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いつも同じ日々のようで──
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1.いつも同じ夢
夢を見た。
はっきりとは覚えてないけど、誰かと本音でぶつかりあって、誰かと本気で戦って。最後は満足して終われた夢。
変な夢だけど、2日に一回は見ているんだ。シナリオは全く同じ。
この心の奥に残っている感情も同じ。怒りと悲しみと呆れ。
でも嬉しいんだ。何事にも平均以下、平均以上に成れない私だから。
「間期ー来たぞー!!」
名前を呼ばれた。
少し低めで男口調、だけど明るくて元気な、ちゃんと女の子の声。
「間期ーはよせいっ!」
「今いくー。」
今彼女が呼んだように、私の名前は間期、佐藤 間期。山と海と田んぼの田舎の村、反対村に住む中学一年生。部活は、幼なじみについてって入った陸上部。特技なし。唯一の取り柄は、友達作りかな。
「おい間期ー!!」
「ごめーん。」
朝の日は、いつもせっかちである。
急いで外に出る。
「行ってきます!」
返事はない。
親はもう仕事を始めているようだ。この村で、林業、漁業に並ぶ職業、農業の二人だ。おそらく、私もこの家業を継ぐことだろう。
「はぁ…。」
私の吐息は誰にも届かない。
「おせぇぞ間期。」
「ごめんごめん。でも朝日も早すぎない?」
「早くて損することあっか?」
「あるでしょ。」
「ふーん。まいや。」
「はぁ…。」
私の親友─冬音 朝日─は、中学生にして世界トップクラスのスピードを誇る、陸上のオリンピック選手だ。増して高身長、顔立ちもいい。短髪で男口調で大雑把だから、男でいる方が違和感がない。制服がスカートだから、最初は少し笑った。
でも、だからこそ、一緒にいると安心する。守られてる気がする。
──ミラーナ様、一生お守りします。
──ミラーナ様を生きて還すことができるならば、命など要らない。
へ?
今、朝日に、犬の耳と鬼の角生えてたように見えたんだけど、気のせいだよね。
「どした?」
「ううん、何も。」
「ふーん。そだ間期、」
「ん?」
「しくだいみしてぃ。」
嫌だ。やらない自分が悪い。
いろいろと早い朝日ではあるが、一つ例外がある。この冬音 朝日という人は、頭の回転が遅い、そう、バカなのだ!
それに朝日には、去年まで毎日宿題を見せてくれる人がいた。私はその子に重ねられている。朝日にとっては私は、その代わりでしかないのだ。
でも朝日が立ち直るまでは仕方ないとは思っている。でも私はそんな朝日を甘やかしたりはしない。
「嫌だ。」
「ナゼに!?月夜はみしてんくれたんぞー。」
「私は月夜じゃないから。」
「んな!」
はぁ、まただ。
朝日はこうやって、結構自爆する。バカだから。
「わかってってし!うっせー!」
そしてこうやって、自分に嫌気がさして私に八つ当たりする。そして自慢の足で走り去る。
私何もしてないのに。早いから追う気にもならない。
少し、昔の話をしよう。手短にまとめた話だが。
その昔話の主人公は、私の親友冬音 朝日と、その大親友の夏星 月夜。
この二人は正反対の性格で、特技も正反対。しかし二人は、息ぴったりでとにかく仲がいい。
朝日は、スポーツ万能でとにかく明るく元気が取り柄。顔も声も性格も、どっちかって言うと男に近い。
月夜は、勉強の成績がダントツでとにかく静かで大人っぽい。顔は眼鏡美人だし声も性格も大人しい。
二人はいつも、いや、ずっと一緒だった。
