25歳の誕生日のプレゼントは場末の地下物件でした

シンリーベクトル

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深夜の閃き

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その夜、「彩」は閉店を迎えていた。
カウンターのグラスは片付けられ、照明は落ち着いた柔らかな灯りだけが残っている。
奥からは、まだ火の温もりを残す厨房の匂いが、かすかに漂っていた。

高橋はギターを膝に置き、静かに弦を鳴らす。
「……んー、やっぱ夜のこの響き、悪くないな。」

横で山城がスネアを軽く叩き、テンポを合わせる。
「ドラムセット持ってきたら、本気でスタジオになるんじゃねえか?」

二人はしばらく無言のまま音を重ねていた。
ギターのアルペジオとドラムのリズムが、空っぽの店内に心地よく響く。

やがて高橋が手を止め、ふと天井を見上げた。
「……なあ、思ったんだけどさ。」

山城がスティックを回しながら目を細める。
「なんだよ。」

「この店、真ん中に防音シャッター付けたらどうだ?
営業中は居酒屋。でも閉店後はシャッターを下ろして、スタジオに切り替えるんだ。」

山城は一瞬黙り、ニヤリと笑う。
「お前、マジで言ってんのか?」

「マジだよ。」高橋はギターを抱え直し、真剣な目を向ける。
「弾き語りや配信やりたい奴らは、練習場所に困ってる。
しかもここは地下だろ? 立地的にも最高だ。
“居酒屋兼スタジオ”なんて、他にねえだろ。」

山城はスティックでテーブルを軽く叩き、リズムを刻みながら頷いた。
「……確かに。俺らにとっては練習の場。
“彩”にとっては新しい収益源。
音と酒が両方ある店――悪くねえな。」

二人は笑い合い、再びセッションを始めた。
深夜の「彩」に響く音は、ただの遊びではなかった。
それは次の進化を告げる、未来へのリズムだった。



翌日。
テーブルの上にはノートPCと、びっしり書き込みの入ったノートが広げられていた。
高橋と山城は、昨夜の勢いそのままに熱弁を繰り返す。

「だからさ、シャッターを閉めてスタジオにすれば……!」
「バンドマンも弾き語りも、夜中の練習場所に困ってるんだ!」

白鳥が腕を組み、呆れ顔を見せる。
「お前ら……夢はあるけど、現実的に回るのか?」

そこで涼子がPCをこちらに回し、冷静に数字を示した。



朝比奈涼子の説明

「まず、完全なバンド用スタジオにするのは不可能。
工事費も消防基準も、現実的じゃない。
でも――“簡易防音の弾き語り・配信ブース”なら実現できる。」

彼女はグラフを表示しながら続けた。
「例えば、深夜帯(23時~翌朝5時)を一枠2,000円で貸し出す。
週5日稼働すれば、ひと月で約16万円。
さらに昼間のアイドルタイム(14時~17時)には配信用ブースとして、1時間1,500円で貸し出せる。
これで月に10万円は追加できるわ。

飲食の売り上げに加えて、この“副収入”が“彩”を安定させるの。」



仲間たちの反応

西村が目を輝かせる。
「なるほど……アコギや配信なら、防音シャッターと簡易工事で十分ね。」

山城はスティックを握ったまま、にやりと笑う。
「……つまり、俺らの深夜練習も“売上”に変わるってことか。」

高橋がガッツポーズを取る。
「最高じゃん! 音楽と理論、両立できる!」

白鳥は苦笑しながらも、画面を見つめてうなずいた。
「……数字が立つなら、話は別だな。」

涼子はPCを閉じ、満足げに言葉を添えた。
「“彩”は、居酒屋・研修スペース・スタジオ兼配信ブース――三毛作で動かす。
どれかが不調でも、他が支える仕組みにする。
これが現実的な“生き残り方”よ。」

武田がグラスを掲げ、低く笑う。
「……25歳にしては上出来だな。俺が資金を動かしたくなるくらいだ。」

笑い声と拍手が広がり、地下の「彩」はさらに強固な未来図を描き始めていた。



昼下がりの「彩」。
昨夜の賑わいは消え、店内は落ち着いた空気に包まれていた。
各テーブルではノートPCを広げた利用者が静かに作業をしている。
カウンターでは西村がLANケーブルを整え、電源をチェックしていた。

ドアが開き、若い女性が小さな三脚とマイクを抱えて入ってきた。
「すみません……ここ、コワーキング利用で予約してた者です。」

涼子がすぐに立ち上がり、にこやかに迎える。
「どうぞ。こちらのお席を自由にお使いください。
もし配信をされるなら、奥の簡易防音ブースをおすすめしますよ。」

女性は少し驚いたように目を丸くした。
「配信……対応してるんですか?」



配信ブースの利用

案内された奥のスペースには、防音パネルと小さな照明、背景用のスクリーンが設置されていた。
女性は思わず笑みをこぼす。
「すごい……カフェでもコワーキングでも、こんな環境はなかなかないのに。」

高橋がギターを片付けながら横から顔を出す。
「歌配信もできるぜ? 俺らも昨日ここで試したばっかだ。」

女性は頷き、機材をセットすると、数分後には軽快な声がブースから流れ始めた。
「こんにちは、今日も配信始めます!」



彩メンバーの反応

山城が腕を組みながら厨房から覗き込む。
「……本当に需要あるんだな。」

西村は満足げに微笑む。
「昼はコワーキング、夜は居酒屋、深夜はスタジオ。
利用者層が違うから、互いに干渉しない。
“三毛作”がこうして回ってるってわけね。」

白鳥は水を注ぎながら、小さく笑った。
「……25歳の俺たちにしては、上出来だな。
夢物語じゃなく、ちゃんと現実に回り始めてる。」

涼子は胸を張り、静かに言葉を重ねた。
「“彩”は、居場所を三つの形で提供する。
働く場所、憩う場所、表現する場所。
それが重なるからこそ、この店は生き残れるの。」

昼の光が差し込み、ブースから響く配信の声が店内に広がっていた。
夜とは違う顔を見せる「彩」が、未来への確かな一歩を刻んでいた。

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