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初めての夜
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「え?奈緒子さんの部屋に·····それは──」
どういうつもりで呼んでいるのか聞きたいのだろう。奈緒子は、見せたい映画があるとか、夕食をふるまいたいとか、そんな理由をつけようと思ったがやめておいた。
「今夜は一緒にいたいなって。この前みたいに、お茶だけ飲んで帰ってほしい訳じゃない。」
「────········いいんですか?」
「うん。入って。」
寅の手を取り、奈緒子の部屋の中に一緒に入った。ドアが閉まるのと同時に、奈緒子は寅に抱き締められた。
「僕、奈緒子さんのことが好きです。」
「私も、寅君のことが好き。」
奈緒子は顔を上げ、寅を見上げた。
「ねぇキスしよ。」
「───はい。」
そう言うと、寅は奈緒子の唇を塞いだ。慣れていない、拙いキスだったが、奈緒子にとってはそれが嬉しかった。「来て。」奈緒子は、寅の手を引き、ベッドまで連れていった。
「ねぇ、私でいいの?後悔しない?」
「奈緒子さんじゃなきゃ駄目なんです。」
「·······嬉しい。」
奈緒子は、着ていた服を脱いで下着姿になった。弘人との時は、脱がせる過程を楽しませる、というのがあったが、寅には奈緒子の全てを見てほしかった。
奈緒子はベッドに座っている寅の上に乗り、シャツを脱がせていった。
「奈緒子さん·······すごく綺麗です。」
寅が真剣な顔をしてそう呟いた。奈緒子は、それが寅の本心から出た言葉だと伝わり、涙が出そうになってしまった。
そして、2人の初めての、優しい夜が過ぎていった。
◇
翌朝、奈緒子が目を覚ますと、隣で寅がすやすや寝ていた。寝顔を見ていると愛しくなり、頬を触っていると寅も目を覚ました。
「ぅわ!先に起きてましたか····寝顔を見られると恥ずかしいです。」
寅が布団で顔を隠した。誰しもこんな初々しい時期があったのだろうか。奈緒子はもう過去の自分を思い出せなかった。
「今さら何を恥ずかしがってるの?かわいい寝顔だったわよ。」
奈緒子がからかうと、「やめてください。」と寅が嫌がった。
「これから忙しくなるんだよね?こうやってゆっくり会えるのも、当分先になるかな。」
奈緒子が寂しそうに言うと、寅は奈緒子を抱き締めて言った。
「そうなんですけど!会えない間は集中するので、週に一回でもいいから会いに来てもいいですか?」
「······来てくれたら嬉しい。」
そして、寅は幸せそうな笑顔を浮かべて自分の部屋に帰っていった。
◇
〈奈緒子が帰った後、弘人の母親のアパート〉
弘人の母親のアパートでは、壮絶な修羅場が繰り広げられた。奈緒子が暴露した、弘人の不妊の結果を手に取った弘人の母親は、わなわなと震え出した。
「そんな······赤ちゃんができないのは、弘人が原因だったの?じゃあ、その子は───」
弘人の母親は、はるかをみたあと、はるかにつかみかかった。
「この売女!!妊娠を理由に弘人と一緒になろうとしたのね!?他の男の子どもなんか、育てられるわけないじゃない!!」
ほんの少しの理性が働いていた弘人は、母親を制止した。
「母さん!!やめろって!妊婦相手に·····!」
はるかは動じることなく、弘人の母親を見て言った。
「お義母さん、この子は弘人さんの子ですよ?私が言うんだから、間違いありません。似てなかったとしても、弘人さんの子です。それに、弘人さんが不妊だとしたら、この先また子どもを作るチャンスがくるでしょうか?不妊と分かっている、慰謝料を払い続けるバツイチの男性と結婚したい女性がどれほどいる?お義母さんは、お孫さんはいらない?」
何も言い返せない弘人の母親に向かって、畳み掛けるようにはるかは言葉を投げつけた。
「私があなた方に縋ってるんじゃない。あなた方が私に縋るしかないんですよ。うちの息子と結婚してください、子どもを産んでくださいと言いなさい。私に頭を下げなさい!」
はるかの剣幕と大きな声に、弘人の母親はビクッとし、目を白黒させた。
「はるかさん───こ、子どもを産んでください···お願いします······」弘人の母親は、頭を下げ、か細い声でそう言った。
途端にはるかはにっこりとし、弘人の母親の手を取った。
「ありがとうございます!うれしいです。お義母さん。本当の母と娘のように、仲良くしましょうね!」
弘人の母は考えていた。ああ、奈緒子さんは運が良かったのだ。このはるかという悪魔のような女と縁を切ることができたのだから。私達親子は、この女に乗っ取られる。そのような気がしてならなかった。