しかし月夜の方は、父を病気で早くに亡くし、自分も身体が弱いことから、医師を志していた。そのため、中学は東京の名門校に実力でトップ入学して、旅立っていってしまった。
無論、朝日は猛反対。しかし月夜は、いつか会えるから、とか綺麗なこと言って、親戚の住む東京に引っ越した。
その後、朝日は月夜のことを、なるべく考えないようにしていた。
でも、何度かああやって自分で思い出してしまう。
前に、進んでほしいのだけれど。
「佐藤さん?」
まだ途中ではあるけれど、名前を呼ばれて振り返る。
「やはり間期さんですね。おはようございます。」
今にも消えそうな、儚い笑顔で、彼ははにかんだ。
「おはよう!」
もしかしたら朝日よりも高いんじゃないかと思える男の子の声で呼ばれた。声変わりの途中で、私としては好みの声ではある。
彼は基本無口である。挨拶の後は、私の隣を歩くのみで、特に会話はなし。
では彼の話をしよう。
柱本 霊。反対神社に住む、同級生の男子。学力も体力も私より少し上。特技は徐霊、って言ってたけど、本当かどうかはわからない。見た目からは想像できないから。見た目でいうと、髪型、特に前髪が特徴的なんだ。顔の左半分を前髪で隠している。ちなみに、霊君には双子の妹がいて、霊君とは反対の髪型によって有名女優になった霊香ちゃん。霊香ちゃんはその髪型で売れたのに、霊君はその髪型のせいで、小学校でイジメを受け転校してきた。(生い立ちは後程詳しく出てきます。)でもなぜその髪型なのかは、二人と仲がいい私でも、未だにわからない。
ミステリアスなのも、魅力の一つだと思うし。
──怒りと悲しみを抑えきれません。
──いつも迷惑をかけてすみません、ミラーナ様。
まただ。
今度は、霊君に猫の耳と鬼の角が生えてたように見えたけど、気のせい、だよね。
学校に着くまではそこそこの距離と、時間がかかる。
しかし、私達の間に言葉は無い。
そのまま、学校に到着した。
反対小中一貫学校。文字通り小中一貫の学校。昔は学園で、高等部まであったみたいだけど、今じゃ少子化が問題で高等部はなくなった。そこからどんどん人が減って、小学部、中等部共に廃校寸前である。只、ひと学年零~五人が平均なのに対し、この中等部一年生は十人もいる。偶然だろう。
話を戻そう。この反対小中一貫学校は山の上、しかも海に面した崖の上にたたずむ。今は3月中旬で少し寒さが残っているが、夏場はちょうどよく涼しい。海の香りもして、景色も最高。
海の恵みと山の恵み。増して農産物にも恵まれた土地に生まれて、私達は幸せなのだろう。
教室では、朝日が必死に一勉やってるのとは別に、三人くらいは読書、一組のカレカノカップルは立ち話と、かなりの人数は登校していた。
ただ、
「政宗君、今日も来てないね。」
「はい…。」
この学級には、不登校の生徒が一人存在する。
一月前に転校してきた、櫻葉 政宗という男の子。長髪で一つ結び、色は深紫色で、顔もそこそこ良くて日本顔、しかも剣道部という、なんともできのいい人という印象を持っている。
2.正夢
朝。
朝日によって起こされた、気持ちのいい朝。
今日の朝日は、あのうるさいスピード&体力バカなどではなく、朝一番に昇る朝の日のことである。
やはりこの朝日に起こされる朝は気持ちがいい。
何度でも言ってやろう、朝日によって起こされた朝はとても──
「間期ー来たぞー!!」
……………。
「はよせいっ!」
次は、かのうるさいスピード&体力バカのほうの朝日が昇って(やって)来た。
「今起きたところなんだけどー。」
「じゃ、先行ってんなー。」
ほんとにせっかちだ。
先に行くなら、私のこと迎えに来る意味も無いのに。ちょっと頭の中覗いてみたくなる。
