるね。」
「なおちゃん、ゆっくりしてきて。行ってらっしゃい。」
玄関を出ると、奈緒子は自家用車に乗り込み、車内で着替えた。近くのパーキングに停めて、自宅マンションの前に戻ってきて寅と合流した。
「GPSはつけなかったんですか?」
「それは考えたんだけど、私が勢いで今日実家に帰るって言っちゃったから、用意する暇がなかったの。」
「じゃあ、本当に刑事の張り込みみたいな感じですね。実はやってみたかったんです。張り込み。」
寅がこの状況に似つかわしくないような、少しワクワクした表情をしたので、奈緒子はずっと感じていた緊張と不安が少し和らいだ。
一時間ほどしてから、弘人がエントランスから出てきた。
「来た!」
「へーあれが旦那さん・・・かっこいい人ですねぇ。」
気付かれないように間を空け、弘人の後ろを歩いた。奈緒子は大学生の女の子が着そうなカジュアルな服装をし、帽子を深く被った。
途中、弘人が立ち止まって振り返ったので、慌てて2人は下を向いた。大学生のカップルに見えるように、寅の腕に手を回した。
弘人がまた歩きだしたが、奈緒子は寅の腕に腕を絡ませたまま、歩き出そうとした。
「あの、もう旦那さん見てないですけど。」
寅が、腕を離せと言っているのだと思い、奈緒子は答えた。
「突然振り向かれたら反応できないから、嫌かもしれないけど、しばらくこのまま歩こう!」
「嫌ってわけじゃなくて····」
寅がボソボソと何か言っていたが、奈緒子には聞こえなかった。
弘人は駅で電車に乗り、乗り換えてある駅で降りた。少し歩き、一人でカフェに入っていった。奈緒子と寅も入店し、弘人からは見えない位置の席に座った。
「ここで誰かと待ち合わせですかね?」
しかし、弘人はカバンからパソコンを取り出し、仕事をしている様子だった。しばらくしても、人が来る気配はない。1時間ほどして、店を出てから、またどこかへ歩きだした。
今度こそ目的地に行くはずだ。奈緒子はなんだか心臓が痛くなってきた。緊張した顔をしていると、今度は寅から、奈緒子の腕を掴んできた。
「振り向かれると反応できないから、こうするんでしょ。」
奈緒子は少し心強くなって、寅の腕を握り返した。尾行を再開し、辿り着いたのは、きれいな高層マンションだった。
弘人がマンションのエントランス付近まで行くと、女性が弘人に駆け寄っていくのが見えた。
奈緒子は、覚悟はしていたものの、やはり女がいたと分かり、かなりショックだった。しかし、現場を押さえなければ追跡した意味がないので、スマホを用意してカメラを向けた。寅も念のため撮影していた。
その時、奈緒子は相手の女の顔をはっきりと見た。奈緒子は女の顔を見たとたん、呆然とし、撮っていたスマホを持った手をダランと下げた。
「え?え?奈緒子さん・・・?」
寅が目を白黒させながら、奈緒子と現場の2人を交互に見ていた。
あの人たちは、誰だ?
私にいつも笑ってくれる優しい夫
学生時代から今でも、ずっと親友のはるか
2人が自分を騙し、会瀬を重ねていたという事実が、ただただ奈緒子には信じられず、現実感がなかった。
「あの女、私の親友なの。」
そう呟いて、奈緒子はゆらっと2人の元へ歩きだした。
30
あなたにおすすめの小説
好きな人がいるならちゃんと言ってよ
しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる