モブがモブであるために

文字の大きさ
11 / 47

9.風紀委員長の情緒ハリケーン

しおりを挟む
 笑いは収まったようで、人形めいた美しさに戻った篁先輩だったが、俺には最初と同じようには見えなかった。どことなく困っているような焦りを感じる。それはきっと、自分が遅れるからじゃなくて俺に授業をサボらせたくないという思いからなんだろう。
 この人なら誠意を持って話せばわかってくれるかもしれない。あれほど躊躇していたのが嘘のように、するりと言葉が口をついて出た。

「俺は生徒会の人と親しくならなきゃいけなくて。朝校門を登れば会えると聞いたんですけど」

 なんて言えば正しく伝わるのか不安で、そこまで言ってあちこちに彷徨わせていた視線を、ふと篁先輩に合わせればそこには正真正銘の鬼がいた。さっきまでの好青年はどこにかき消えたのかと何度も目を瞬いたが、深く刻まれた眉間の皺と吊り上がった目尻、反比例して下がった口角。篁先輩に鬼が憑依していた。

「生徒会……だと?」
「ひぃっ」

 思わず情けない悲鳴を漏らしてしまった俺を誰が責められようか。机が軋むほど強く拳を打ち付け、唸るような低い声で篁先輩が呟いた。怒りにわななく篁先輩の体。据わった視線は床の一点を見つめたままだ。

「どいつもこいつも生徒会生徒会と……。あいつらのせいで我々がどれだけ苦労をしていると思っているのだ。第一にファンだか親衛隊だか知らないが小さな衝突は日常茶飯事、第二に役員の気を引こうとするあまり生徒の風紀は乱れ、由緒正しきビーエル学園の名を汚すばかり。そして第三に当の生徒会の奴らは我関せずでトラブルは激化の一途だ。生徒会こそがこの学園のガンであり諸悪の根源。君もあの忌むべき組織の信奉者だったのか!」

 口を挟む隙もなく地を這うような声で呪いの言葉を吐き切ると、篁先輩が俺を睨みつけた。本当に、本当に尿意を感じてない時でよかった……!
 あらぬ疑いをかけられているとわかってはいるが、否定しようにも恐怖で体も口も動かない。一体篁先輩はどうしてしまったんだ。生徒会に親でも殺されたのかこの人は。篁先輩の情緒がやばい。

「君の目当てはどいつだ。会計の城之内か、書記の藤堂か、庶務の逢坂兄弟か。まさか会長の九条ではあるまいな?」
「ちがっ、俺はただ副会長に……」

 じりじりと間合いを詰められて耳元で怨嗟の声を聞き、咄嗟に言い返してしまった。俺の迂闊者め! これでは副会長のファンだと思われてしまう。きっとさらなる怒りを買ってしまう、と思わず瞑っていた目を恐る恐る開くと、そこには憑き物が落ちた篁先輩がいた。静かな微笑みすら浮かべている。今度は鬼がどこかにかき消えた。というか篁先輩の情緒が本気でやばいな!?

「そういうことか、すまない。早とちりをした」

 対面の椅子に静かに座り直した篁先輩が小さく頭を下げた。俺は呆然とその姿を見る。地雷が不明なら解除スイッチも不明で困惑しかない。

「君は、長らく空席だった副会長に就き、腐った生徒会を内部から変えるという志を抱いた、つまり私の同志というわけだな」

 え、待って? いろんな意味で待って?
 副会長っていないの!? それじゃ雪に教えてもらった副会長から落とす作戦はどうなる。初手を失った場合どうすればいいんだ。監禁バッドエンドは絶対嫌だ!
 それと篁先輩が完全に共闘者の眼差しで俺を嬉しそうに見つめているけど、それも待って? 確かに副会長を取っ掛かりに生徒会の攻略を狙っていたけど、篁先輩の考えていることとはまったくかすりもしてないと思います!

「いや、ちが」
「しかし君が生徒会に入るのは一抹の不安を感じる」
「だから、あの」
「第一に生徒会の奴らは狡猾だ。いくら君が使命を胸に抱いていてもミイラ取りがミイラになることもあるだろう。第二に奴らは節操がない。君の貞操だって脅かされる危険がある。そして第三に私は君を憎からず思い始めたところだ。みすみす悪の巣窟に飛び込ませるのは心配だ」

 わずかに寄せられた眉は切なげで、熱い手のひらが俺の肩に触れてどきりとはしたけど今はそれどころじゃない。ねぇ、話聞いて? お願いします。

「篁先輩、俺は別に」
「そうだ、生徒会よりも風紀委員に入ればいい。ちょうど副委員長の席が空いている。物怖じせず私に意見できる君こそ私の右腕にふさわしい。これは名案だ」

 だから! 人の話を聞いてくれよ!
 さっきから口だけパクパク動かしてる俺は鯉か。いいから喋らせてくれ、なんなんだこの人は。地雷特大だわ、情緒振り切ってるわ、なによりめんっっどくせぇ!
 どこをどうして俺が風紀に入ることになった。モブ街道まっしぐらの俺に務まるわけがないだろう。

「いいですか、篁せん」
「私と共にビーエル学園を浄化しようではないか」

 一向に俺の発言を許さない傍若無人な篁先輩が立ち上がって右手を差し出してきたところで、始業のチャイムが無慈悲に鳴り響いた。タイムアップだ。

「少し考えさせてください……」

 心がポッキリと折れた俺は、力なく握手を交わしたのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。

天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!? 学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。 ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。 智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。 「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」 無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。 住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!

イケメンな先輩に猫のようだと可愛がられています。

ゆう
BL
八代秋(10月12日) 高校一年生 15歳 美術部 真面目な方 感情が乏しい 普通 独特な絵 短い癖っ毛の黒髪に黒目 七星礼矢(1月1日) 高校三年生 17歳 帰宅部 チャラい イケメン 広く浅く 主人公に対してストーカー気質 サラサラの黒髪に黒目

【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️

俺の妹は転生者〜勇者になりたくない俺が世界最強勇者になっていた。逆ハーレム(男×男)も出来ていた〜

陽七 葵
BL
 主人公オリヴァーの妹ノエルは五歳の時に前世の記憶を思い出す。  この世界はノエルの知り得る世界ではなかったが、ピンク髪で光魔法が使えるオリヴァーのことを、きっとこの世界の『主人公』だ。『勇者』になるべきだと主張した。  そして一番の問題はノエルがBL好きだということ。ノエルはオリヴァーと幼馴染(男)の関係を恋愛関係だと勘違い。勘違いは勘違いを生みノエルの頭の中はどんどんバラの世界に……。ノエルの餌食になった幼馴染や訳あり王子達をも巻き込みながらいざ、冒険の旅へと出発!     ノエルの絵は周囲に誤解を生むし、転生者ならではの知識……はあまり活かされないが、何故かノエルの言うことは全て現実に……。  友情から始まった恋。終始BLの危機が待ち受けているオリヴァー。はたしてその貞操は守られるのか!?  オリヴァーの冒険、そして逆ハーレムの行く末はいかに……異世界転生に巻き込まれた、コメディ&BL満載成り上がりファンタジーどうぞ宜しくお願いします。 ※初めの方は冒険メインなところが多いですが、第5章辺りからBL一気にきます。最後はBLてんこ盛りです※

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

処理中です...