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8.カミル③

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 もうそういう雰囲気はどこかに消えてしまっていたし、あと数時間で空が白み始める。断りたいのが正直な気持ちだったが、捨て犬のような目で縋られて断ることなどできようか。客の希望に応えるのがこの仕事なのだ。
 俺が小さく頷くと、すぐにカミルの唇が降りてきた。労わるように優しく触れるだけだった唇は段々と深くなり、次第に貪るようなものに変わっていった。口の中に溢れる唾液に舌を引くも追いかけて絡め取られる。注ぎ込まれる唾液を飲み込めば、嬉しさを伝えるようにまた舌が荒々しく求められる。

「ンッ……はっ……ぁ」

 おかしいな、優しくするって言ってたはずなのにな……?
 僅かに芽生えた俺の疑心は、その後確信に変わった。


「ぁんっ、あっ、あっ……やっ、カミ……優しくって、言ったぁ……の、アッ」

 激しく打ち付けられて、言葉も充分に紡げない。汗を滴らせながら俺の腰を掴むカミルは、前髪を荒々しく掻き上げ

「すまない、っ……止まれない。ハルト、可愛い、ハルト……」

 そう譫言のように呟いていた。その間も律動は止む事なく、中に何度も出されたせいで肌のぶつかる音と共に溢れる水音がばちゅん、ばちゅんと響いている。
 俺自身も激しく擦られ、敏感な先端をほじくられ、何度もイかされている。それと同じくらい、カミルも俺の中に出している。五回目を超えた辺りからもう数が分からなくなってきた。カミルの恐ろしい所は、これだけの回数達しているけれど別に早漏じゃないってことだ。つまり、緩急もなくずっと凶暴なまでの荒々しさのまま、俺は激しく犯され続けている。こんなにもガツガツとしたセックスは初めてで、酸欠で頭がくらくらとしてくる。

 カミルは俺の片足を肩に担いだ。上背のあるカミルの肩に乗せると足は大きく開かされ、自然と俺の尻はベッドから浮く。そこへ容赦なくカミルの体に見合った大きさのものが突き入れられるのだ。これまでにないほど奥へ深く穿たれ俺は大きく背を反らせた。

「アァッ! これ、だめっ……ン、あぁっ」

 逃げを打つのを決して許さない逞しい腕は、変わらずに強く俺の腰を掴んでいる。カミルの律動は俺がどんなに懇願しても止まらない。カミルの熱く猛ったペニスが乱暴なほどの力強さで奥を何度も叩き付ける内にその先端が、ぐり、と奥の閉ざされた場所をこじ開けていく。

「あっあっ、やっ、カミル、なんか……そこはッ」

 情欲に溺れつつも溢れるほどの愛情を伝えてくるカミルの瞳は、余裕のない表情を浮かべながら微かに細められた。

「……ここ?」

 カミルは激しい抽送を繰り返しながら、俺が駄目だと言った所を狙う。片方の手では、俺の立ち上がるもほとんど出し尽くしてしまった陰茎をまた握り刺激を与えてきた。ただでさえ初めての感覚に混乱している所へ新たな快感が加わって、びくんと体を震わせた。その瞬間、カミルの先が、ぐぽり、と入ってはいけない所へ入り込んだ。

「ああぁァッ……!?」

 目の前がちかちかと明滅するようだった。俺は叫んで、体を強張らせ小刻みに痙攣した。もう何も出ないと思っていたペニスからは、射精というには勢いが足りない、だらだらと涙を零すような精液が溢れる。しかし、得られた快感は射精時のそれで、いやむしろその数倍も強い快感がずっと長く続いている。
 快感の高波にさらわれたままの俺を、しかしやはりカミルは待ってはくれない。動きを止めることなく更に追い立てる。

「ンッ……ま、待っ、俺、イって……イってる、からぁっ、んっアッぁ、」

 イキながら揺さぶられ続けて、俺は全身をびくんびくんと震わせるしかない。みっともなく涎を垂らす俺にカミルが口付ける。
 片足を上げた状態のまま強く抱きしめられて、ぐぽりぐぽりと穿たれて、絶頂の浮遊感と相まって世界がぐるぐると回るようだ。

「ハルト……ハルト……っ」
「あっぁ……ぅ、あッ……んっ、アァッ」

 眉間に皺を寄せ、カミルはまた俺の中に精を放った。もう何度目か分からないのに、その勢いはびゅーびゅーと衰える事を知らない。
 俺の中のカミルは射精後も少しも萎えず、吐き出しきるとまたすぐに激しく動き出した。今度はうつ伏せにされて腰を高く掲げられる。

「アッ……も……ほんと、も、無理っ……ぁっ、だからぁっ」

 額をシーツに押し付けたまま、後ろからガクガクと揺さぶられる。生理的な涙を流しながら振り返り何度目かの懇願をする俺に、カミルはまたあの夢見るような笑顔で応え、けれど決して動きを止める事はなかった。

 こうして俺はすっかり朝日が昇った頃にとうとう意識を手放した。次に目が覚めた時には夕方で、意図せず凱旋パレードを見逃したのだった。
 本当は、カミルが出るなら、パレードを見たいなと思っていたのに……。
 俺の体は限界を超えており、その後二日はベッドと仲良しになった。フランツも大概絶倫だと思ったけれど、カミルのそれはもう獣レベルだ。この世界の基準はおかしいと思う。俺は本当に男娼としてやっていけるだろうかと、一抹の不安を覚えた。

 ちなみに、無事近衛騎士を任ぜられたカミルは俺の常連客となり、毎度毎度抱き潰されるので今では娼館の主人によってカミルの予約の後三日はスケジュールを空けさせられている。
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