どういうつもりで呼んでいるのか聞きたいのだろう。奈緒子は、見せたい映画があるとか、夕食をふるまいたいとか、そんな理由をつけようと思ったがやめておいた。
「今夜は一緒にいたいなって。この前みたいに、お茶だけ飲んで帰ってほしい訳じゃない。」
「────········いいんですか?」
「うん。入って。」
寅の手を取り、奈緒子の部屋の中に一緒に入った。ドアが閉まるのと同時に、奈緒子は寅に抱き締められた。
「僕、奈緒子さんのことが好きです。」
「私も、寅君のことが好き。」
奈緒子は顔を上げ、寅を見上げた。
「ねぇキスしよ。」
「───はい。」
そう言うと、寅は奈緒子の唇を塞いだ。慣れていない、拙いキスだったが、奈緒子にとってはそれが嬉しかった。「来て。」奈緒子は、寅の手を引き、ベッドまで連れていった。
「ねぇ、私でいいの?後悔しない?」
「奈緒子さんじゃなきゃ駄目なんです。」
「·······嬉しい。」
奈緒子は、着ていた服を脱いで下着姿になった。弘人との時は、脱がせる過程を楽しませる、というのがあったが、寅には奈緒子の全てを見てほしかった。
奈緒子はベッドに座っている寅の上に乗り、シャツを脱がせていった。
「奈緒子さん·······すごく綺麗です。」
寅が真剣な顔をしてそう呟いた。奈緒子は、それが寅の本心から出た言葉だと伝わり、涙が出そうになってしまった。
そして、2人の初めての、優しい夜が過ぎていった。
◇
翌朝、奈緒子が目を覚ますと、隣で寅がすやすや寝ていた。寝顔を見ていると愛しくなり、頬を触っていると寅も目を覚ました。
「ぅわ!先に起きてましたか····寝顔を見られると恥ずかしいです。」
寅が布団で顔を隠した。誰しもこんな初々しい時期があったのだろうか。奈緒子はもう過去の自分を思い出せなかった。
「今さら何を恥ずかしがってるの?かわいい寝顔だったわよ。」
奈緒子がからかうと、「やめてください。」と寅が嫌がった。
「これから忙しくなるんだよね?こうやってゆっくり会えるのも、当分先になるかな。」
奈緒子が寂しそうに言うと、寅は奈緒子を抱き締めて言った。
「そうなんですけど!会えない間は集中するので、週に一回でもいいから会いに来てもいいですか?」
「······来てくれたら嬉しい。」
そして、寅は幸せそうな笑顔を浮かべて自分の部屋に帰っていった。
◇
〈奈緒子が帰った後、弘人の母親のアパート〉
弘人の母親のアパートでは、壮絶な修羅場が繰り広げられた。奈緒子が暴露した、弘人の不妊の結果を手に取った弘人の母親は、わなわなと震え出した。
「そんな······赤ちゃんができないのは、弘人が原因だったの?じゃあ、その子は───」
弘人の母親は、はるかをみたあと、はるかにつかみかかった。
「この売女!!妊娠を理由に弘人と一緒になろうとしたのね!?他の男の子どもなんか、育てられるわけないじゃない!!」
ほんの少しの理性が働いていた弘人は、母親を制止した。
「母さん!!やめろって!妊婦相手に·····!」
はるかは動じることなく、弘人の母親を見て言った。
「お義母さん、この子は弘人さんの子ですよ?私が言うんだから、間違いありません。似てなかったとしても、弘人さんの子です。それに、弘人さんが不妊だとしたら、この先また子どもを作るチャンスがくるでしょうか?不妊と分かっている、慰謝料を払い続けるバツイチの男性と結婚したい女性がどれほどいる?お義母さんは、お孫さんはいらない?」
何も言い返せない弘人の母親に向かって、畳み掛けるようにはるかは言葉を投げつけた。
「私があなた方に縋ってるんじゃない。あなた方が私に縋るしかないんですよ。うちの息子と結婚してください、子どもを産んでくださいと言いなさい。私に頭を下げなさい!」
はるかの剣幕と大きな声に、弘人の母親はビクッとし、目を白黒させた。
「はるかさん───こ、子どもを産んでください···お願いします······」弘人の母親は、頭を下げ、か細い声でそう言った。
途端にはるかはにっこりとし、弘人の母親の手を取った。
「ありがとうございます!うれしいです。お義母さん。本当の母と娘のように、仲良くしましょうね!」
弘人の母は考えていた。ああ、奈緒子さんは運が良かったのだ。このはるかという悪魔のような女と縁を切ることができたのだから。私達親子は、この女に乗っ取られる。そのような気がしてならなかった。
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