愛を求めて転生したら総嫌われの世界でした

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第二章 失って得たもの

2-8 モブ冒険者視点1

 その日の獲物である狼と猪が混ざったような魔物。その首を落とすと、魔物の姿は灰のように毀れて地面に触れた瞬間に消えた。俺は一つ息を吐く。
 城下町にもほど近い森。そこに最近現れては近隣農民を脅かしている魔物を討伐せよ、との依頼だった。それほど難しい依頼ではなかったが、俺が引き受けて正解だった。まさか魔物が魔術を扱えるとは思わなかった。四つ足の魔物は知能が低く、ただ噛み付いたり引っ掻いたりするだけだから、討伐も害獣退治とさほど違いはないと一般的に言われている。しかし、今日の魔物は力は弱いものの魔術を放ってきた。俺の強力な風の加護の力で薙ぎ払ってやったが、並の冒険者ではうっかり致命傷を負っていたかもしれない。本当に俺が引き受けて良かった。この、冒険者Bランクの俺様がな!

 冒険者Bランクである俺の朝は早い。日の出前に家を出て、剣術と加護の力の鍛錬を欠かさない。俺の大剣捌きは大木すら一刀両断するほどで、加護である風の力は山の木を全て丸裸にできる。まぁ、どちらも実際にやったことはないが。俺が本気を出せばできるはずだ、多分。それくらい俺は強い。Bランクとはそういう存在なのだ。
 そうして軽く汗を流した後にギルドに行き、俺が引き受けるべき依頼を探す。俺はBランクだから選り好みせず、余っている物を選ぶ。下位ランクの奴らに好きな依頼を選ばせてやるのも、上位ランク者の務めだろう。この日は魔物退治と要人警護の依頼が残っており、俺は魔物退治の依頼札を手に取った。しかしよくよく見れば討伐対象は小型の草食魔物ながらも数が多いらしく、近くには人間を襲う大型魔物の巣もあるとの注意書きを見て、俺は要人警護の依頼札と取り替えて受付に持って行った。Bランクであれば魔物の数が多かろうと大型魔物だろうと赤子の手を捻るような物だ。しかし、魔物退治は時に特殊なアイテムがドロップすることがある。冒険者の中には金銭に困っている者も多いから、そいつらに譲ってやったのだ。決して大型魔物が怖かったわけではない。断じてない。

 警護の依頼主である要人は口を開けば嫌味ばかりの鼻持ちならない金持ちで、一日中面白くもない話に付き合わなければならなかったが、これも仕事の内だと割り切って護衛に専念した。すると、依頼主から少し色を付けて報酬が支払われたので、俺はそれを握って早速目当ての場所へ向かった。

「あ、いらっしゃい。今日は早いですね」

 そう言って笑顔で迎えてくれる、俺の天使。名前をアンリと言う。
 俺はこの笑顔の為に働いていると言っても過言ではない。
 最初こそ顔を隠した陰気な奴だと思ったものだが、細かなことに良く気が利いて働き者だし、ちょこちょこと甲斐甲斐しく動き回る姿は小動物のようで可愛らしい。それでいて大男に恫喝されても凛として言い返す芯の強さを持っているのが堪らない。隠された素顔は、フードの奥を覗き込めば小ぶりの鼻と口、それに対して溢れんばかりの大きな目が印象的で、まるで深窓のご令嬢のような可憐な顔立ちだ。暗くて良く見えないからこそ、一体何色の瞳なのだろうと想像を掻き立てられる。その大きな瞳を細めて俺達荒くれ者の冒険者達に惜しげもなく笑顔を振りまいてくれるアンリは、まさに場末の酒場に降り立った天使だった。
 以前は子どもらしい可愛さばかりが目立ったが、最近はぐっと大人びてきて少年と青年の中間のような危うい魅力を放ち始めた。健気ながらもどこか影があり、儚くも妖しい色香は大変にエロ……失礼、美しいのである。

「今日はお泊まりですか? ベッド空いてますよ」

 それなら泊まらせてもらおう。そして夜が更けたら俺のベッドに遊びにおいで、子猫ちゃん。

 ……と、片目を瞑って言うつもりが、俺の口から出たのは

「お、おう!」

 だけだった。片目を瞑るどころかぎこちなく頷くのが精一杯という体たらく。
 仕方がないのだ。アンリのあの花笑むような顔を見ると、胸が一杯になって言葉など跡形もなく消えてしまう。俺たち無骨な冒険者は穢れなき存在に耐性がないのだ。
 今日こそはアンリに想いを伝えるつもりでいたのだが、なんとも幸先が悪い。しかし、ありがとうと微笑むアンリを見ればそんな落胆も吹き飛ぶようだった。
 本当に清らかで美しい子だ。早くしないと誰かに取られるのも時間の問題だ。
 実際、この酒場の利用客のほとんどがアンリ目当てではないかと俺は思っている。あっちに座っている髭もじゃの男も、こっちに座っているヒョロ男も、斜め向かいの爺さんまで、皆だらしなく顔を緩めてアンリをずっと目で追っている。周りは全員敵だと思った方がいい。

「……おい、見ただろ今の笑顔。俺に気がある証拠だな」
「ばか言え、ありゃ俺に気があるんだ」

 隣の席の冒険者らしき男達がそう囁き合っている。
 馬鹿め。アンリは誰に対しても優しく微笑むんだ。お前らのような冒険者ランクも低そうな奴に気がある訳がないだろう、身の程を知れ!
 俺は苛々として落ち着かなかったが、並々と酒の注がれたジョッキが机にコトリと置かれ

「おまちどうさま。この頃寒いですね。昨日は酒場にも来なかったから、風邪引いちゃったかなって心配してました」

 元気で良かった、と少し眉を寄せ微笑まれて、俺の下らない苛立ちなど霧散した。そして心臓にトスリと運命の矢が刺さる音がした。
 これは、俺に気があるに違いない。
 俺の身を案じ、姿が見えないことを寂しがっていたなんて、俺に惚れている以外にありえない。愛の告白を受けたと言っても過言ではない!
 アンリが俺に想いを寄せているのなら、すぐに応えるまでだ。その手を取って、俺も想いを打ち明けようとしたのだが、アンリを呼ぶ声が掛かり、くるりと背を向けて離れて行ってしまった。
 確かに今は酒場が一番混む時間帯だ。あちこちから声が掛かって忙しそうなので、少し落ち着くまで待つことにする。
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