友達夫婦~夫の浮気相手は私の親友でした~

きなこもち

文字の大きさ
21 / 21

波風

しおりを挟む
「寅くんただいまー!!!」
「おかえり~」
 奈緒子の実家から帰省した渚は、ドアを開けるなり、出迎えた寅に飛び付いた。
「なぎくん!お父さんでしょ?」
 奈緒子が『寅くん』と言うのを真似して、渚も『寅くん』と父親のことを呼ぶようになってしまった。注意はするが、なかなか治らない。
「2人のこと待ってたんだよ。早くごはん食べよ!」
 寅はご馳走を作って待ってくれていた。奈緒子と渚は「やった~!」と喜び、数日ぶりに家族3人で食卓を囲んだ。

「奈緒子さん、実家はどうだった?」
「お父さんが、寅くんに会えなくて寂しがってたわよ。」
 奈緒子の父は偏屈なタイプであったが、寅とは気が合うようで、寅のことを気に入っていた。

 渚は、帰省の出来事を寅に話したいらしく、食事中ずっと喋り続けていた。
「あのね、じいじと公園行って、なぎ滑り台何回もした!あと、お熱でて病院泣かずに行けたよ!」
「えぇ?なぎ病院でたくさん泣いてたじゃない。嘘ついてない?」
 奈緒子が笑いながら暴露すると、渚は怒って
「泣いてない!ママ嘘ついてる!」
 と叫んでいた。

 食事も風呂も終え、渚を寝かし付けたあと、やっとゆっくりとした時間がやってきた。奈緒子と寅は、ダイニングテーブルに座りお茶を飲んでいた。
「そういえば、前の旦那さんに会ったって。ビックリした。」
「ね!私もビックリ。なんか視線を感じるな~って思ったらさ、こんな偶然あるんだね。正直、はるかじゃなくてほっとした。はるかはきっと4年ぶりでも攻撃してくるから。」
「──前の旦那さん、きっと奈緒子さんと別れたこと後悔してるよ。忘れられないんじゃないかな。」
 奈緒子は、寅がこのようなことを言ってくるのは意外だと思った。
「······え?そんなことないわよ。それに、実の子じゃないのに父親してるんだから、それだけはるかのことを愛してるんでしょ。話したときは、本当に昔の知り合いって温度だったし。」
「······そうかなぁ。僕が元旦那さんの立場だったら、奈緒子さんを忘れられないだろうなって思って。」
「はぁ?寅くんは浮気しないでしょ?前の旦那とは違うもの。」
「当たり前だよ!例えばの話し。」
 奈緒子は、寅は意外にも相当気にしてるな····と感じ、話を変えるように座っている寅の後ろから抱きついた。
「そんなことより!私に会えなくてさみしかったでしょ?渚は寝たけど·····寅くんは?もう寝る?」
「──寝ない。」
 寅は立ち上がって、奈緒子を優しく抱き締めてくれた。2人は寝室に移動し、一週間ぶりに愛し合った。寅の優しい温もりが、奈緒子は大好きだった。

 それから1ヶ月後、いつも通り、保育園のお迎えに来ていた奈緒子は、信じられない光景を見た。

 かつての親友はるかが、保育園に保護者として迎えに来ていた。

 奈緒子は見間違いかと思い、小声で保育士に聞いてみた。
「あ、あの、あそこのお母さんは、前からいましたか?知り合いにすごく似てて······」
「ああ!秋月さん?今月から、転園してきたんですよ~。年長クラスの、優紀君のお母さんですね!おキレイですよね~。」
 間違いない。信じられないが、はるかだ。なぜかは分からないが、渚と同じ園にいるのだ。

 どこまで奈緒子の人生につきまとえば気が済むのか。奈緒子は呆然として、はるかを見つめていた。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

幼馴染の許嫁

山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

処理中です...