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(優真……!)

今は、エンジェル呼びにツッコミを入れている余裕はない。

俺は少し緩んだ成瀬の腕を振りほどき、優真の元へ駆け寄った。

「優真……っ」

「ああ、陽斗……涙目じゃないか」

そう言って、優真はそっと俺の頬に触れる。

その手の感触に愛しさが込み上げ、俺はこっそり優真の服の裾を掴んだ。

「……優真」

「うん」

「……」

「さ、行こう。いいお知らせもあるし、どこかでランチでもするかい?」

「……っ」

それは勿論、優真とランチしたい。

けど……

「……」

成瀬に悪くて、俺はチラリと後ろを振り返った。

すると、成瀬がやれやれとため息をつき、こちらへやって来る。

そして、ぺこりと頭を下げてから言った。

「陽斗君、東条先輩、すみませんでした。でも俺……どうしても陽斗君の事が好きです。忘れようとしたけど、忘れられなかった」

(成瀬……)

誠実な成瀬の態度に、じんとしてしまう。

(俺だって、別に成瀬を嫌ってる訳じゃないのに……)

本当に、成瀬とは良い友達になれるはずなのだ。

けれどやはり、そうなるには成瀬が俺の事を友達として見られるようにならなければ無理なのだろう。

と、そんな事を思っていると、優真がふふっと笑った。

「そうか、よく分かるよ、成瀬君。なにせ、陽斗は天使のように可愛い子だからね。一度好きになったら忘れられないのは、当然のことさ。だから、さっきみたいな事をされると、僕だってすごく嫉妬する。けど……」

言葉を切り、優真は成瀬の方へ歩み寄る。

そして、成瀬の肩をガシッと抱いた。

「一時休戦、しないかい?時には、ライバルに塩を送ることも大事だからね」

ライバルに、塩……?

ああ、敵に塩を送るってやつか。

言葉の意味を理解しながら二人を見守っていると、成瀬は苦笑しながら、そっと優真と距離を取った。

「ありがとうございます。でも、気持ちだけで俺には十分です。仲の良い二人を見てるのは、辛いですから……」

成瀬が言うと、優真は少し申し訳なさそうな顔で「……そうか」と呟いた。

そして俺の傍まで戻ってくると、俺にだけ聞こえるぐらいの声で呟く。

「行こう」

「う、うん……」

頷くものの、その場を離れ難い。

誰もいない講堂に、成瀬一人を残して行く事が、ひどく可哀想に思えてしまう。

(なら、せめて……)

俺はくるりと成瀬の方へ振り向くと、できる限りの明るい声をあげた。

「成瀬、ありがと。またな!」

「……っ」

手を振ると、成瀬は小さく息を飲んだ。

そして、どこか諦めたような笑みを浮かべて、同じように手を振り返す。

「ん、またね」

(成瀬……ごめんな)

俺は心の中でそう呟くと、優真と共に講堂を後にした。
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