桜空

彼との出会い

「誰か！助けて下さい！」
女性の叫ぶ声が聞こえてきた。
「桜空、様子を見てくる。すぐに戻るからここから動かないで」
「分かった。蒼を抱っこするから待ってて」
ベビースリングをリュックサックから取り出した。蓮さんに蒼をその中に入れてもらい横抱きした。その時念のためにこれを持っていたほうがいいと防犯ブザーを渡された。なかなか蓮さんは戻って来なかった。
「パパ遅いね」
夕方になり少しは暑さがやわらいだけど風がない分ムシムシしていて、木陰に移動して蒼の額の汗をハンカチで拭いながら話し掛けていたら、
「やっと見つけた！」
一番聞きたくない声が聞こえて来て。
血の逆流するような恐怖と、悪夢のような忌まわしい恐怖が同時に襲ってきた。どうか聞き間違いであって欲しい。空耳であって欲しい。そう願ったけれどそれは脆くも崩れ去った。
「……唯花さん……なんで……」
もう二度と関わり合いを持ちたくないのに。顔も見たくないのに。どうしてそっとしておいてくれないの？
「私の赤ちゃんいた！あんたね人の赤ちゃんを浚ってどういうつもり？」
「この子は僕と蓮さんの子どもです」
「なに馬鹿なことを言ってるのよ。この赤ちゃんは私と藤堂の子よ。男に子どもが産めるないじゃん。嘘つき、泥棒、あばずれ」
大声で罵る唯花さんからはお酒の匂いがぷんぷんした。
「あ、そうだった。あんた両性だったわね。気色悪い。生きている価値なんてないじゃん」
アハハ、キャハハと馬鹿にするように笑う唯花さん。
「何があっても蒼は渡しません」
蒼は僕と蓮さんの大切な宝物だもの。刺されてもいい。この子を守れるなら。唯花さんに背を向けて蒼を抱き締めた。