結果、私は一人、田んぼのあぜ道を歩いている。雪が溶け残って、春の訪れを感じる。でも吹く風はまだ冷たい。
反対村は、ほんとに田んぼが多い。だからあぜ道も長い。景色がほぼ変わらず、一人でいると退屈だ。
あぜ道を抜けて商店街に出た。
「おはよう。間期ちゃん。」
「おはようございます!」
商店街の鮮魚店のおじちゃんや、
「今日は早いね。」
「部活の朝練なもので、」
青果店のおばちゃん、
「ふわぁあ。おわよう。」
「おはようございます。何時起きですか?」
「三時。」
「おぉ。」
眠そうな古本屋のお兄さん。
商店街は朝からにぎやかだ。ここは退屈しない。
しかし、その商店街を抜けた海沿いの坂道からは、冬の寂しげな白い山、そして儚ささえ感じさせる、真っ青な海と空。
そこでふと、腕時計を見た。
七時二十五分。
ヤバッ。
朝練開始五分前である。これは、走っても間に合わん。しかしまあ、
走るけど。
坂道の残り半分を駆け降りた。そしてその勢いで山道を駆け上がる。
私には人並みのスピードと体力しかない。坂道を駆け降りた時点では息が切れはじめている。冷たい冬の田舎の空気は、容赦なく肺に突き刺さるし、山を上がるほど空気は薄くなっていくし。
でも私そんなことじゃ諦めないし、できないことも精一杯やるし。それくらいしか、取り柄無いし。
当たり前のことだけど、胸を張れないけど、そんな努力は、誰よりもわかってるから。頑張ってるってところだけでも、わかってほしいから。
校門まで100メートルの地点に立つ、カーブミラーが見えた。なぜ立っているのかはわからないけど、目印になるのであまり気にしていない。
でも、いきなり、深紫色の、何かが、
「キャァァァァァァ!!!!!」
カーブミラーから、出てきて、
「え、えぇ……?」
ゆっくり、顔を、上げて、
「ミラーナ様」
その何かは人で、
私を、ミラーナと呼んだ。
と、いうところで、目が覚めた。
目が覚めたということは、これは夢なんだと悟った。悟ったはいいが、それが本当に夢だったかは、半信半疑である。今までの一ヶ月、ずっと同じ夢を見ていたから。2日に一回の、同じ夢。
まだ時間は早い。でもまあ、今日は朝練があるのでちゃんと準備はしようと思う。
この時間帯は、まだ義親も仕事を始めていない。
「おはよう。」
「おはよう。」
「おはよう。間期。」
義親と朝食を囲むのは久しぶりだ。今日の朝食のメニューは、(というか毎日同じだが)白米に納豆に卵をのせて一気にかき混ぜる、NTKG(納豆卵かけご飯)と、味噌汁と、採れたて冬野菜サラダと、地元の牛乳ヨーグルト。
どれもほとんどが地元で採れたもの達で、とても美味しい。地元で採れたものだから、たぶん、他より美味しく感じるだけ。でも、美味し──
「間期ー来たぞー!!」
……………。
「はよせいっ!」
デジャヴ。
「今食事中なんだけどー。」
「じゃ、先行ってんなー。」
食事を終わらせ、私も家を出た。
親は私より先に家を出ていたので、私が最後ということになる。
私は一人、田んぼのあぜ道を歩いている。ほんとに田んぼが多い。景色がほとんど変わらず、一人でいると退屈だ。でも、空気は澄んでいるし、一面の緑が綺麗だ。
でも、そんな寂しいあぜ道も、抜けてしまえば賑やかな商店街に出る。
「おはよう。」
「おはようございます。」
鮮魚店のおじちゃんや、
「今日朝早いねぇ。」
「朝練なもので、」
青果店のおばちゃん、
「ふわぁあ。おはよう。」
「おはようございます。今日何時起きですか?」
「三時。」
「おぉ。」
眠そうな古本屋のお兄さん。
ん?またデジャヴ?
