愛を求めて転生したら総嫌われの世界でした

文字の大きさ
72 / 93
第二章 失って得たもの

2-48

 心配ないなんて大嘘だ。勝ち目がないと言っていたじゃないか!
 僕がここに残っても足手まといになるだけだと分かっている。けれど、クリストフを死地に残して逃げ出すことを、僕はまだ決断できずにいた。
 すると、

「勝ち目がないだぁ? 俺達のことみくびってやがんな?」

 常連客の一人がクリストフを睨んでそう声を張り上げた。手には彼の剣が握られており、威嚇するように剣先をクリストフに向け、それから魔物へ向けた。

「騎士なんかにいい格好させて堪るか」
「俺達の方がよっぽど実戦で死線をくぐり抜けてんだ」

 賛同するように、そこかしこから次々に声が上がった。冒険者達がそれぞれの得物を掲げている。
 夜更けの時間帯が功を奏した。この時間は、魔物との戦闘に慣れた腕自慢の手練れが多いのだ。危険な状況に変わりはない。けれど、クリストフにとってこれ以上ないほど心強い味方になるだろう。
 いつもの陽気で優しい客達がまるで別人のようにひりつく殺気を放っている姿に、僕は胸が震えてきて、頭を下げて声の限り叫んだ。

「ありがとう! 僕が助けを呼んできます。だから、皆さんもどうかご無事で!」

 冒険者達の、「応!」という声が酒場の中に轟いた。クリストフは呆れたように少し笑って、肩を竦めていた。
 突然響いた彼らの声に驚いたのか、それまで動かなかった先頭のトロフォティグルが突然跳ねた。僕の目では追い切れないほどの速さで、クリストフめがけて飛びかかってくる。

「君は行け!」

 クリストフは僕の体を突き飛ばした。転びそうになりながら振り返ると、襲いかかるトロフォティグルの前足をクリストフが剣で薙ぎ払い、切り落とされた敵の指の何本かが飛び散りながら灰となって消えた。耳をつんざくような魔物の悲鳴にも怯まず、クリストフが次の攻撃を繰り出している。冒険者達も二頭目、三頭目のトロフォティグルへ向かって駆け出した。

 怖い。凄く怖い。今にも魔物の兇暴な攻撃が、誰かに致命傷を与えそうで怖い。
 でも、僕は僕のすべきことをしなければ。それが彼らの戦いを助けることにもなるんだ。
 僕は動けなくなっている人を助けて一緒に裏口を目指した。

 激しい戦闘が繰り広げられ、トロフォティグルがその鋭い爪を振り下ろす度に轟音が鳴り響き、壁と言わず床と言わず絶えず大きく揺れる。しかし、三頭の大きなトロフォティグルは狭い店の中では思うように動けないようで、素早く動き回る冒険者達を攻撃しあぐねている様子だった。
 加護の強い人間を好んで襲うという魔物の習性からか、攻撃の多くがクリストフに集中していることも幸いした。クリストフは敢えて標的となり、剣技と火の加護の力を組み合わせた無駄のない身のこなしで攻撃を躱す。そして敵の背後から冒険者達が狙うという連携が取れていた。
 気が付けば、満身創痍のトロフォティグルに対して、クリストフ達は大きな怪我もなく、士気は益々上がっているようだ。

 僕は揺れに足を取られながらも歩けない者には肩を貸し、声を掛け合いながら、戦闘に参加できない全ての客を調理場の奥にある勝手口へと案内し終えた。先に出て行った客達は、僕がお願いするまでもなくそれぞれが救援を呼びに方々へ走って行った。クリストフが言ったように、誰もが自分にできることをしようと頑張っているのだ。

 最後の一人が裏口から出て行ったのを見送り、逃げ遅れた人はいないだろうかと店の中を見回して、はっと息を呑んだ。怪しい集団、例の三人組が店の隅、崩れた壁の影に固まっていた。粉塵で不明瞭な視界の中目を凝らすと、一人の半身が瓦礫の下に埋まっており、それを助けようとしているようだ。
 僕は一瞬躊躇した。クリストフから、彼らが城下を混乱に陥れる為に魔物を手引きしていると聞いた。そうであれば、この惨状は彼らが招いたことではないか。彼らを助ける必要が本当にあるのだろうか。

 僕の目の前には外に続く勝手口がある。そこから夜の涼やかな風が場違いにそよいできて、僕のフードを揺らした。一方で、振り返れば傷を負いより獰猛になった魔物が雄叫びを上げ暴れ回っている。三人組を助けるには、あの中へ立ち戻らねばならない。そこまでする価値があるのだろうか。

 僕は迷って、迷って。そして駆け出した。暴れ回る魔物の方へ。
 別に慈悲心なんて高尚なものじゃない。ただ、怖かったのだ。僕が人の価値を決め、命を選択してしまうことが。
 僕は何もできない。何も分からない。自分がどうしたいのか、どう生きるべきなのか。忌人である自分とは何なのかすら考えてこなかった。そんな僕が、自分の判断で誰かを生きるべきかそうでないかと決めるなんてできなかったのだ。
 だから僕は、彼らを助けることにした。それが今、僕にできることだと思えたから。
感想 21

あなたにおすすめの小説

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

贖罪公爵長男とのんきな俺

侑希
BL
異世界転生したら子爵家に生まれたけれど自分以外一家全滅という惨事に見舞われたレオン。 貴族生活に恐れ慄いたレオンは自分を死んだことにして平民のリオとして生きることにした。 一方公爵家の長男であるフレドリックは当時流行っていた児童小説の影響で、公爵家に身を寄せていたレオンにひどい言葉をぶつけてしまう。その後すぐにレオンが死んだと知らされたフレドリックは、以降十年、ひたすらそのことを悔いて生活していた。 そして十年後、二人はフレドリックとリオとして再会することになる。   ・フレドリック視点は重め、レオン及びリオ視点は軽め ・異世界転生がちょいちょい発生する世界。色々な世界の色々な時代からの転生者の影響で文明が若干ちぐはぐ。 ・世界観ふんわり 細かいことは気にしないで読んでください。 ・CP固定・ご都合主義・ハピエン ・他サイト掲載予定あり

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

【完結。一気読みできます!】悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。 本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる…… そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。 いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか? そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。 ……いや、違う! そうじゃない!! 悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!! 

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!