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第二章 失って得たもの
2-45
深夜の騎士団招集の鐘は、冒険者達の大きな関心を集めたらしく、宿屋も酒場もその話題で持ちきりだった。朝の内は様々な憶測が飛んでいたが、一通りの情報を集め終えた者達が夕方に酒を酌み交わす頃には、大体の概要が分かるようになっていた。
どうも王都付近に魔物の目撃情報があったらしい。中には騎馬の騎士の一団が城下門からひっそりと出て行くのを見たという者もおり、騎馬ならば距離はあるのだろうが相当凶悪な魔物が現れたのではないかとの話だった。結局その魔物は見つからなかったそうだが、王城内は今も落ち着かない様子だそうだ。
話の詳細が入ってくる度に、僕の胸は騒いで仕方がなかった。
クリストフは大丈夫だろうか。
戦闘はなかったようだから怪我はしていないだろうが、対魔物であれば最前線に立たされるのはクリストフ以外にいないだろう。クリストフは昨夜から寝ていない。これほど緊迫した任務に当たって、心身ともに疲労困憊していることだろう。僕は少なからず責任も感じていた。
その上、酒場にやって来た予想外の人物達によって、僕の心配は更に加速していた。
しばらく顔を見せていなかった怪しい静かな集団の一員が、再び来訪したのだ。たった二人ではあるが、他の仲間が段々と来なくなっても最後までしぶとく通って来ていた二人だった。始終俯けているその表情が、仲間といる時も際立ってひりひりと焦燥に駆られているようで、今にも何かしでかしそうで恐ろしく、僕もよく覚えていた。
二人は彼らがよく座る酒場の一番端、とりわけ薄暗い席に着くと飲みもしない酒を頼み、ぼそぼそと何か会話をしている。魔物の目撃情報が出たその日に彼らが現れるとは、やはり何か関係があるのではないだろうか。僕は気が気ではなく、クリストフの安否ばかり考えていた。クリストフは夜にまた来ると言っていたが、そのことが彼を更なる危険に追い込むことになりはしないかと落ち着かない。
随分夜も更け、来店客も次第に減ってくる。以前のクリストフがよく来訪していた時間帯だ。酒場のドアが開く音がして、僕は勢い振り返った。しかし、そこにいたのは見慣れぬ客だった。足元まで隠れるローブは厚くしっかりとした生地ながら、裾は所々擦り切れている。目深に被ったフードからは無精髭を生やした顎先が覗いていた。
常連客が多いこの店では、一見の客が、しかも一人でやって来ること自体とても珍しいが、彼の纏う空気は陽気な酒場の中でそこだけ重苦しく異質で目立っていた。
声を掛けることを思わず躊躇ってしまった僕が慌てて近付いたが、それには目もくれず、客は酒場の中にぐるりと視線を巡らせた。そして、例の二人組を見つけると迷うことなくそこへ一直線に向かう。音もなく彼らの隣の席に座ると、二人組は酷く驚いた顔で慌てていた。
彼らの仲間の一人だったらしいその客は、しばらくは三人で声を潜めて話し合っていた。ところが、何事か揉めているようで、いつになく無用心に大きくなっていく声は、少し耳を立てればその内容を聞き取ることができた。
「――でも、このまま引き下がることなんてできません! 魔物の出没でこの店への警備は手薄になっている。やるなら今日だ!」
「そうだ、折角ここまで来たんだ。俺達二人、この命を賭してでも!」
「……一時撤退するだけだ。命を無駄にするな」
どうやら後から来た客は、先の二人よりも立場が上で、彼らを説得に来たようだった。仲間割れというほど険悪ではないが、お互いの意見は平行線らしく、とりわけ二人組の方が興奮している様子が見て取れた。
どうも王都付近に魔物の目撃情報があったらしい。中には騎馬の騎士の一団が城下門からひっそりと出て行くのを見たという者もおり、騎馬ならば距離はあるのだろうが相当凶悪な魔物が現れたのではないかとの話だった。結局その魔物は見つからなかったそうだが、王城内は今も落ち着かない様子だそうだ。
話の詳細が入ってくる度に、僕の胸は騒いで仕方がなかった。
クリストフは大丈夫だろうか。
戦闘はなかったようだから怪我はしていないだろうが、対魔物であれば最前線に立たされるのはクリストフ以外にいないだろう。クリストフは昨夜から寝ていない。これほど緊迫した任務に当たって、心身ともに疲労困憊していることだろう。僕は少なからず責任も感じていた。
その上、酒場にやって来た予想外の人物達によって、僕の心配は更に加速していた。
しばらく顔を見せていなかった怪しい静かな集団の一員が、再び来訪したのだ。たった二人ではあるが、他の仲間が段々と来なくなっても最後までしぶとく通って来ていた二人だった。始終俯けているその表情が、仲間といる時も際立ってひりひりと焦燥に駆られているようで、今にも何かしでかしそうで恐ろしく、僕もよく覚えていた。
二人は彼らがよく座る酒場の一番端、とりわけ薄暗い席に着くと飲みもしない酒を頼み、ぼそぼそと何か会話をしている。魔物の目撃情報が出たその日に彼らが現れるとは、やはり何か関係があるのではないだろうか。僕は気が気ではなく、クリストフの安否ばかり考えていた。クリストフは夜にまた来ると言っていたが、そのことが彼を更なる危険に追い込むことになりはしないかと落ち着かない。
随分夜も更け、来店客も次第に減ってくる。以前のクリストフがよく来訪していた時間帯だ。酒場のドアが開く音がして、僕は勢い振り返った。しかし、そこにいたのは見慣れぬ客だった。足元まで隠れるローブは厚くしっかりとした生地ながら、裾は所々擦り切れている。目深に被ったフードからは無精髭を生やした顎先が覗いていた。
常連客が多いこの店では、一見の客が、しかも一人でやって来ること自体とても珍しいが、彼の纏う空気は陽気な酒場の中でそこだけ重苦しく異質で目立っていた。
声を掛けることを思わず躊躇ってしまった僕が慌てて近付いたが、それには目もくれず、客は酒場の中にぐるりと視線を巡らせた。そして、例の二人組を見つけると迷うことなくそこへ一直線に向かう。音もなく彼らの隣の席に座ると、二人組は酷く驚いた顔で慌てていた。
彼らの仲間の一人だったらしいその客は、しばらくは三人で声を潜めて話し合っていた。ところが、何事か揉めているようで、いつになく無用心に大きくなっていく声は、少し耳を立てればその内容を聞き取ることができた。
「――でも、このまま引き下がることなんてできません! 魔物の出没でこの店への警備は手薄になっている。やるなら今日だ!」
「そうだ、折角ここまで来たんだ。俺達二人、この命を賭してでも!」
「……一時撤退するだけだ。命を無駄にするな」
どうやら後から来た客は、先の二人よりも立場が上で、彼らを説得に来たようだった。仲間割れというほど険悪ではないが、お互いの意見は平行線らしく、とりわけ二人組の方が興奮している様子が見て取れた。
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