商店街を抜けて、海沿いの坂道を歩きながら考える。今朝、昨日?よくわからないが、あの夢って、正夢なんじゃ、
恐る恐る、腕時計を見た。
七時二十五分。
部活の始まる五分前。
ヤバッ。
私はとりあえず走った。走りながら考える。
もしそうなら、もし本当に正夢なら、また鏡から人が 出てくる。
ほんと、やめてよ。ほんと、怖いし。
そして、あのカーブミラーが見えて来た。でも、私はだんだんにわくわくしてきた。無意識にだんだんスピードを落としながら近づいて、一応逃げる体制にはなっておくが、カーブミラーを目の前にして立ち止まった。
なぜだろう。さっきまであんなに怖かったのに、今じゃ期待している。そうかそうだ。私は、あの出来事に出くわしたいんだ。
だってそんなの、普通じゃないから。
案の定、また鏡から深紫色の人が出てきた。
ただそれは、ただの深紫色の人ではなくて、
「政宗君!?」
「ミラーナ様!」
あの、不登校ぎみの転入生、櫻葉 政宗だった。
3.櫻葉 政宗
「ねぇ、ミラーナって誰なの?誰かと勘違いしてない?」
「いえミラーナ様、」
政宗は膝間付き、私に頭を下げて続ける。
「マギアナの元に造られし創造人間、マサムネでございます。」
「な、何で敬語なの?創造人間って?マギアナって誰?」
その問いに対して政宗君は、立ち上がって「ご存じないのですね。」と続けた。
「母さ、いやマギアナが使っていた植物人間の技術を元に開発された、新しい人種ですよ。」
「中二病?」
「あ、信じてませんね。」
信じられるか。
「ごめん、今急いでるから。」
政宗を見捨てて、私は歩き出した。本人は必至に何かを伝えようとしている。それを聞かないで進むこと。それは彼には悔しいことだろう。
私は自分のことをマイナスに評価することで、自分をそのくらいの人間だということを、自覚していく。何時しか、無意識にそうしていた。何時しか、その答えを見つけながら生きていた。見つけても、何もない気しかないけど。
そんな暗いことを、後ろ向きに考えていた私の腕を、政宗が掴んだ。不思議と、その手に暖かみが感じられなかった。
「間期」
「何?ほんと急いでるから。」
その手を振り払おうとしたとき、政宗の左手に刀が見えた。深紫色の、光の刀。
「ヒィッ!」
斬られるっ!
でも政宗は私の腕を放した。
カチャ
刀の音がして目をゆっくり開ける。
「マギアナの剣術を見れば、ミラーナの部分が出てくるはずっ!」
「はぁ!?ほんと何言ってんの!?」
「はぁああぁぁぁ!!」
政宗が、刀を振りかざして、わざとだと思うが、真下に空ぶった。
「へぇええぇぇ……。」
「どう?」
どう?じゃないよ。
私は二歩引いて、走り出した。学校にいけば、誰か助けてくれる。
「ミラーナ様!ちゃんと見て下さい!」
「だから私はミラーナじゃ、」
──ミラーナ!
誰!?
いやこれは、思い出!?
校門まで、五十メートル。あと少し。
「あ、学校。」
後ろの足音が、止まった気がした。
「学校には、行けない。」
ゴール!
