桜空

彼との出会い

休憩時間に駅舎の前にある足湯に連れていってもらった。
「こんなにぬるかったっけ？」
「一分と浸かっていられないくらい熱かったような気がする。足湯のあとに買ってもらえるソフトクリームが楽しみでね。帰りに買って帰ろう」
昨日も女将さんに連れてきてもらった居酒屋・寿屋さんの店先にかき氷と、ソフトクリームののぼりが風にゆらゆらと揺れていた。
僕も食べてみたかったんです。と答えると、ひなのさんが嬉しそうに顔を綻ばせた。
「嫁に貰った訳じゃない。嫁は手伝うのが当たり前だ。なんでこんな小さな嫁を貰ったんだ。ただ働きの癖に……とかね、お姑さんと小姑にさんざん嫌なことを言われて、言葉に出来ないくらい辛い思いをして来たのよ。今は昔と違ってお嫁さんのほうが強いってよく耳にするけど、どうなのかしらね」
「またはじまった母さんの昔話」
「私は桜空ちゃんに話しているのよ」
女将さんは僕が蓮さんと付き合っていると勘違いしていた。蓮が選んだ人だもの。私も主人も反対しないわ。一時期経営が傾いて一度は旅館を畳むことにしたんだけど、蓮が帰ってきてくれることになって、もう少しだけ頑張ることにしたの。そんな話しを聞かせてくれた。