愛を求めて転生したら総嫌われの世界でした

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第二章 失って得たもの

2-46

 あまり深入りするのは良くないと思っていても、会話に含まれる単語がどれも不穏なものばかりで、僕の注意はそちらに向いてしまう。

「お前達は既に近衛騎士団に面が割れてる。ここも危険だ。すぐに出るぞ」

 そう言って三人目の客は立ち上がり二人の肩を叩くが、叩かれた方は顔を俯けたまま首を振って動かない。

「今日を逃したらもうこんな機会はないかもしれない。大勢の人間の加護の力を一度に変化させる方法が……俺達がずっと探し求めていたものが、目の前にあるんです。それを奪い取るまでは!」
「……だが、まだ確たる証拠はないんだろ?」
「それはそうですが。でも、今日ならば王都の門番の注意は外へしか向いていない。拐かして王都を抜け出す好機は今日しかありません。攫った後に拷問でもして、本人に真実を吐かせればいい。勘違いだったら殺せばいいだけです」

 急に声を落として早口にそう言うと、二人組が剣呑な眼差しでひたりと僕に視線を向けた。
 僕は盗み聞きしていたのが悟られぬよう、目が合う前に慌てて顔を背け、何も聞こえていない振りをした。あまりにもわざとらしくなってしまい内心ヒヤヒヤとしていたが、偶然にも背けた方の客からちょうど声が掛かり、そちらへすぐに向かったので怪しまれた気配はなかった。
 しかし、呼ばれた客の用事を済ませほっと息を吐いた後、事の重大さに気付いて背筋を冷たいものが流れる。
 あの人達は、さっき何と言っていた?

 クリストフに以前聞いた話では、彼らは加護の力を操る方法を知っているのではとのことだった。しかし会話から察するに、おそらく正しくは、加護の力を操る方法を“探して”いたのだ。そして、やっと求めていたものを見つけ出し、奪い取ろうと隙を窺っている所だったのだ。
 視線の動きが物語る。彼らがこの店に集まっていた目的は、僕だ。
 
 僕が加護の力の変化に関与していると、一体いつ気付かれたのだろう。考えてみれば、店の客全員に変化があったと言うのなら、真っ先に疑われるのは常に店にいる僕だろう。ずっと僕を監視していたのかもしれない。もしくは、彼らが言っていたように間違っていたら殺せばいいのだから、疑わしい者から拐かす予定だったのか。
 いずれにせよ、僕があまりにも迂闊過ぎたのだ。クリストフから何度も彼らの動向に注意するよう言われていたのに、自分のことまでは考えていなかった。
 僕は逃げる術も身を守る術も持っていない。僕が彼らに捕まってしまったら、加護の力に作用できるこの自分でもよく分からない能力をきっと悪用されてしまうだろう。
 能力を思い出したあの時に、すぐにクリストフに相談しておくべきだった。そうすれば、内情に詳しいクリストフは彼らの狙いが僕だと気付いて、それを逆手にとって彼らを追い込むことだってできたかもしれない。国家を狙う恐ろしい企みも、一網打尽にできたかもしれないのだ。

 僕は計り知れない後悔で、カウンターに手をついて背を丸めていた。流石に、少なくなったとはいえこれだけの客がいる中で、僕に何かしようとはしないはずだ。けれど、もし三人が口論の末激昂して、破れかぶれの強行手段をとろうとしたら。被害は僕だけじゃ済まない。彼らは危険思想を持った連中だ。果たして巻き込まれる客達はただの怪我で済むだろうか。そんな万が一の最悪の想像をして、体が冷えていく。

 見慣れたはずの酒場の風景が途端に恐ろしく思えてきて、僕はカウンターを見つめたまま振り向くことができなかった。あの三人組が武器を手に、他の客を傷つけながら今にも僕へ襲い掛かってくる気がしてしまう。脳裏に浮かぶ鮮明な映像に頭を振った。

 その時、強張る僕の肩を誰かが乱暴に掴んだ。
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