振り返る。政宗はいない。ならそれでいいけど。
ふと、腕時計を見る。
七時三十五分。
ま、五分くらいいいか。
「よっ、おはよー間期。」
「わぁっ!もー、……おはよ。」
幼なじみの顔を見て、不安も悩みも心配も消えた。こいつも陸上部で、朝練が有るはずなのに遅刻している。
こいつ─佐々木 誠─は、陰キャでゲーマーでアニヲタだけど、足はそこそこ速いし、学力は学年トップ(月夜の次)。眼鏡系イケメンだから、顔はいい。でも性格はクズ。女子には優しいが、イタズラ好き。
まあ、そんな奴だけど、一緒にいると安心する。
「急げ間期!五分はセーフだ!」
「うん!」
──急いで下さい。ミラーナ様。
──マギアナが攻めて来ました。
次は、誠に兎の耳と鬼の角。ここ数日、そんなことが多くなって来た。一体、何なの?少し記憶の様な気もするが、そんな覚えはない。鳥肌立った。
部活は遅刻ってことで、顧問に二人で怒られた。
chapter One END
夢を見た。
はっきりとは覚えてないけど、誰かと本音でぶつかりあって、誰かと本気で戦って。最後は満足して終われた夢。
変な夢だけど、2日に一回は見ているんだ。シナリオは全く同じ。
この心の奥に残っている感情も同じ。怒りと悲しみと呆れ。
でも嬉しいんだ。何事にも平均以下、平均以上に成れない私だから。
「間期ー来たぞー!!」
名前を呼ばれた。
少し低めで男口調、だけど明るくて元気な、ちゃんと女の子の声。
「間期ーはよせいっ!」
「今いくー。」
今彼女が呼んだように、私の名前は間期、佐藤 間期。山と海と田んぼの田舎の村、反対村に住む中学一年生。部活は、幼なじみについてって入った陸上部。特技なし。唯一の取り柄は、友達作りかな。
「おい間期ー!!」
「ごめーん。」
朝の日は、いつもせっかちである。
急いで外に出る。
「行ってきます!」
返事はない。
親はもう仕事を始めているようだ。この村で、林業、漁業に並ぶ職業、農業の二人だ。おそらく、私もこの家業を継ぐことだろう。
「はぁ…。」
私の吐息は誰にも届かない。
「おせぇぞ間期。」
「ごめんごめん。でも朝日も早すぎない?」
「早くて損することあっか?」
「あるでしょ。」
「ふーん。まいや。」
「はぁ…。」
私の親友─冬音 朝日─は、中学生にして世界トップクラスのスピードを誇る、陸上のオリンピック選手だ。増して高身長、顔立ちもいい。短髪で男口調で大雑把だから、男でいる方が違和感がない。制服がスカートだから、最初は少し笑った。
でも、だからこそ、一緒にいると安心する。守られてる気がする。
──ミラーナ様、一生お守りします。
──ミラーナ様を生きて還すことができるならば、命など要らない。
へ?
今、朝日に、犬の耳と鬼の角生えてたように見えたんだけど、気のせいだよね。
「どした?」
「ううん、何も。」
「ふーん。そだ間期、」
「ん?」
「しくだいみしてぃ。」
嫌だ。やらない自分が悪い。
いろいろと早い朝日ではあるが、一つ例外がある。この冬音 朝日という人は、頭の回転が遅い、そう、バカなのだ!
それに朝日には、去年まで毎日宿題を見せてくれる人がいた。私はその子に重ねられている。朝日にとっては私は、その代わりでしかないのだ。
でも朝日が立ち直るまでは仕方ないとは思っている。でも私はそんな朝日を甘やかしたりはしない。
「嫌だ。」
「ナゼに!?月夜はみしてんくれたんぞー。」
「私は月夜じゃないから。」
「んな!」
はぁ、まただ。
朝日はこうやって、結構自爆する。バカだから。
「わかってってし!うっせー!」
そしてこうやって、自分に嫌気がさして私に八つ当たりする。そして自慢の足で走り去る。
私何もしてないのに。早いから追う気にもならない。
少し、昔の話をしよう。手短にまとめた話だが。
その昔話の主人公は、私の親友冬音 朝日と、その大親友の夏星 月夜。
