70 / 93
第二章 失って得たもの
2-46
あまり深入りするのは良くないと思っていても、会話に含まれる単語がどれも不穏なものばかりで、僕の注意はそちらに向いてしまう。
「お前達は既に近衛騎士団に面が割れてる。ここも危険だ。すぐに出るぞ」
そう言って三人目の客は立ち上がり二人の肩を叩くが、叩かれた方は顔を俯けたまま首を振って動かない。
「今日を逃したらもうこんな機会はないかもしれない。大勢の人間の加護の力を一度に変化させる方法が……俺達がずっと探し求めていたものが、目の前にあるんです。それを奪い取るまでは!」
「……だが、まだ確たる証拠はないんだろ?」
「それはそうですが。でも、今日ならば王都の門番の注意は外へしか向いていない。拐かして王都を抜け出す好機は今日しかありません。攫った後に拷問でもして、本人に真実を吐かせればいい。勘違いだったら殺せばいいだけです」
急に声を落として早口にそう言うと、二人組が剣呑な眼差しでひたりと僕に視線を向けた。
僕は盗み聞きしていたのが悟られぬよう、目が合う前に慌てて顔を背け、何も聞こえていない振りをした。あまりにもわざとらしくなってしまい内心ヒヤヒヤとしていたが、偶然にも背けた方の客からちょうど声が掛かり、そちらへすぐに向かったので怪しまれた気配はなかった。
しかし、呼ばれた客の用事を済ませほっと息を吐いた後、事の重大さに気付いて背筋を冷たいものが流れる。
あの人達は、さっき何と言っていた?
クリストフに以前聞いた話では、彼らは加護の力を操る方法を知っているのではとのことだった。しかし会話から察するに、おそらく正しくは、加護の力を操る方法を“探して”いたのだ。そして、やっと求めていたものを見つけ出し、奪い取ろうと隙を窺っている所だったのだ。
視線の動きが物語る。彼らがこの店に集まっていた目的は、僕だ。
僕が加護の力の変化に関与していると、一体いつ気付かれたのだろう。考えてみれば、店の客全員に変化があったと言うのなら、真っ先に疑われるのは常に店にいる僕だろう。ずっと僕を監視していたのかもしれない。もしくは、彼らが言っていたように間違っていたら殺せばいいのだから、疑わしい者から拐かす予定だったのか。
いずれにせよ、僕があまりにも迂闊過ぎたのだ。クリストフから何度も彼らの動向に注意するよう言われていたのに、自分のことまでは考えていなかった。
僕は逃げる術も身を守る術も持っていない。僕が彼らに捕まってしまったら、加護の力に作用できるこの自分でもよく分からない能力をきっと悪用されてしまうだろう。
能力を思い出したあの時に、すぐにクリストフに相談しておくべきだった。そうすれば、内情に詳しいクリストフは彼らの狙いが僕だと気付いて、それを逆手にとって彼らを追い込むことだってできたかもしれない。国家を狙う恐ろしい企みも、一網打尽にできたかもしれないのだ。
僕は計り知れない後悔で、カウンターに手をついて背を丸めていた。流石に、少なくなったとはいえこれだけの客がいる中で、僕に何かしようとはしないはずだ。けれど、もし三人が口論の末激昂して、破れかぶれの強行手段をとろうとしたら。被害は僕だけじゃ済まない。彼らは危険思想を持った連中だ。果たして巻き込まれる客達はただの怪我で済むだろうか。そんな万が一の最悪の想像をして、体が冷えていく。
見慣れたはずの酒場の風景が途端に恐ろしく思えてきて、僕はカウンターを見つめたまま振り向くことができなかった。あの三人組が武器を手に、他の客を傷つけながら今にも僕へ襲い掛かってくる気がしてしまう。脳裏に浮かぶ鮮明な映像に頭を振った。
その時、強張る僕の肩を誰かが乱暴に掴んだ。
「お前達は既に近衛騎士団に面が割れてる。ここも危険だ。すぐに出るぞ」
そう言って三人目の客は立ち上がり二人の肩を叩くが、叩かれた方は顔を俯けたまま首を振って動かない。
「今日を逃したらもうこんな機会はないかもしれない。大勢の人間の加護の力を一度に変化させる方法が……俺達がずっと探し求めていたものが、目の前にあるんです。それを奪い取るまでは!」
「……だが、まだ確たる証拠はないんだろ?」
「それはそうですが。でも、今日ならば王都の門番の注意は外へしか向いていない。拐かして王都を抜け出す好機は今日しかありません。攫った後に拷問でもして、本人に真実を吐かせればいい。勘違いだったら殺せばいいだけです」
急に声を落として早口にそう言うと、二人組が剣呑な眼差しでひたりと僕に視線を向けた。
僕は盗み聞きしていたのが悟られぬよう、目が合う前に慌てて顔を背け、何も聞こえていない振りをした。あまりにもわざとらしくなってしまい内心ヒヤヒヤとしていたが、偶然にも背けた方の客からちょうど声が掛かり、そちらへすぐに向かったので怪しまれた気配はなかった。
しかし、呼ばれた客の用事を済ませほっと息を吐いた後、事の重大さに気付いて背筋を冷たいものが流れる。
あの人達は、さっき何と言っていた?
