愛を求めて転生したら総嫌われの世界でした

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第二章 失って得たもの

2-43 ※

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「辛いかい?」

 僕を労る理性と、獰猛な欲望がせめぎ合っているのだろう。揺らいだ瞳でクリストフがまた僕の顔を覗き込む。優しいクリストフ。どんな時にも紳士たる振る舞いを忘れない。
 そのことに、とうとう僕は嬉しさよりももどかしさが勝ってしまった。

 捉えきれないほどの感覚に頭がくらくらとしながらも、僕はクリストフの与えてくれるものをもっともっとと求めている。クリストフの全てに触れたいと思っている。
 全てを投げ打って、クリストフが授けるこの快楽の渦に飛び込もうとしているのに、クリストフはどこまでも冷静であることが、もどかしくて歯痒い。もっと貪欲に僕を求めてほしい。もっと、なりふり構わずに僕を。

 あぁ本当に愛とは恐ろしいものだ。これほど我儘で傲慢な欲を抱いてしまうのだから。

「私の劣情が、儚い君を傷付けてしまうようで恐ろしいんだ」

 重ねてそんなことを言う、クリストフの強靭な精神力が今は恨めしい。 
 僕はクリストフの背中に回した腕に力を込めて、首を振って言った。

「僕はもっとクリストフがほしいよ。一緒に、気持ちよくなりたい」

 首を伸ばして口付ける。たどたどしく舌を出してクリストフのそれに擦り付けた。
 クリストフは少しの間呆然として、それからキスに応えてくれた。すぐに逆に貪るように舌を食まれ、息継ぎに顔を離した時には、クリストフの瞳に迷いの揺らぎは既に見当たらなかった。真っ赤な野獣の情欲だけが、僕を食らい尽くすように燃えていた。僕の体の内側は、それに歓喜し、快感を覚えて震えた。

 僕を掴むクリストフの指が腰に食い込んだのと同時に、再び奥を勢いよく穿たれた。
 そこからはまるで嵐のようだった。

「あ、あ、ぁっ、あんっ、は、あぁっ」

 間段なく荒々しく奥を突かれ、その度に僕の吐息と声が漏れてしまう。花火とも雷鳴ともつかない閃光が辺り構わず降ってくるような、鮮烈で狂暴な快楽の嵐に僕はすっかり振り回されていた。こんなにも激しくて、こんなにも気持ちいいものを、僕は知らない。
 腰に食い込む力強い指も、苦し気に息を詰め、僕を見下ろす余裕のない顔も。そして深い所で繋がってお互いを貪欲に求め合う、えも言われぬ幸福も、全てが気持ちよくて堪らなかった。

「あんっ、クリストフっ、んっ、あ、あっ」

 激しく打ち付けられるクリストフの熱。揺れる視界。それに呼応して響く肌のぶつかり合う音と濡れた水音。
 快楽を更にどろどろになるまで煮詰めたような強烈な感覚に次々に襲われ、僕はすっかり酩酊状態だった。
 耳元でクリストフの名前を呼ぶと、熱っぽい声で「クリス、と」と言うので、僕は

「クリスっ、クリス好き、あ、あぁっ、すき、クリスぅ」

 と、その単語しか知らないかのように、何度も名を呼んだ。
 頭に浮かんだ言葉がそのまま口から溢れていく。
 愛称で呼べることが嬉しかったのもあるけれど、それ以上に、誰に遠慮することもなく愛する人の名を好きなだけ口にし、想いを伝えられることが嬉しかった。その名を呼ぶ度に、幸せで切なくなって、きゅうきゅうと中にあるクリストフを締め付けてしまう。
 クリストフが小さく呻き、抽送は更に激しくなった。
 力強く奥を穿たれ、何度も快感の一点を攻められている内に、クリストフの触れる場所全てが敏感に反応するようになってしまっていた。中にある最も熱い所は勿論、触れ合う体の箇所一つ一つ、クリストフの吐息がかかる肌までが、痺れるような快感を拾い上げた。
 腰の辺りにぞくぞくと何かが這い上って来る。僕はもうこれを知っている。精を放つ前のあの高波だ。

「ひ、あ、あぁっ、クリス……また、またきちゃうぅ、あ、あっあぁ」

 助けを求めるように、クリストフの背中に回した腕に力を込める。
 暴力的なまでの快楽がすぐそこまで迫っている。身構えるように、それでいて期待するように僕の体が一気に熱くなる。このままクリストフと一緒に溶けてしまいたいと思うほどの灼熱だ。
 クリストフが息を短く吐き、

「……あぁ、私もだ」

 と言って、すっかり立ち上がり雫を溢れさせていた僕の陰茎を握り込んだ。灼熱の快楽のうねりの中で、突然はっきりと直接的な刺激を与えられて、一気に意識が高い所に連れて行かれる。快楽の痺れが、一際高く、長く鳴り響いた。身体の芯がぎゅう、と収縮する。

「ん、あ……あぁっ、っ、あぁぁ――!」

 そして僕が精を再び吐き出した瞬間、僕の中にもクリストフの熱い迸りを感じ取った。

 いつまでも引かない快楽の余韻の中で、僕を満たしていたのは紛れもない多幸感だった。
 自分が自分じゃなくなるほどの凶暴な快楽。怖くて堪らないけれど、愛する人と繋がって、共に飲み込まれるのなら、それを幸福と言わずなんと言うのだろう。
 これは愛そのものの行為だ。

 こうして僕は、愛というものの奥深さをまた一つ知ったのだった。
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