この二人は正反対の性格で、特技も正反対。しかし二人は、息ぴったりでとにかく仲がいい。
朝日は、スポーツ万能でとにかく明るく元気が取り柄。顔も声も性格も、どっちかって言うと男に近い。
月夜は、勉強の成績がダントツでとにかく静かで大人っぽい。顔は眼鏡美人だし声も性格も大人しい。
二人はいつも、いや、ずっと一緒だった。
しかし月夜の方は、父を病気で早くに亡くし、自分も身体が弱いことから、医師を志していた。そのため、中学は東京の名門校に実力でトップ入学して、旅立っていってしまった。
無論、朝日は猛反対。しかし月夜は、いつか会えるから、とか綺麗なこと言って、親戚の住む東京に引っ越した。
その後、朝日は月夜のことを、なるべく考えないようにしていた。
でも、何度かああやって自分で思い出してしまう。
前に、進んでほしいのだけれど。
「佐藤さん?」
まだ途中ではあるけれど、名前を呼ばれて振り返る。
「やはり間期さんですね。おはようございます。」
今にも消えそうな、儚い笑顔で、彼ははにかんだ。
「おはよう!」
もしかしたら朝日よりも高いんじゃないかと思える男の子の声で呼ばれた。声変わりの途中で、私としては好みの声ではある。
彼は基本無口である。挨拶の後は、私の隣を歩くのみで、特に会話はなし。
では彼の話をしよう。
柱本 霊。反対神社に住む、同級生の男子。学力も体力も私より少し上。特技は徐霊、って言ってたけど、本当かどうかはわからない。見た目からは想像できないから。見た目でいうと、髪型、特に前髪が特徴的なんだ。顔の左半分を前髪で隠している。ちなみに、霊君には双子の妹がいて、霊君とは反対の髪型によって有名女優になった霊香ちゃん。霊香ちゃんはその髪型で売れたのに、霊君はその髪型のせいで、小学校でイジメを受け転校してきた。(生い立ちは後程詳しく出てきます。)でもなぜその髪型なのかは、二人と仲がいい私でも、未だにわからない。
ミステリアスなのも、魅力の一つだと思うし。
──怒りと悲しみを抑えきれません。
──いつも迷惑をかけてすみません、ミラーナ様。
まただ。
今度は、霊君に猫の耳と鬼の角が生えてたように見えたけど、気のせい、だよね。
学校に着くまではそこそこの距離と、時間がかかる。
しかし、私達の間に言葉は無い。
そのまま、学校に到着した。
反対小中一貫学校。文字通り小中一貫の学校。昔は学園で、高等部まであったみたいだけど、今じゃ少子化が問題で高等部はなくなった。そこからどんどん人が減って、小学部、中等部共に廃校寸前である。只、ひと学年零~五人が平均なのに対し、この中等部一年生は十人もいる。偶然だろう。
話を戻そう。この反対小中一貫学校は山の上、しかも海に面した崖の上にたたずむ。今は3月中旬で少し寒さが残っているが、夏場はちょうどよく涼しい。海の香りもして、景色も最高。
海の恵みと山の恵み。増して農産物にも恵まれた土地に生まれて、私達は幸せなのだろう。
教室では、朝日が必死に一勉やってるのとは別に、三人くらいは読書、一組のカレカノカップルは立ち話と、かなりの人数は登校していた。
ただ、
「政宗君、今日も来てないね。」
「はい…。」
この学級には、不登校の生徒が一人存在する。
一月前に転校してきた、櫻葉 政宗という男の子。長髪で一つ結び、色は深紫色で、顔もそこそこ良くて日本顔、しかも剣道部という、なんともできのいい人という印象を持っている。
2.正夢
朝。
朝日によって起こされた、気持ちのいい朝。
今日の朝日は、あのうるさいスピード&体力バカなどではなく、朝一番に昇る朝の日のことである。
やはりこの朝日に起こされる朝は気持ちがいい。
何度でも言ってやろう、朝日によって起こされた朝はとても──
「間期ー来たぞー!!」
……………。
「はよせいっ!」
