愛を求めて転生したら総嫌われの世界でした

文字の大きさ
39 / 93
第二章 失って得たもの

2-15

しおりを挟む
「あっ!」

 僕は思わず声を漏らした。眼前の鳥には見覚えがあった。まだ孤児院にいた頃、街中で迷子になってしまった僕を助けてくれた火の精霊だ。あの頃は鳩くらいの大きさだったが、今は一回り大きくなって彼の肩に止まるのもやっとといった具合だ。精霊は力の強弱に関わらずどれも手の平サイズが普通だから、以前のサイズでも大きな方だったのに、今では他に類を見ない大きさになっている。丸みを帯びていた体は引き締まり、尖った瞳と鋭い曲線の嘴を持った見事な猛禽に成長している。だが人懐っこいのは変わらないようで、構ってほしそうに僕の髪を嘴で引っ張って首を傾げた。
 この精霊の持ち主ということは、と横に視線を滑らせた時、彼がローブのフードを落とした。
 火の精霊の纏う仄かな明かりで浮かび上がったのは、真っ赤な長い髪を高い位置で一つに結び、同じくらい赤い目でこちらを見つめる整った顔立ちの青年だった。火の精霊が連れて来た、近衛騎士の青年。あの頃は髪も短く、こんなに背も高くなかった。

「あの時の……」
「思い出してくれて嬉しいよ。私はクリストフ・ド・シュヴァリエ。近衛騎士をしている」

 優雅に微笑み胸に手を当てる姿はまさしく貴族の騎士のそれで、僕は彼、クリストフの美しい立ち姿に魅入ってしまった。はっと我に返って慌てて頭を下げる。

「……あっ、その節は大変お世話になりました」

 するとクリストフは口元に拳を当てて、笑いを堪えているようだった。確かに今この場でいう言葉ではなかったような気もしてきて、僕は急に恥ずかしくなった。けれど、おかげで先程までの張り詰めた空気が和らいだようだった。

「いや、いいんだ。私の方こそ素性を隠していてすまない。少し事情があってね。けれどこれで分かっただろう、私が君の秘密を暴くつもりがないことを」

 以前道案内をして貰った道中で、既にクリストフに僕の黒髪黒目は見られている。彼の言う通り、僕が忌人だと誰かに告げるつもりがあるのなら、酒場で初めて会った時に見咎められているはずだ。
 しかし、僕は一層困惑した。以前に髪と目を見られた時もそうだ。クリストフは驚きながらも忌人である僕に態度を変えなかった。どうして僕のこの見た目に何も言わないのだろう。

「あの……気持ち悪くないんですか?」

 疑問がそのまま声に出ていた。クリストフは僕の純粋な疑問を受けて、驚いたよう目を大きくした後、僅かに眉間に皺を寄せた。

「自分のことをそんな風に言うものではないよ。……とは言え、君がそう考えてしまうのも無理はないのかもしれないね。君にはさぞ生き辛い世の中だろう。素直に告白すれば、私も君に出会うまでは黒の忌人の存在を快くは思っていなかった。実在を信じてはいなかったけれどね」
「じゃあ、僕に出会ってびっくりしたでしょうね」

 禍々しい黒の忌人である僕と出会ってしまって、きっと嫌な思いをしたのだろう。僕はまるで他人事のように同情して、それから不快にさせて申し訳ないとまた頭を下げようとした。しかし、

「あぁ、驚いたよ。黒の忌人があまりに美しいのでね」

 クリストフはそう言って笑ったのだ。
 美しい、とは何の話だろうか。
 僕は首を傾げて瞬きを繰り返した。

「君の清廉な佇まいは私の知る黒の忌人とは異なっていた。艶やかな黒髪も蕩けそうな黒い瞳も、想像と全く違う、とても清らかなものだった。その時に知ったのだ、私の信じてきたものは正しいばかりではないのだと」

 もしかして、クリストフは僕のことを美しいと言っているのだろうか。
 目を見て語りかけられても、とても信じられずにいた。誰もが視界に入れただけで嫌悪感を露わにする僕の容姿だ。美しさとは対局に位置するはずだ。羞恥にも至らず、ただ違和感だけを感じて、僕は首を傾げたままだった。

「……けれど、今思えばあの時の君の美しさは、マルク・ド・カサールに恋をしていたからなのだろうね」

 またマルクの名前が出て、僕は表情を強張らせた。ひゅっと喉が締まったようだった。
 そうだった。クリストフと出会った時はまだマルクへの感情に名前がついていなかったけれど、僕はマルクに恋をしていた。そしてあの後マルクから愛を教えて貰ったのだ。今はもう、失われてしまった愛を。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

悪役令息の花図鑑

蓮条緋月
BL
公爵令息シュヴァリエ・アクナイトはある日、毒にあたり生死を彷徨い、唐突に前世を思い出す。自分がゲームの悪役令息に生まれ変わったことに気づいたシュヴァリエは思った。 「公爵家の力を使えば世界中の花を集めて押し花が作れる!」  押し花作りが中毒レベルで趣味だったシュヴァリエはゲームのストーリーなどお構いなしに好き勝手動くことに決め行動が一変。その変化に周囲がドン引きする中、学園で奇妙な事件が発生!現場に一輪の花が置かれていたことを知ったシュヴァリエはこれがゲームのストーリーであることを思い出す。花が関わっているという理由で事件を追うことにしたシュヴァリエは、ゲームの登場人物であり主人公の右腕となる隣国の留学生アウル・オルニスと行動を共にするのだが……? ※☆はR描写になります ※他サイトにて重複掲載あり  

片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

悪役令息に憑依したリーマン。ゲームの中か知らないがそこは全く知らない世界だったので、どうしようもないからとりあえず推しを愛でようと思う

ペンタブー
BL
社畜リーマンが死んで悪役令息に憑依するけど、色々頑張って幸せを掴まさせて頂こうとする話

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

処理中です...