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優真の態度に、心臓がドキリと嫌な音をたてる。

俺は慌てて優真の方に向いた。

「な、んで……行ってもいいのかよ?」

「うん、いいよ。というかそもそも、僕が止める権利もない。だから……成瀬君と、行っておいで?」

「……っ」

なんだよ、なんでそんな風に言うんだよ?

何か、突き放されたような、とんでもなく寂しい感覚に陥る。

もちろん、成瀬とランチに行けるのは、友達として嬉しい。

嬉しい、けど……。

(なんで……止める権利もない、とか……っ)

今度はだんだんイライラしてきた。

止める権利、メッチャあるっての。

俺は暫し、モヤモヤとした気持ちで、テーブルにパスタを並べる優真を見つめる。

優真は何事も無かったかのように、上機嫌でテーブルを整えている。

(くっそ……!)

もう我慢ならん。

俺は突如、優真の腰元に手を回して抱きついた。

「わ、陽斗?ふふ、どうしたの?」

「……やだ」

「なにが?」

「冷静な優真、やだ」

「ええ?」

……はぁ。

言いたい事は沢山あると思うのに、出てくる言葉はシンプルにまとまった。

けど、要約するとそういうことだ。

俺は、成瀬に嫉妬して滅茶苦茶に引き留めてくる優真を見たかった。

なのに……

「……っ」

更に腕の力を強めると、優真はひょいと首を傾げ、優しげな笑みを浮かべた。

「陽斗?……これはまた、甘えん坊なエンジェルだね」

優真はいつもより少し甘い声音で言うと、ムッとしている俺の顎をクイッと持ち上げ、髪をそっと撫でた。

「……」

俺は無言のまま、目をそらす。

優真はため息をひとつつくと、落ち着いた口調で話し始めた。

「ごめんね、僕は今とても冷たい言い方をした。けど……」

少し間をあけ、優真は続ける。

「さっき、陽斗はスマホを見つめたまま暫く考え込んでいたよね。キッチンから見えて、すぐにピンときたよ。ああ、きっと困ってるんだなって。しかも、成瀬君のことで。それで……気になって、ついスマホを覗いてしまった。それについては、ごめん、勝手に覗いて」

「それは……」

確かに、スマホを覗かれたのにはドキッとしたけれど。

(それより……)

俺はじっと優真を見つめ、ポツリと尋ねた。

「気付いてたんだ?」

すると優真は、親指で俺の唇を愛しげに撫でながら小さく頷いた。

「ん、恋人の勘ってやつかな。ノートの貸し借りがあるなら、連絡先ぐらい交換してるだろうし、もしや、と思ってね」

「そ、っか……でも俺、成瀬とは……出かけないから」

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