次は、かのうるさいスピード&体力バカのほうの朝日が昇って(やって)来た。
「今起きたところなんだけどー。」
「じゃ、先行ってんなー。」
ほんとにせっかちだ。
先に行くなら、私のこと迎えに来る意味も無いのに。ちょっと頭の中覗いてみたくなる。
結果、私は一人、田んぼのあぜ道を歩いている。雪が溶け残って、春の訪れを感じる。でも吹く風はまだ冷たい。
反対村は、ほんとに田んぼが多い。だからあぜ道も長い。景色がほぼ変わらず、一人でいると退屈だ。
あぜ道を抜けて商店街に出た。
「おはよう。間期ちゃん。」
「おはようございます!」
商店街の鮮魚店のおじちゃんや、
「今日は早いね。」
「部活の朝練なもので、」
青果店のおばちゃん、
「ふわぁあ。おわよう。」
「おはようございます。何時起きですか?」
「三時。」
「おぉ。」
眠そうな古本屋のお兄さん。
商店街は朝からにぎやかだ。ここは退屈しない。
しかし、その商店街を抜けた海沿いの坂道からは、冬の寂しげな白い山、そして儚ささえ感じさせる、真っ青な海と空。
そこでふと、腕時計を見た。
七時二十五分。
ヤバッ。
朝練開始五分前である。これは、走っても間に合わん。しかしまあ、
走るけど。
坂道の残り半分を駆け降りた。そしてその勢いで山道を駆け上がる。
私には人並みのスピードと体力しかない。坂道を駆け降りた時点では息が切れはじめている。冷たい冬の田舎の空気は、容赦なく肺に突き刺さるし、山を上がるほど空気は薄くなっていくし。
でも私そんなことじゃ諦めないし、できないことも精一杯やるし。それくらいしか、取り柄無いし。
当たり前のことだけど、胸を張れないけど、そんな努力は、誰よりもわかってるから。頑張ってるってところだけでも、わかってほしいから。
校門まで100メートルの地点に立つ、カーブミラーが見えた。なぜ立っているのかはわからないけど、目印になるのであまり気にしていない。
でも、いきなり、深紫色の、何かが、
「キャァァァァァァ!!!!!」
カーブミラーから、出てきて、
「え、えぇ……?」
ゆっくり、顔を、上げて、
「ミラーナ様」
その何かは人で、
私を、ミラーナと呼んだ。
と、いうところで、目が覚めた。
目が覚めたということは、これは夢なんだと悟った。悟ったはいいが、それが本当に夢だったかは、半信半疑である。今までの一ヶ月、ずっと同じ夢を見ていたから。2日に一回の、同じ夢。
まだ時間は早い。でもまあ、今日は朝練があるのでちゃんと準備はしようと思う。
この時間帯は、まだ義親も仕事を始めていない。
「おはよう。」
「おはよう。」
「おはよう。間期。」
義親と朝食を囲むのは久しぶりだ。今日の朝食のメニューは、(というか毎日同じだが)白米に納豆に卵をのせて一気にかき混ぜる、NTKG(納豆卵かけご飯)と、味噌汁と、採れたて冬野菜サラダと、地元の牛乳ヨーグルト。
どれもほとんどが地元で採れたもの達で、とても美味しい。地元で採れたものだから、たぶん、他より美味しく感じるだけ。でも、美味し──
「間期ー来たぞー!!」
……………。
「はよせいっ!」
デジャヴ。
「今食事中なんだけどー。」
「じゃ、先行ってんなー。」
食事を終わらせ、私も家を出た。
親は私より先に家を出ていたので、私が最後ということになる。
私は一人、田んぼのあぜ道を歩いている。ほんとに田んぼが多い。景色がほとんど変わらず、一人でいると退屈だ。でも、空気は澄んでいるし、一面の緑が綺麗だ。
でも、そんな寂しいあぜ道も、抜けてしまえば賑やかな商店街に出る。
「おはよう。」
「おはようございます。」
鮮魚店のおじちゃんや、
「今日朝早いねぇ。」
「朝練なもので、」
青果店のおばちゃん、
「ふわぁあ。おはよう。」
「おはようございます。今日何時起きですか?」
「三時。」
「おぉ。」
眠そうな古本屋のお兄さん。
ん?またデジャヴ?
