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亀裂
亀裂
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「結、思い出すのも辛いと思うがなんのオブジェだったか思い出せるか?」
「えっと確か……思い出すからちょっと待って」
結お姉さんがおもむろに僕の手を掬い上げると、手の甲を撫でた。
「あ、そうだ。手だ。エントランスには高そうな絵画が飾られてあった。タクシーは黒と黄色のラインが入った……えっとそうだ。Nタクシーだ。妊婦健診のとき何回か乗ったことがあるから間違いない」
「それだけ情報があれば十分だ。結ありがとう」
卯月さんが元刑事さんだった蜂谷さんと鞠家さんを呼んだ。
「駅前から車で十分くらいのところに一昨年まで渋谷病院という比較的大きな病院があったんだ。患者が何人も亡くなり幽霊が出るとかで、有名な心霊スポットだった。二ヶ月前にその跡地に新しくマンションが建った。販売価格は確か5000万前後だったような。いずれにせよ庶民には手が届かない高級マンションだ」
蜂谷さんは情報通だ。すぐにそのマンションを突き止めた。
「結お姉さん、少しは食べないと」
「うん。分かってはいるんだけどね。ごめん、何も食べたくないんだ」
結お姉さんは布団を頭から被ってしまった。
「テーブルの上にお握りを置いておくね。食べたくなったら食べてね」
膝の上にトレイを乗せ落とさないように慎重に運んだ。
紬ちゃんは円花の隣で、ふたりしてお手手をバンザイしてすやすやとねんねしている。
心春は彼の膝の上にごろんと横になり、口を大きく開けて仕上げみがきをしてもらっている。
家宅捜索は今も続いているみたいだった。
段ボールを次から次にワゴン車に運んでいる。マトリもソタイもいる。大麻らしきブツが見付かったのだろう。捜査員が色めき立っている。彼のスマホにヤスさんから逐一連絡が入っていた。
本物の櫂さんの行方はようとして分からないまま、ただ時間だけが過ぎていった。
「えっと確か……思い出すからちょっと待って」
結お姉さんがおもむろに僕の手を掬い上げると、手の甲を撫でた。
「あ、そうだ。手だ。エントランスには高そうな絵画が飾られてあった。タクシーは黒と黄色のラインが入った……えっとそうだ。Nタクシーだ。妊婦健診のとき何回か乗ったことがあるから間違いない」
「それだけ情報があれば十分だ。結ありがとう」
卯月さんが元刑事さんだった蜂谷さんと鞠家さんを呼んだ。
「駅前から車で十分くらいのところに一昨年まで渋谷病院という比較的大きな病院があったんだ。患者が何人も亡くなり幽霊が出るとかで、有名な心霊スポットだった。二ヶ月前にその跡地に新しくマンションが建った。販売価格は確か5000万前後だったような。いずれにせよ庶民には手が届かない高級マンションだ」
蜂谷さんは情報通だ。すぐにそのマンションを突き止めた。
「結お姉さん、少しは食べないと」
「うん。分かってはいるんだけどね。ごめん、何も食べたくないんだ」
結お姉さんは布団を頭から被ってしまった。
「テーブルの上にお握りを置いておくね。食べたくなったら食べてね」
膝の上にトレイを乗せ落とさないように慎重に運んだ。
紬ちゃんは円花の隣で、ふたりしてお手手をバンザイしてすやすやとねんねしている。
心春は彼の膝の上にごろんと横になり、口を大きく開けて仕上げみがきをしてもらっている。
家宅捜索は今も続いているみたいだった。
段ボールを次から次にワゴン車に運んでいる。マトリもソタイもいる。大麻らしきブツが見付かったのだろう。捜査員が色めき立っている。彼のスマホにヤスさんから逐一連絡が入っていた。
本物の櫂さんの行方はようとして分からないまま、ただ時間だけが過ぎていった。
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