クリストフに以前聞いた話では、彼らは加護の力を操る方法を知っているのではとのことだった。しかし会話から察するに、おそらく正しくは、加護の力を操る方法を“探して”いたのだ。そして、やっと求めていたものを見つけ出し、奪い取ろうと隙を窺っている所だったのだ。
視線の動きが物語る。彼らがこの店に集まっていた目的は、僕だ。
僕が加護の力の変化に関与していると、一体いつ気付かれたのだろう。考えてみれば、店の客全員に変化があったと言うのなら、真っ先に疑われるのは常に店にいる僕だろう。ずっと僕を監視していたのかもしれない。もしくは、彼らが言っていたように間違っていたら殺せばいいのだから、疑わしい者から拐かす予定だったのか。
いずれにせよ、僕があまりにも迂闊過ぎたのだ。クリストフから何度も彼らの動向に注意するよう言われていたのに、自分のことまでは考えていなかった。
僕は逃げる術も身を守る術も持っていない。僕が彼らに捕まってしまったら、加護の力に作用できるこの自分でもよく分からない能力をきっと悪用されてしまうだろう。
能力を思い出したあの時に、すぐにクリストフに相談しておくべきだった。そうすれば、内情に詳しいクリストフは彼らの狙いが僕だと気付いて、それを逆手にとって彼らを追い込むことだってできたかもしれない。国家を狙う恐ろしい企みも、一網打尽にできたかもしれないのだ。
僕は計り知れない後悔で、カウンターに手をついて背を丸めていた。流石に、少なくなったとはいえこれだけの客がいる中で、僕に何かしようとはしないはずだ。けれど、もし三人が口論の末激昂して、破れかぶれの強行手段をとろうとしたら。被害は僕だけじゃ済まない。彼らは危険思想を持った連中だ。果たして巻き込まれる客達はただの怪我で済むだろうか。そんな万が一の最悪の想像をして、体が冷えていく。
見慣れたはずの酒場の風景が途端に恐ろしく思えてきて、僕はカウンターを見つめたまま振り向くことができなかった。あの三人組が武器を手に、他の客を傷つけながら今にも僕へ襲い掛かってくる気がしてしまう。脳裏に浮かぶ鮮明な映像に頭を振った。
その時、強張る僕の肩を誰かが乱暴に掴んだ。
あなたにおすすめの小説
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
※第33話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
贖罪公爵長男とのんきな俺
侑希
BL
異世界転生したら子爵家に生まれたけれど自分以外一家全滅という惨事に見舞われたレオン。
貴族生活に恐れ慄いたレオンは自分を死んだことにして平民のリオとして生きることにした。
一方公爵家の長男であるフレドリックは当時流行っていた児童小説の影響で、公爵家に身を寄せていたレオンにひどい言葉をぶつけてしまう。その後すぐにレオンが死んだと知らされたフレドリックは、以降十年、ひたすらそのことを悔いて生活していた。
そして十年後、二人はフレドリックとリオとして再会することになる。
・フレドリック視点は重め、レオン及びリオ視点は軽め
・異世界転生がちょいちょい発生する世界。色々な世界の色々な時代からの転生者の影響で文明が若干ちぐはぐ。
・世界観ふんわり 細かいことは気にしないで読んでください。
・CP固定・ご都合主義・ハピエン
・他サイト掲載予定あり
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
【完結。一気読みできます!】悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!
はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。
本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる……
そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。
いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか?
そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。
……いや、違う!
そうじゃない!!
悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!!
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。