商店街を抜けて、海沿いの坂道を歩きながら考える。今朝、昨日?よくわからないが、あの夢って、正夢なんじゃ、
恐る恐る、腕時計を見た。
七時二十五分。
部活の始まる五分前。
ヤバッ。
私はとりあえず走った。走りながら考える。
もしそうなら、もし本当に正夢なら、また鏡から人が 出てくる。
ほんと、やめてよ。ほんと、怖いし。
そして、あのカーブミラーが見えて来た。でも、私はだんだんにわくわくしてきた。無意識にだんだんスピードを落としながら近づいて、一応逃げる体制にはなっておくが、カーブミラーを目の前にして立ち止まった。
なぜだろう。さっきまであんなに怖かったのに、今じゃ期待している。そうかそうだ。私は、あの出来事に出くわしたいんだ。
だってそんなの、普通じゃないから。
案の定、また鏡から深紫色の人が出てきた。
ただそれは、ただの深紫色の人ではなくて、
「政宗君!?」
「ミラーナ様!」
あの、不登校ぎみの転入生、櫻葉 政宗だった。
3.櫻葉 政宗
「ねぇ、ミラーナって誰なの?誰かと勘違いしてない?」
「いえミラーナ様、」
政宗は膝間付き、私に頭を下げて続ける。
「マギアナの元に造られし創造人間、マサムネでございます。」
「な、何で敬語なの?創造人間って?マギアナって誰?」
その問いに対して政宗君は、立ち上がって「ご存じないのですね。」と続けた。
「母さ、いやマギアナが使っていた植物人間の技術を元に開発された、新しい人種ですよ。」
「中二病?」
「あ、信じてませんね。」
信じられるか。
「ごめん、今急いでるから。」
政宗を見捨てて、私は歩き出した。本人は必至に何かを伝えようとしている。それを聞かないで進むこと。それは彼には悔しいことだろう。
私は自分のことをマイナスに評価することで、自分をそのくらいの人間だということを、自覚していく。何時しか、無意識にそうしていた。何時しか、その答えを見つけながら生きていた。見つけても、何もない気しかないけど。
そんな暗いことを、後ろ向きに考えていた私の腕を、政宗が掴んだ。不思議と、その手に暖かみが感じられなかった。
「間期」
「何?ほんと急いでるから。」
その手を振り払おうとしたとき、政宗の左手に刀が見えた。深紫色の、光の刀。
「ヒィッ!」
斬られるっ!
でも政宗は私の腕を放した。
カチャ
刀の音がして目をゆっくり開ける。
「マギアナの剣術を見れば、ミラーナの部分が出てくるはずっ!」
「はぁ!?ほんと何言ってんの!?」
「はぁああぁぁぁ!!」
政宗が、刀を振りかざして、わざとだと思うが、真下に空ぶった。
「へぇええぇぇ……。」
「どう?」
どう?じゃないよ。
私は二歩引いて、走り出した。学校にいけば、誰か助けてくれる。
「ミラーナ様!ちゃんと見て下さい!」
「だから私はミラーナじゃ、」
──ミラーナ!
誰!?
いやこれは、思い出!?
校門まで、五十メートル。あと少し。
「あ、学校。」
後ろの足音が、止まった気がした。
「学校には、行けない。」
ゴール!
振り返る。政宗はいない。ならそれでいいけど。
ふと、腕時計を見る。
七時三十五分。
ま、五分くらいいいか。
「よっ、おはよー間期。」
「わぁっ!もー、……おはよ。」
幼なじみの顔を見て、不安も悩みも心配も消えた。こいつも陸上部で、朝練が有るはずなのに遅刻している。
こいつ─佐々木 誠─は、陰キャでゲーマーでアニヲタだけど、足はそこそこ速いし、学力は学年トップ(月夜の次)。眼鏡系イケメンだから、顔はいい。でも性格はクズ。女子には優しいが、イタズラ好き。
まあ、そんな奴だけど、一緒にいると安心する。
「急げ間期!五分はセーフだ!」
「うん!」
──急いで下さい。ミラーナ様。
──マギアナが攻めて来ました。
次は、誠に兎の耳と鬼の角。ここ数日、そんなことが多くなって来た。一体、何なの?少し記憶の様な気もするが、そんな覚えはない。鳥肌立った。
部活は遅刻ってことで、顧問に二人で怒られた。
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