桜空

彼との出会い

「盆と正月にしか帰ってこないのにね。今まで寄り付きもしなかったのにね。よっぽど桜空ちゃんのことが気に入ったのね」
口元に手を添えてオホホと上品に笑う女将さん。ひなのさんは仕事が休みの週末にちょくちょく実家に帰ってくるようになった。
「ねぇ桜空ちゃん、今度一緒にご飯食べに行こうよ。ファミレスの隣に新しくカフェがオープンしたのよ。お店の名前は確か……」
「サンティエです。フランス語で輝くっていう意味です」
「そうサンティエだわ。思い出した。よく知ってるわね」
「えっとそ、その……。あ、そうだ。チラシです。ドリンクの割引チケットが付いたチラシを配っていたので……」
「そうだったのね」
ひなのさんの言っているファミレスは僕のアルバイト先だ。うっかり口を滑らせるところだった。うまく誤魔化せたかな。少し不安だった。
「姉さん違うところに行こうよ。桜空もそのほうがいいよね？」
作務衣姿の蓮さんが帳場の奥から姿を見せた。
「蓮には聞いてません」
「俺だけのけ者？ひどくない？」
「私はね桜空ちゃんと二人きりで出掛けたいの」
「桜空はまだ本調子じゃない」
「どこが本調子じゃないのよ。すごく元気そうよ。桜空ちゃん、どこも悪くないよね？」
ひなのさんに聞かれどう答えていいか迷った。